第二十二話 矢三郎のチート(?) 《前編》
大雨・地震・大雨と、日本列島が我々を殺しに来ている今日この頃ですが、皆様お元気・ご無事でしょうか?
どうも読者の皆様、お久しぶりです!
数ヶ月前になりますが、『空手小公子シリーズ』などを描かれ、作者としては月刊少年シリウスを買ったらはたらく細胞より先に読むほど好きな、『ライドンキング』を現在絶賛連載中の馬場康誌先生にTwitterにて本作をお褒め頂いていたと知人から知り、感動に打ち震えている作者で御座います。
前回までのあらすじ
腕試しにオーク狩りに来た我らが鎌倉武士 白石矢三郎経久! 三十のオークと魔狼に囲まれるも、帰り血ドロドロになって生還! がははと生首の数珠を掲げる!一方、『魔王の復活』『魔王になったゴブリン、アルファには息子がいる』など重要な情報をゲロってしまった残念オークは矢三郎を見るなり硬直し、「アンタ…一体ッ…なんだ!」と問うた!
矢三郎を見て硬直した理由は一体何なのか!
そして二十話を超えてやっとこさ異世界テンプレメニューの一つ、『チート』がテンプレをたったの一つもかすっていない蛮族系主人公、矢三郎にあるかが判明する!?
皆様 お待ちかねの異世界蛮族絵巻、第二十二話御開帳!
「…アンタ、一体…ッ 何だ?」
オークが唐突に矢三郎の正体を問うた。
場に緊張が走る。捕虜が鎌倉武士を刺激したのだから当然である。もののふの発し始めた気配に天然エルフを除いたパーティの面々は首の後ろの毛をチリチリと逆立て、 矢三郎を畏れる。
まだ短い付き合いではあるが彼らはこの鎌倉武士の危険性はこちらの世界の誰よりも知っている。
次の瞬間 何をしでかすか彼らでは予想できないし、防げないことも。 …しかし、件の矢三郎は表情を変えず、沈黙を保っている。不気味な程に。
一方のオークは憑かれたように矢三郎の返り血に染まった顔面を凝視し、緑の顔を真っ青にして脂汗をダラダラ流して信じられないものを見たという様相でブツブツうわ言を吐きはじめる。
「ア、アンタ 光のクソ神どもの加護を受けてねえ… …だが、俺ら闇の眷属でもねえ! …そもそも、魔力の流れが見えねえ!アンタみたいなのは見たことがねえ!何なんだ!アンタ!」
彼が幽霊を見たような様相なのは、隣にいた仲間数人の頭を馬上からでっかい弓で飛ばしたごっつい矢で吹き飛ばした蛮族を恐怖から直視出来なかったが、(どんなやつなんだろう…?)と初めてしっかりと矢三郎を見た時 気づいたありえない事実のせいで激しく錯乱した精神を安定させようとする防衛反応である。
彼らことオークは無垢のエルフから上古の魔王に戦闘用種族として咼められた時、魂を感知できる特殊な視覚を仕込まれている。神々の加護を受けた人間、エルフ、ドワーフなどの光側の種族の魂は白く、彼らにとっては自分たちと真逆の忌々しい光に輝き、同胞である闇の眷属の魂は黑く輝く。そしてそれらの様々な魂は彼らの通常の視覚では現実の肉体に重なって見える。
しかし、矢三郎にはそれが無い。
つまり、神々の加護も無く、どちら側の加護を受けているかを示す魂の輝きも感知できないのだ。
それに加え、オークの目には世界の魔力の流れが見えている。
これは無垢のエルフから受け継いだ能力であり、魔力の濃度や術の発動前の魔力の流れや渦を見ることが出来る。(しかしそれを戦闘に用いるだけの能力が脳筋のオークどもにあるかは別である)
その彼らの目を持ってして矢三郎を見ると、彼と彼の武器、装具の一切は異世界では全ての人型種族及び全ての動物、更には植物や石や土に至るまでが様々な濃度で持っている世界を構成する水や空気と同等の要素である魔力を一切持っていない。
なんと、我々と時代は違うが同世界の出身者である野蛮なる鎌倉武士、白石矢三郎経久は異世界の知的生物なら無条件に受けているはずの光と闇の神々の何れからも加護も受けておらず、魂も感知されず、その上 異世界産の物質なら当然持っている魔力に関しては空気や石や土ほどにさえも、一切合切持ち合わせていないのである。
囚われた若きオークからすれば 鎌倉武士はとんでもなく恐ろしいであろう。
単にその野蛮さと強靭さと見た目だけで十分怖いというのはさておき、何しろ生まれた時から世界と肉体を構成する当然の要素として見えていた魂・魔力が一切無いのに意思の疎通が一応は可能であるのだ。例えるならば首より上だけ見えている透明人間のような感じだろうか。
そりゃビビると言うものである。
魂・魔力・神からの加護を一切持たないということがどういうことか、矢三郎はまだ知らない。そもそも鎌倉武士なのでオークの話の十分の一もわかっていない。
そして前述の三つを持っていなかった存在はこの世界にはこれまでいなかった。当然あるものを『持っていない』もののふの出現がどういう結果を招くのか、それはまだ誰にもわからない。
しかし、白石矢三郎経久は鎌倉武士である。
これだけは、決して、変わることはないのだ。
現に彼は今も鎌倉武士的感覚で生きている。その脳味噌にはその場のノリと二手三手先まで考えた狡猾さが共存し、やはりノリと狡猾さを持って行動を開始する。
「…俺が何か、じゃと? …ほう、この俺を見るだに畏れぬとは関心な鬼よ。…良かろう!今の俺は機嫌が良い故、教えてやる!
我こそは武名名高き白石家が当主、白石矢三郎経久也。
…否、この鬼世では只の白石がもののふよ。」
オークにとって幸運なことに、今の矢三郎はかなり機嫌がいい。
田舎者の矢三郎からすれば 京でやんごとなき身分の方々や軍記物語の登場人物に仕えて鬼を討ち、赴任先では水龍も鎮め、その鎮めた水龍を氏神とした、末裔にとってはまさに神にも等しい家祖も、以降の当主たちも、当然 尊敬する祖父や父も成さなかった三十を超える大量の大鬼殺しを成したという達成感からである。
もし普段の矢三郎であったなら、若きオークが「アンタ、一体…ッ 何だ?」と聞いた時に
「…俺が何か、じゃと? …その口振りは小面憎し。殺す」で首を刎ねられ 終わっていただろう。
しかし 今の矢三郎は父祖の成しえなかったことを成したということで、非常に機嫌が良い。かなり貴重な状態である。
…この利を活かせば、哀れなオークにも生き延びる可能性があるかもしれない。
「…そ、そうか、シ、シライシヤサブローさんよぉ、アンタが何だか知らねーし いろんな意味でおっかねーが、ンなこたァ どーでもいい
…単刀直入に聞くがよ、俺をどうするつもりだ?」
何気ない一言ではあるが、もしオークがここで一つドジを踏んでいたら彼は数秒以内に鎌倉武士の太刀で首と身体に両断されていた。彼が矢三郎のフルネームを一度で覚えきれず、『白石矢三郎』というところまでしか覚えられなかったことが幸いした。
例えば信長や秀吉などと同じ、『経久』という諱をオークが呼んでしまったなら、いくら上機嫌とはいえ鎌倉武士にとってあまりの無礼にブチ切れた矢三郎に首を刎ね飛ばされていた。
文字通り、オークの命は首の皮一枚繋がった。
「…うむ、俺が望むものを渡さば お主をお主の主人への使いとして命を助けてやらんこともない」
「の、望むもの?何だよ?」
凄まじい剛毛であった祖父以前の世代からの遺伝であり、結構顔もヒゲも濃い体質の矢三郎は五日剃っていない無精髭をジョリジョリ撫ぜながら、
「うむ、先程 殺し損ねたのがおってな… 欲しいのだ。お主と同じ具足をまとった連中が居ったのだから、彼奴らの輩であるお主も呼べるであろう?」
そして我らが鎌倉武士、矢三郎は異世界の住人からすれば狂ってるとしか思えない要求を口にした。
矢三郎のチート : 相手の目を見れば負の感情を読み取れる(殺人だらけの鎌倉武士生活が生み出した天然物 & 鎌倉武士的フィーリングなので誤差あり) + 肉体や装具が魔力の存在する異世界の物質で構成されていないので、魔力では干渉出来ない。あと、異世界の出身ではないので神々の加護は受けていない。
チートと題しましたが、ホントにチートか、コレ…?
本日と明日とで掌編も含め、あと四話投稿予定です。この数話で物語が大きく動きます!こうご期待!
誤字脱字、不自然な文等あれば教えて頂けると幸いです。