幕間 鎌倉武士のいる日常
まずは、ブクマ3,094件及び、8,796ptを達成したことをご報告します。
本当にありがとうございます!今後とも『鎌倉武士は異世界へ』を宜しく御願い致します!
さて、章についてですが、矢三郎は『異世界を知る』という第二章のテーマをクリアしました。
なので、今回からしばらくは「幕間」という形でキャラクターと世界観のより深い説明をし、異世界に転移、異世界を知る、に続く異世界での鎌倉武士的第三フェイズについて描く第三章をスタートしようと思います。
それでは領主を殺してその領地を乗っ取った矢三郎と新興武士団の日常をお送りしようと思います!それではスタート!
「者ども、続けぇえぇえええぃ!!!!!
夜討ちと朝駆けは速さが要じゃあぁぁあ!!!!!」
「あーっ!ヤサブローがまた一人で突っ込んだ!」
「わああああッ!矢三郎サンを死なせるな! 今死なれたら俺ら共犯者全員共倒れだぞッー! アバ一緒に来い!行くぞ!」
「言われなくても!」
「いやはや、若い連中は元気じゃのう… ヤサブロウ殿ならば大丈夫じゃろうに」
「まあ盗賊相手に遅れを取る人では無いですし、やりたいことをやりたいぶんだけやれたら矢三郎さんも嬉しいと思いますよ。
エルフならあんなに楽しそうに人は殺せませんし、とてもいいことだと思います。」
「感想がおかしい…」
何だかんだで矢三郎をこの世界で一番理解しているのは新興辺境武士団 in 異世界内で矢三郎の「家子」の位置にある『赤角』パーティの面々であった。寧ろ鎌倉武士の家子と違って急に殺しに来ないだけもっと信用できるかもしれない。
「かかれぇ!矢三郎様に遅ぐれをとっちゃなんねーど!シェルバ村の男ン根性ば見せるだァッ!」
「さ〜あテメーら、こないだまで村人だった連中に負けンじゃねーぞッ!
駆けろ!駆けろ!駆けろ! 」
腰抜けパーティ長ことアゼルハートの叱咤で我に返った二つのグループの頭がそれぞれ、矢三郎殿を追え!と命令を下す。
村人たちを老体に鞭打って指揮するのは異世界田舎の農夫おじさんから矢三郎に名字をもらってイケイケ中世ジャパニーズ農民おじさんにジョブチェンジしたシェルバ村 村長ジョエル・芋畑、
一方の鎌倉武士:タイプ 郎党への進化が止まらない冒険者たちの指揮官はなし崩し的に冒険者勢のリーダー格に収まった独り言が多いハゲの鉄板階級冒険者 ウォルトフだ。
…やはり両者には指揮官としての経験に差があるようで、経験値が上のウォルトフは冒険者たちの作業能率をアップさせる為にと鎌倉武士のことを中心にした、これ以上ないほど効く飴と鞭を振るう。
「…ちなみにだ!大将のアタマを殺ったやつにゃあ、我らが領主様 矢三郎の旦那が褒美を約束して下さってる! ギルドからパクってきた特上酒だ!
…いつも通り 逃げたやつは殺されるからそのつもりでな! 逃げてると間違われて殺されたくなきゃ、死ぬ気で戦え冒険者ども!」
飴と鞭どっちが効いたのかは分からないが、農民たちと冒険者たちが競い合うように盗賊たちの早朝のキャンプ地になだれ込み、無防備な盗賊団員を一方的に仕留めていく。
「はっはっは、多少は形になってきたではないか」
その阿鼻叫喚の様相を笑いながら観察するは、首無し死体をもしゃもしゃする魔狼の背に跨った男、野営地中心部の大天幕前に居た、
…当然と言うべきか、出来たてホヤホヤホカホカの生首を携えた白石矢三郎である。
…一応は経緯を話しておこう。
事は単純、
いつも通り 斥候として『赤角』パーティの北人の子供 アバとシェルバ村の狩人を遣って盗賊のキャンプ地を割り出しら朝駆けしよう!と早朝に現地到着、
やはりというべきか、我らが鎌倉武士、矢三郎が一人 先駆けをやらかし、何人か見張りを仕留めつつ、テンション上がって獣の如くうおおおおおと咆哮しながら大将天幕に騎狼突撃、
その魔物か何かと聞き紛う様な鎌倉武士めいた咆哮に反応してテントから件の男が出てきたところを狼上から三人張りの強弓で頸部を射抜いた。
すぐさま鎌倉武士は下狼し、手早く盗賊団の頭の頭を刎ね、いつもの如く鞍に吊るして再び魔狼に跨り、物欲しそうだった自分の魔狼に別にいらない首無しの体のほうを食わせた…
と、言う ごくごく普通に当時の日本列島ではよく見られた鎌倉武士の襲撃行動に異世界人と魔狼が加わっただけである。
ここ最近、矢三郎率いる新興辺境武士団 in 異世界は盗賊狩りを主な訓練と小銭・生首稼ぎの手段としている。
盗賊団の存在とそれを一掃しようとする武士団の関係の発端には、異世界に共通する辺境事情と鎌倉武士、村人、冒険者の利害の一致があった。
今の異世界は『大帝国』崩壊後のありとあらゆるものが退化した時代であり、多くの辺境地域では歴史的理由から農民の戦闘訓練と武装が禁じられていた為 自衛能力は冒険者に頼らざるを得ないほどに悲惨で、ド田舎のシェルバ村近郊だけで五つもの盗賊団が存在していた。
白石一族の鎌倉武士的価値観に沿えば、盗賊などは自分の領内で盗みや殺しを働く狼藉者であり、断じて許すことなどできない。
領内での殺し・盗み・旅人殺しは領主の特権なのだから
鎌倉武士 白石矢三郎経久は盗賊団を族滅ならぬ団滅して彼らの生態的ニッチを奪い、普段通りに街道に野伏して通りかかった旅人を殺して身ぐるみ剥いだり行商人を襲ったりする普通の鎌倉武士生活をいざ送らん、という私的な目的と、盗賊を狩るは、村人(領民)や冒険者(郎党)にも訓練に丁度よかろう、殺しは楽しいのぅ と盗賊狩りを超積極的に行い、村人・冒険者にも推進した。
そして村人たちは、自分たちの安全の為に矢三郎が一肌脱いでくれているのだと勝手に勘違いして大感激し、元々彼らの中でヤバいほど高かった矢三郎の株がメーター振り切れるレベルで爆上がりし、毎回戦意MAXで盗賊団に突っ込んでいった。
そして矢三郎への忠誠心と言うより畏怖とノリで従っている大多数の冒険者たちにとっては元々魔物狩りと同じく盗賊狩りは彼らの生業であり、慣れない農作業と詳細不明の鎌倉武士による郎党化計画がキツ過ぎて死にかけていたので、いつも通りただ殺すだけで済む盗賊団狩りは咽び泣く勢いで喜んで殺った。
そんな九割形 鎌倉武士のせいで 常時島津の退き口の半分ぐらいに士気が高く、三分の二はプロの戦闘員である百八十人 (但し多くの襲撃では矢三郎の意向で半分程の人数) の武士団員が、平均的鎌倉武士の倫理観と武力を持つ、棟梁であるが故、指揮官の経験も豊富な矢三郎の指揮下で夜中や早朝に襲いかかってくるのだから、殆どは統率のない食い詰め者の集まりでしかない盗賊団は毎回毎回 団滅されていた。
矢三郎に気に入られてスカウトされる稀有な盗賊でもいない限りは完全に一人残らず団滅させられる盗賊団と比べ、新興武士団では冒険者に死人は出ず、村人の中からは流れ矢や近接戦で死者が数名出た。それによって村人たちが我に返ってタダの農民に戻ろうとする…なんてことは無く、
急速に中世ジャパニーズ農民化していた彼らの士気はその程度では下がらなかった。
そして、『赤角』パーティメンバーで元々無口な上に鎌倉武士に押されて存在感が薄くなっている精霊遣いのササラが居たことも大きかった。
矢三郎の目から見たらよく分からなかったが。
この鬼世には何やら精霊というものがいるらしく、そのもののけがひょいひょいと冒険者らの傷を治すのだが、俺にはさっぱり効かぬ。
しかし一方でぽーしょんなる傷薬は気味が悪いほどすぐ綺麗さっぱりと傷が塞がる故、重用しようぞ…
…などとぼんやり考えながら時々逃げてくる有象無象の盗賊を切り捨てていたら、五十人規模の盗賊団の団滅が大将首を早々に矢三郎に捕られた助けもあってかもう終わったらしく、勝ち戦の興奮に酔いしれる村人達と盗賊の死体から装身具や持ち物を漁る冒険者どもの中に矢三郎が魔狼で飛び込み、ゴツくてデカい愛用の弓を天に振り上げ、勝鬨を上げる。
…そんな、ごくごく普通の鎌倉武士の日常、異世界辺境の新興武士団員の村人たちと冒険者にとっては鎌倉武士のいる新たなる日常は、こうして自分たちの中の鎌倉武士度をどんどん上げながら過ぎていくのであった。
ーーーーー
…一方、今は矢三郎との接点がないものの、ゴブリンの魔王 アルファと並ぶほどに鎌倉武士との奇妙な運命を持つ『骨無し』と呼ばれる一人の北人、
ある英雄の敵討ちと侵略の為集った『大異教徒軍』の総帥、 系譜上では知識神の曾孫であるが、航海術に長けた最北の脳筋海賊民族の北人たちからはその深謀遠慮と人望から現世に現れた知識神の化身であろうと まったくの本気で信じられている件の英雄の出来息子、
そして、この世界の魔族の在り方を大きく変える緑色の皮膚の風変わりな魔王…
その二人もまた、鎌倉武士と時を同じくして動き出していた。
鎌倉武士とゴブリンとヴァイキングを戦わせてみたいな、というのが本作を思いついた理由の一つだっだりします
北人たちは第十八話 「鎌倉武士、異世界にて三大欲求の一つを強く所望す」https://ncode.syosetu.com/n4136er/20/ にて一度だけ登場している他、度々 異世界人の会話にも登場して伏線を張っています。
『骨無し』のモデルはヴァイキングに少し詳しい方なら分かるかもしれません。
いっぱい頂いた感想は時間がある時に折を見て返信したいと思うので、返信の遅れには御容赦を。
厳しいご意見・暖かいご感想、 表記ミスのご報告などが作者の糧になります。ワクワクしながらお待ちしております。