第一話 エンジョイ!もののふライフ!
序章では平均的な鎌倉武士の棟梁とその郎党たちの日常を描きます。
ーーーーー 教訓その1
家よく作りては、何かはせん。庭草引くな、俄事のあらん時、乗飼にせんずるぞ。馬庭の末に生首絶やすな、切り懸けよ。
(家を継いだからには心がけねばならない。戦時に馬の餌にするのだから庭草はボーボーにしとけ。調練場の端には生首を常に絶やすな、人殺しも忘れるな)
教訓その2
此の門外通らん乞食・修行者めらは、益ある者ぞ、蟇目鏑にて、駆り立て追物射とせよ。
(門前を横切ろうとする乞食・坊主の類はとても有益なものだ。逃げ足が早いから弓の的として活用すべし)
教訓の総評…若者共、政澄、武勇の家に生まれたれば、其の道を嗜むべし。
(武士と生まれたからには上記の道を守って生きていくべし。)
…鎌倉武士、それを端的に表す言葉、それは「蛮族」である。
ーーーーー 鎌倉時代のいつか 日本列島の一応は幕府の支配の及んでいるどこか
どかかっ、どかかっ、ざざざざざ
馬の蹄の音と十数人の足音、彼ら全員の甲冑の鳴る音が細い道を通ってこちらに向かってくる。
ざわざわと鳴り渡る風と共に姿を現した馬に跨った青い大鎧と鹿皮羽織の男は腰に佩いた太刀を抜き、
ーーー 吼えた。
「行けぇえぇええぇ!!!!!突っ込めぇえええい!!!!!」
ーーー 続いて地を走る郎党たちが吠える
「「「おおおおおおおおおおお」」」
この物語の主人公、小さな小さな土地を治める地頭家である白石家の現当主、白石矢三郎経久は今日はなんだかお隣の山下さん家がうるさいので郎党を引き連れて皆殺しに来ました。
鎌倉時代における地頭・荘官・郡司・郷司保司などとは幕府に代行して守護の下で土地の開墾・管理などを行う武士の棟梁を指す名詞ですが、この時代ではその棟梁同士で勝手に殺し合い・抗争は茶飯事、彼らはホントに「今日は隣がうるさい」「なんかむしゃくしゃする」ぐらいの理由で抗争を始め、一族皆殺しにしたりします。幕府の支配は遠国には及ばず、上司の国司も上納金さえきっちり渡しておけば気にしません。
『何か問題が起こっても、相手の一族を皆殺しにしたあとなら問題にならない。だって告訴してくる相手が全員死んだ後だから』
…こんなルールがまかり通っているのが鎌倉武士社会!
鎌倉武士の平均より少し働く矢三郎の脳みそから考え出された行動はこれを機に山下さんの一族を皆殺しにして領地を頂くことでした。(うるさくて腹立ったのが大きなウェイトを占めているけど。)
ーーー さあ、ここでもう一度。
『何か問題が起こっても、相手の一族を皆殺しにしたあとなら問題にならない。だって告訴してくる相手が全員死んだ後だから。』
そんなルールを知った凶悪なる若き確信犯、白石家当主 矢三郎経久とその郎党は館の柵を破壊し、隣の地頭、山下六郎長治の屋形の中庭に突っ込んでいったのでした。