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第二十話 オーク狩りと狼乗り 《前編》

読者の皆様、鎌倉武士は異世界へ 第二十話をご覧頂き、誠に有難う御座います。また、お久しぶりで御座います。文章が消えるというハプニングに見舞われ、一応 河内源氏紹介の番外編を投稿しましたが、中々 復元に時間がかかり、空いた穴をちまちま埋めております(鎌倉武士がオークの生首に■■■■■したり△△△するのなんて二度も書くもんじゃないっすわ…) が、とりあえず前半の復元が終わったので投稿させて頂きます!


それはさておき、とうとう本作も二十話目に到達しました! これも、読者の皆々様の応援のお陰です!今後とも、鎌倉武士は異世界へ 〜武士道とは鬼畜道と見つけたり〜 を宜しくお願い致します!


異世界へ飛ばされてしまったごくごく普通のどこにでもいる鎌倉武士、矢三郎経久! 一応 異世界の辺境で銀板階級冒険者を斬り殺して成り代わったり、結果的に魔王の誕生に加担したりしながらも 冒険者をやっている彼、今話でも相変わらず鎌倉武士的に大暴れします! 冒険者として!


お待ちかねの第二十話、ご開帳!



 …さて、読者の皆様には本編としては前話にあたる十九話で鎌倉武士的恐喝によって着々とギルドの冒険者や最高責任者を下僕化していく矢三郎を見て頂いたが、今回の舞台は十七話の最初に戻り 青い鎧のもののふが異世界に出現してから四日後のお話、


 オークの首を飛ばしまくる矢三郎を見て頂こう。


 ーーーーー


 大陸西部、辺境都市ヤークから二十kmほど離れた森林地帯


「がっはっはっはっは!!!!!やはり殺しは良いのう!!!!!!」


 (くだん)の武士はオーク狩りに赴き、森の中で白馬に跨り愛用の赤強弓片手に爆走中であり、その表情は類まれなる笑顔で御座った。


 矢三郎がその見開いた目から爛々と狂った光を発し、その豪快で狡猾な性根に見合わぬ純粋な笑顔を見せるのも無理はない。


 戦の高揚と流血無しでは自己を保てぬもののふとしてこれほどまで嬉しいことはないのだ。


 矢三郎の異世界ライフ二日目はギルド本部での食事と脅迫と恐喝、そしてオーク狩りの依頼探しに明け暮れ、三日目は依頼のあった場所までの移動に費やした為、鎌倉武士の嗜みである殺しはほとんど出来ず、たまたま出くわした野良ゴブリンどもを一方的に射殺したのと道中で見つけた野犬を太刀で頭かち割ってぶっ殺して焼いて食ったというだけだった。


 門前を通った人間は無差別攻撃、特に坊主・乞食は喜んで弓の的にする平均的鎌倉武士である矢三郎は食欲・性欲・睡眠欲と並ぶもののふの欲求、殺人衝動をなかなか満たせず、欲求不満だったのだ。しかし、異世界ライフ四日目の彼は今 一人、数え切れぬほどの醜悪な鬼共を相手にしている。


 …(みやこ)での鬼退治や、赴任(追放)先での水龍殺し、民草の虐殺などを成し遂げた白石家が祖 日向太郎様も、勿論 敬愛する祖父も父もこれ程の数の鬼相手に戦ったことはないだろう。


 矢三郎は己を取り巻く状況に燃えていた。


 そしてこの青い大鎧のもののふは世界最大の弓、和弓にごっつい鎌倉武士特有の矢をつがえ、己を鼓舞する為、及び相手を気圧す為、郎党に己が正当な地頭としての立場と武辺一徹で知られ、勇猛無比な白石の血筋の者であり、その下で戦う郎党たちも立派なもののふであると聞かせる為 (しかし今は異世界で冒険者(?) をやっているため郎党はいない) 、そして、「この場で最も武功を上げるは我である」との証明として、馬の上から空気にヒビが入らんばかりの大声で名乗りを上げる。


 ………が、先に鎌倉武士の名乗りについて解説を入れておこう。これ程までに誤解されているものは日本史の中でもそうない。


 鎌倉武士の代名詞たる、


「やあやあ我こそは〜」


 の名乗りは、八幡愚童訓の原本や竹崎季長も言っている通り、

『今から大将首捕るの俺だかんな!お前ら証人になれや!』

 …という意味合いでやるのだ。(及び前述の通り 郎党の鼓舞)


 そもそも 武士の台頭し始めた時代である律令制大崩壊後のリアル世紀末 末法の世、平安時代末期には既に夜討ち 朝駆け 騙し討ちが当然で、実際 木曾義仲の父親 源義賢は甥の『悪源太』義平の奇襲を受けて討たれている その世紀末後、一応は法律や裁判制度が定まったものの、それらが身内びいきや裁判の相手を一族郎党皆殺しにする行為が頻発した為 ほとんど機能せず、幕府の首都たる鎌倉の中でさえ族滅は当たり前、当然 首都より法律が機能していない地方の国の荘園では勝手に領主同士で殺し合い、矢三郎の故郷レベルの辺境になるとそもそも法律の概念すら理解していないという 狂気の蠱毒の壺列島と化した数十年後の鎌倉時代の日本ともなれば、正々堂々と戦するなどというのは阿呆のすることであった。


 …不意打ち上等というのは 前述の通り武士の勃興期である平安末期の事象である源平合戦でも()()()()()()()()当然のことであり、伊勢平氏の武将 平盛俊が組み敷いて首を取ろうとした源氏武者 猪俣範綱に、


「なあ、名前知らない奴の首を取っても手柄にならんだろ? 俺も名前も知らない奴に首を取られたくないし。

 だからさ、俺を殺す前に お互い、きっちりと名乗り合おうぜ?」


 的なことを言われ、離してやった所を範綱に田んぼに蹴り落とされ、Cut head out されたという話からも明らかである。


 まぁ そんなこんなで、 鎌倉時代の武士が名乗りを上げるのはほとんどの場合、


 ()()()今から手柄(大将首)を上げるのは俺だから、証人になってね♡ という事で、

 元寇においては言葉の通じない蛮族(扱い)の蒙古を相手に名乗りを上げ、一人で突っ込んでいって死にまくったという訳では無いとここで誤解を解いておく。

 結論としては奴らは夜討ち朝駆け奇襲 騙し討ちなんでもやるし、基本戦法は一騎打ちなどではなく和弓を用いた集団騎射であるということだ。


 閑話休題。


 …さて、話を戻してここで我らが矢三郎の名乗りを聞いてみよう。


「おおおおおお!!!!!遠からん者は音に聞け!近くば寄って己が目に焼き付けよォ!このへろへろ共!


 我こそは白石(しらいし)矢三郎(やさぶろう)経久(つねひさ)白石(しらいし)隼人(はやと)種久(たねひさ)が子にして、日向(ひゅうが)太郎(たろう)光影(みつかげ)様が末也!

 …そしてお主らが生涯で最後に見る武士(もののふ)じゃあ!

 我が弓にかかって死ぬるを黄泉路の誉れとせよぉおぉあぁあ!!!!!」


 馬の上から空気が割れんばかりのデスヴォイスで吠えまくるや否や矢三郎はその強弓に番えていた矢を放ち、風を切ったその矢は彼の咆哮に怯んで硬直していたオークの1人の顔面を破壊し、勢いでぺきっと首をへし折った。


(因みに「へろへろ」はれっきとした古語であり、平安時代のガンダムこと源為朝も保元の乱の軍議中、


「ましてや、清盛の如きへろへろ矢は物の数にてや候べき」


{ (兄の義朝ならまだしも) へろへろ矢の清盛なんぞ敵としてカウントする必要もない} と言っている。


 しかし、その日本史上最強の男と言っても良い為朝の半分の威力もない平均的鎌倉武士たる矢三郎の弓でもオークたちをビビらせ散らすには十分であった。彼らは一撃で顔面を粉砕し 首をへし折る三人張りの弓なんて知らないし、それを片手に奇声を上げながら馬で突っ込んでくる青い変な鎧の人間なんてもっと知らない。


 元々あまり纏まりがない雑兵オークたちの統制は騎乗したもののふの突撃によってあっという間に崩れる。


『うわぁっ!俺ァこんな仕事降りる!やってられっか畜生!お頭よりアレのが怖ええ!』


『村襲って女奪うだけって話だったじゃねぇかよぉ!何でこんな訳わかんねぇのが出てくるんだ!?』


『にっ、逃げ…おごっ!』


 蜘蛛の子を散らすように逃げ出したオークのうちの一人をランダムに射殺し、蛮勇を振るう我らが蛮族系主人公は大声で喚き散らしながら一方的な追撃戦を開始した。


「鬼共!その首、某がきっちり頂戴(ちょうだい)(いた)す故、逃げるなぁあぁあ!!!!!」


『『『『 ぎゃあぁあぁああ!!!!! 』』』』



 ーーーーー


「づぁあぁあぁああ!!!!!」


 もののふの悪鬼と見まごうばかりの凶悪さに統制が乱れ、逃走した哀れなオークたちに一方的な追撃を行い、彼らの背を討つ鎌倉武士、矢三郎である。


 オークの首を鎧抜きの矢で()()()()、満足げな矢三郎は箙から新たな矢を抜き取り、番える。


 しかし、もののふは一方的勝利であるのにも関わらず、少し違和感を感じていた。


(()は妙也。 『おーく』どもは歩き巫女(ぺる)が申すには『ごぶりん』と比べ、猛き鬼という …然れど此奴等(こやつら)雑兵ではないか。俺一人の姿に怯え、背を見せる上、徒歩(かち)ばかりで騎馬武者もおらぬとは… 拍子抜けも良いところよ)


『騎馬武者がいない』 矢三郎が立てたフラグは僅か数秒後 ()()()()()()で別の形で回収されることとなる。



 獣の息吹。


「ぬっ!」矢三郎は獣の気配を感じとるや否や脊髄反射的に手網を引く。急に手網を引かれ、矢三郎の頭があった位置に白馬の頭と首筋が来る。


 そこに巨大な顎が噛みつき、鋭い爪が馬の身体に食い込む


 喉笛を噛み切られ、血と共に悲鳴を口から噴き出し 後脚で立ち上がってばたつく馬の鞍から矢三郎は勢い激しく落下する。 が、受身をとって衝撃を逃がし、回転の勢いを利用してすぐさま太刀を抜き放ち、臨戦態勢となった。


 一連の動きは洗練されている。並の騎士などでは落下の衝撃で骨や内臓を壊して戦闘不能となっていただろうが、矢三郎は武芸百般に秀でるもののふである。弓馬に太刀、薙刀、印字打ち、もちろん戦場仕込みの徒手格闘もお手の物だ鎧をつけていても矢三郎は熟練の受身のお陰で無傷だ。


 弓が近くにあることを確認し、太刀を構え直した後、矢三郎は馬と謎の襲撃者との方を見やる。


 巨大な狼が、どさくさに紛れて自分のモノにした白馬の身体をその牙と爪で赤く染めている。否、それだけではない。狼には手綱と鞍がついており、そこにはオークが跨り、馬に齧りつく狼を手網で御そうとしている。主人に逆らう烈しい気性で、胴が長く足が短い。


大人しい気性で足がひょろひょろ長いアラブ馬(鬼の馬)よりもよっぽど鎌倉武士の馬に近いのではないだろうか。


 脇腹を蹴られ、渋々矢三郎の白馬の死骸から離れた巨大狼は矢三郎を視認すると、『一人で俺たちと戦うなんて哀れな奴だ』というような表情を浮かべた。侮っている …ように矢三郎は感じた。


「獣!なんだその目は!たとえ畜生であろうとも白石を舐める者は許さぬ!斬り捨ててくれるッ!」


 鎌倉武士にとってメンツは何よりも大事だ。メンツを潰した相手は如何なる相手であっても殺さなくてはならない。鎌倉幕府が定めた御成敗式目にある、


『悪口言ったヤツはどんなに小さな悪口でも牢獄にぶち込みます』


 は、個人のメンツの張り合いが一族のメンツの張り合いになり、その流れで発生する殺し合いを防ぐ為であったのだ。


 し か し 、 この世界には鎌倉武士の生態を理解している生命体はいなかった。


 オークを背に載せた藁毛の魔狼(ワーグ)は不運にも「侮られた気がする」と理不尽にブチ切れ、太刀を構えて走り出した がしゃんがしゃん音を立てながら鎧を着ているとは思えない速度のもののふの突撃に対応出来ず、袈裟懸けに顔面を切りつけられた。黒い血を噴き出しながら悲鳴を上げる魔狼の喉笛を矢三郎は太刀でずぶりと貫き、「ぬおらっ!」と300kgは超えるであろう巨大な獣を相手の力を利用する、足をかけるなどして器用且つ力任せに引き倒した。魔狼の首に刺さった太刀を引き抜いて死を確認すると、地面と魔狼の死体の間に足を挟まれ動けない哀れなオークの首を切り落とす。


 切り落とした血の噴き出す首を手に取った矢三郎はそのオーク首が兜を被っていることに気づき、がっはっはと笑う。


「ふむ、兜首か!重畳重畳!」


 ご機嫌な矢三郎だったが、ぐるる という声やオークの言葉が四方から聞こえ始め、大狼に騎乗したオークや徒歩(かち)のオークの姿を目に写して益々大きく笑う。


「はっはっは、鬼と化け狼か!今日は良き日よ! 日向太郎様に勝る数の鬼を討ち取り、鬼の跨った化け狼と相見えるとは!


 …良かろう!相手にとって不足無し!たとえ我が身破するとも白石が武名は汚させぬぞ!」


 飛びかかってくる大狼と武器を持って突っ込んでくるオークの群れに太刀を片手にした矢三郎は死ぬ気などさらさら無く笑いながらうおおっと吼えた



鎌倉武士の名乗りは本当に誤解の多い習慣だと思うので、解説を入れました。


今日はすぐに次話の復元に取り掛かるので後書きは充実できませんが、誤字脱字等御座いましたら、コメ欄で遠慮なくお教え頂けると有難いです。


次回!矢三郎の何かが明らかになる!…かも!


ちなみに矢三郎の馬をモグモグした魔狼(ワーグ)


挿絵(By みてみん)


こんな感じの生き物を想定しています

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドロドロ血まみれが良いですね
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