二十一話 オーク狩りと狼乗り 《後編》
どうも、読者の皆様お久しぶりです!
鎌倉武士は異世界へ!二十二話、やって参りました!
〜 前回までのあらすじ 〜
何故か異世界転移した鎌倉武士、矢三郎! なんやかんやで殺しまくって冒険者のパーティに加わり、知らないうちに魔王の誕生に加担、転移して数日で銀板階級冒険者を惨殺して成り代わり、辺境で冒険者の身分を手に入れた!
しかし、それでも矢三郎は不満であった!
「雑魚ばっかでつまんね!もっと強い敵とやって鍛錬しないと族滅されてしまうではないかッ!本能的にそう感じる!…何? オークなる鬼が強いじゃと?よし殺す!」
そんな彼が儲けたいチキンなパーティ長のちっちゃい思惑も絡み、辺境から移動に一日かけて行ったド辺境の村!…の近くの街道でオークを蹴散らし、調子に乗って一人で追撃した矢三郎!三十のオークと大量の魔狼に囲まれてしまったが、矢三郎には死ぬ気などサラサラなく、やはり生きて帰ってきたようだ!なんか冒険者一行を怒鳴りつけつつ茂みから現れた!
第二十二話 御開帳!どうぞ御照覧あれ!
「お主ら、伏兵の警戒もせずに集もうて何をしておる!!!!!」
青い、否、斑に飛び散ったタールのような色と質感の血で青黒く染まった大鎧で体を鎧った、もし今が逢魔ヶ刻の夕闇であれば間違いなく妖と見紛う凶相の田舎もののふが冒険者たちの不注意を怒鳴りつけて叱り、茂みからずんずん歩いてくる。
鎌倉武士に限らず戦国以前の日本人という人種は一族郎党以外の人間の命など全く意に介さず、死んだところで全く動揺せず数秒でスパッと忘れるが、矢三郎にとってパーティの一行は『この世界を知り、適応する為』大切な存在であり、死なれては少し困るのだ。
故に怒っている。身を案じている故ではなく、単なる合理的判断である。(因みに『ずんずん歩いてくる』とあるが、馬は魔狼に殺されてしまったので今の矢三郎は騎馬武者でありながら徒歩であり、馬がないことも彼を苛立たせている。)
「あっ!ヤサブロー!うわっ!凄い返り血! 今さ!イヅマのじいさんがコイツらがなんでこんな田舎に来たのか喋らせようとして…そうそう!話してる間ずーっと首絞めて…」
一方そんな損得勘定で人間関係を選択・構築するドス黒いオトナの思惑に気づかぬ子供であるパーティの斥候で追跡者のアバは矢三郎に気づくなり、黒い返り血でドロッドロのもののふに駆け寄り、決して大柄ではない矢三郎を見上げて身振り手振りを交えながら言葉過剰に状況を説明する。テンションと声が高い。
…彼ら二人、鎌倉武士と北人、蛮族同士で馬が合うのか 何と、この北人の子供は野蛮で凶暴無比なもののふに懐いているのだ。普段はかなり寡黙であり、追跡の報告の時以外は二言以上喋らない等々 かなりのコミュ障であるが、懐いている矢三郎といる時だけ、(あくまで普段と比べて)やたらテンションが高くなり、饒舌になる。
一方の矢三郎も父が下級貴族の娘や歩き巫女や遊女や通りすがりの女など諸々をアブダクションし、手篭めにして産ませまくった名前すら覚えきれていない下の弟妹たちや、族滅した他家から攫ってきた見込みがありそうな子供らを親戚の兄ちゃん並みにはかわいがってやっていたので明らかに元服前なのに追跡者として有能で鎌倉武士の人生訓、「弓馬の道」の半分を占める弓の腕もそこそこなアバのことはある程度認めていて、親戚の兄ちゃんぐらいには優しくしてやる。素晴らしいことである。徳が高い。流石は地頭である。
平均的鎌倉武士の中にも子供に少しは優しくしてやる個体もいるのだ。 むしゃくしゃした勢いで乞食の子供を太刀で切りつけたりするような武士も居たりするが、色々カオスでバイオレンスな鎌倉武士、否、中世日本人的にはそれぐらいは誤差の範囲内である。
「ふむ、ふむ、そうか。聞き出せたのなら殺す」
アバの説明を穏やかに聞き終わった子供に優しい系鎌倉武士 矢三郎は囚われのオークをブチ殺すと即決する。平均的鎌倉武士である。
その声にぽけーっとしていた天然エルフ娘が相変わらず周りからワンテンポ遅れて背後に出現した黒い血でドロドロのもののふに気づく。
「うわっ、矢三郎さん!凄い返り血!け、怪我とかは大丈夫なんですか!?」
心配してオロオロし出すエルフ娘であるが、ペルの方に向き直った返り血でドロドロの当事者はほかのメンバーのドン引きに気づく素振りも見せずのんびりと答える。
「おう、歩き巫女か。 …ハッ、当然無事に決まっておろう!白石の家子が鬼風情に負けるものか! 彼奴ら、我に近づく前に須らく そっ首射抜き、近づくを許さば太刀で斬り捨てるか、弓で殴り殺してくれたわ!」
矢三郎はところどころにオークの黒い血と脳漿がこびりついた愛用の和弓を掲げ、白い歯を見せて がっはっはと笑う。太刀はさておき撲殺できる弓とは恐ろしい。鎌倉武士の豪腕と全盛期の武骨な和弓の成せる技である。
「はっはっは、今日は善き日よ! 家祖様に勝る数の鬼を屠り、化け狼を殺すとは!彼の剛勇無比の日向太郎光影様とて三十の鬼を討ち奉られたことはあるまい!」
「何ィ!?三十ゥ!?」
家祖に勝てて御満悦の矢三郎の言葉に驚いたのはオーク、先刻 隣にいたダチの頭をバカでかい弓から放ったごっつい矢で吹き飛ばした野蛮人の姿にトラウマが刺激され、目を合わせないように下を向いてフリーズ (血塗れの眼光炯炯とす鎌倉武士を見て泣き喚かなかっただけでも立派だ もしそうしていたら煩がった矢三郎に切り捨てられていた) 状態であったものの、『三十の鬼』という単語に再起動した、今の流れでは殺されるしかない、囚われのオークであった。
「三十だと!?お頭直属の精鋭も入れてか!? ンなもん…一人で斃せるはずがねえ!」
驚き目を剥いて叫ぶオークに矢三郎がギョロリと目を向ける。蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなるオークだが、矢三郎はオークを殺さず、やや感心したように語る。
「ほう!この兜首どもはお主らの棟梁の直属であったか。道理で手強かったぞ」
矢三郎は兜首のオークの強さを賞賛し、自然な流れで数珠状のそれを片手でひょいと持ち上げる
「「「「「うわッ!」」」」」
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矢三郎の「お主ら、伏兵の警戒もせず集もうて何をしておる!」という叱責に「それもそうだ、不用心だった」と思い、短弓に矢を番え、周りを警戒していた北人の子、アバは「「「「「うわッ!」」」」」」という仲間たちとオークの悲鳴とに素早く矢三郎とパーティメンバーがいる方に振り向く。
そこでは、
真っ黒な、タールのような魔族の返り血に塗れた青鎧と鹿皮羽織のもののふがオークの生首となんかどす黒い血が滴るズダ袋の連なった肉々しい物体を「がっはっはっは!」と笑いながら掲げ持っていた。
その禍々しいオーラすら見えてきそうな衝撃的光景に普段冷静なアバも「うわッ!」と言った。
件の物体、矢三郎が族滅した家の当主の首が如く掲げ持ちたる、
『オークの生首と血の滲んだズダ袋の連なったドス黒く肉々しい物体』
…とは、単に矢三郎の創意工夫の結果であった。
詳細に説明すると、兜首ということでとりあえず捥いできた断末魔の形相のオークの生首及び、ギルドの作法に従って切り取った耳を詰めたズダ袋 (無作法極まる田舎の鎌倉武士であるのに矢三郎は冒険者のやり方に柔軟に適応し、自分で実行している かなりの適応力だ)
今日の殺しで大豊作だった重い生首sを楽に運ぶ為、矢三郎は考えた。矢三郎は脳筋ではないのだ。インテリジェンスがある。工夫もできる。
しばらく考えた末、矢三郎はソリ代わりとして魔狼に噛み殺された愛馬から血塗れの鞍と手網を剥ぎ取り、前述のオークの首より上の部位たちを数珠状に縛り付けるという、画期的な生首移送技術を考え出したのだった!
…しかし、文に基づいて想像して頂ければ分かるだろうが(しない方がいいかもしれないが) 、矢三郎が何の悪意もなく、単に首を運ぶ為に創意工夫した結果 爆誕した物体はビジュアル的にかなりアレであった。
異世界人には刺激が強過ぎた。(ヨーロッパで死体の山築いてた頃のモンゴル人や死体でオブジェを作っていたころの漢人が好みそうな代物と言えば良いだろうか)
加えて、運んでる途中 地面に生首の色んなところが擦れていろんなものが滴り落ちるドロドロの惨事になっていた。
そんな黒い血や目玉や諸々がドバドバ滴るおぞましい物体、そしてそんなグロい物体をナチュラルに見せびらかしてくる鎌倉武士を間近で見たパーティの面々は鎌倉武士からの物体Xのグロさと矢三郎の蛮族ぶりにドン引きし、一方の囚われたオークは仲間の変わり果てた姿と矢三郎のヤバさにドン引きした。
「む!?」
マイナスまで冷えた雰囲気、それに気づいて沈黙を破ったるはまたもや矢三郎である。
生首を庭に飾るぐらい死体に抵抗がない鎌倉武士とて、流石に異世界人たちが自分が手に持っている断末魔の表情で固まってズタズタになったドロドロオーク生首たちにドン引きしていることには気づく。
否、常に身内からの謀反、敵や上司からの族滅の危険がある鎌倉武士なればこそ、人の心の機微に敏感にならなければならないのかもしれない。
事実、家臣でありながら大人の事情を察せなかった源義経は頼朝に殺されているし、一方 蛮族王である源頼朝も後年勝手に官位を受けた(これは義経が殺された原因でもある) 御家人二十四全員の性格・見た目・その他の特徴を事細かに覚えており、それを元に全員を「ガラガラ声の後ろハゲが!形部ってガラかコラ」 「ふわふわ顔でみっともない」 「ネズミ目」 「猫にも劣る」 「生白い顔しやがって」などと一人ずつ名指しでディスっている。
…当然 幕府を開いたやんごとなき身分の身内殺しを伝統とする源氏の方々よりも無教養で野蛮で下賎な矢三郎ではあるが、それでも平均的鎌倉武士の端くれ、ちゃんと人の心の機敏を察する力は持っている。
矢三郎、生首の数珠をどちゃっと投げ捨て、穏やか且つにこやかに(※鎌倉武士比) 冒険者たちに尋ねる。
「パーティ長殿、この白石矢三郎に何ぞ不手際があったかのう?」
「あ、ああ、いや!矢三郎サン、全然何もないッス!そのまんま持って帰ろう!」
矢三郎の猫なで声に恐怖を感じたパーティ長 アゼルハートは慌てて心根と真逆のことを言い、矢三郎を肯定するが、
彼 は 正 し い 。
鎌倉武士に文句を言うなど正気の人間がすることではないのだ。
「…アンタ、一体…ッ何だ?」
…しかし、矢三郎に文句ではないが、思わずその正体を尋ねた存在がいた。
他ならぬ捕えられたオークである。
その言葉に目をギラリと輝かせ、眉にシワを作ったのは鎌倉武士、矢三郎であった。
次回予告!
「アンタ、一体…ッ 何だ?」
囚われた若きオークが矢三郎に発した言葉!その真意とは?
「…俺が何か、じゃと?」
…異世界人から見たら死ぬほどバイオレントでクレイジーな鎌倉武士、矢三郎!オークの言葉にどう反応するのか!?しかし矢三郎は何時でも平常運転だ!鎌倉武士だもの!
次回!矢三郎のちょっとした能力(?)的なものが明らかになるかもしれません!一応伏線張ってるのでぜひとも推理してくださいね!
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そして、読者の皆様に聞いておきたいことがあります。次回、権利的には全く問題が無い大昔の絵巻物なのですが、武士のエグめの所業が描かれているので、載せるべきかどうか悩んでいます。
文章で見るのと実際に絵を見るのはやはり違うと思いますし、それでも百聞は一見にしかずとも言います。
恐らくは大丈夫だと思いますが、読者の皆様を不快にさせてしまうこともあるかも知れませんので前もって聞かせて頂きます。
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???「私は四十二人息子を作った河内源氏の種馬!源六条判官為y
「 やぁ〜やぁ〜我こそは!!!!!鎮西総追捕使、十六歳にして九州平定を成した剛勇無比のもののふ、鎮西八郎為朝也! 」
???「あっ、ワシが主役じゃぞッ!」
近日、どうしても義朝の親父、為朝の親父として語られる源ダメ義さんの人生を追う感動の河内源氏覚へ書き、源為義編投下予定!
または、息子が無茶しすぎて六十近くでクビになった男のお話☆