第十六話 死と踊れ
まずはお詫び致します。
スランプ気味だったのとプライベートでめんどくさいことがあったので投稿が遅れてしまいました。すいません。これからは最低限 2日に一回は投稿するペースを守っていきたいと思います。
…さあ!物語はとうとう十七話目を迎えました!矢三郎と愉快な仲間たちの戦果を奪おうとしたろくでなしの高ランク冒険者が殺された!誰がやったんだろうなぁ〜(棒) しかし、そこは腐っても高ランク冒険者、鎧を脱ぎ捨て身軽になっていた犯人にして主人公、鎌倉武士の矢三郎に即死魔法を浴びせた!
どうなるのか! 矢三郎の運命や如何にッ!
また一方では、北の大地から闇の勢力が台頭を始めようとしていた…
矢三郎と相見えたゴブリンロード、アルファを描いてみました。
左から順番に若い頃からの進化です。一番デカいのが今の姿です。
さあさあ ではでは、とうとう十七話開帳で御座います!
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…他愛無い、他愛無い。
1番見た目からして強そうな大男が近づいてくるまで俺の手柄を物色するクソたわけ共を見るに留め、鎧を脱いで茂みに伏せっていたが、近づいてきた大男は奇襲に対応出来ずに一撃で死に、もう一人の男も喉を掻き切ったらあっさり死んだ。鬼だというのに味気ない。
白石が御家の祖である日向太郎光影様が京の都で仕留めた鬼は首を刎ねられた後も光影様の脛に噛み付いたと言うが、この世界の鬼共はどうやら比べ物にならないほど脆弱なようだ。
急激に鬼についての興味を失った矢三郎は喉から血を吹き出す鉄板鎧の死体をぽいっと投げ捨てると、
なんか、黒い女が『勝った』とでも言いたげな笑顔を浮かべて むらさき草の根で染めた衣のような色合いの禍々しい光を放ってきたが、
眩しいだけだった。
しかし、腹が立ったので短刀を投げ捨て、腰から太刀を抜き放ち、妙な光を出した腕を切り落とした。勝ち誇った表情を浮かべていた面の皮はあっという間に表情を変え、血が吹き出す手首を抱えてゴロゴロ転げ回る。ぎゃあぎゃあうるさいのでそのまま頭をカチ割った。
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ありえない!信じられない!何で!?
エルフの女魔術師 ペルは興奮を隠せなかった。学者として、好奇心を隠せない事態だ。そしてかなりズレた、悪く言えば鎌倉武士ほどではないがブッ飛んだ脳ミソを持っていた彼女は、圧倒的な力と、この国に住む全ての者たちと異なる(国どころか生まれ落ちた世界も違うのだが)矢三郎の殺伐とした個性に、決して性的なものではない人間的魅力を感じていた。そこに魔法陣の形から判断するに第五位階の即死魔法を喰らっても全く意にも介さず相手をぶった斬るという芸当が加わるとそれはもう、スゲーことである。
『スゲー』の一言に尽きる。
高学歴の学者と言うのは 一発鼻っ柱をぶん殴られたような衝撃を与えられると、物凄い勢いで心酔してしまうものなのだ。某カルト教団の幹部に高学歴が多かったのもそういうことである。
まあ、心の荒み具合とえげつなさと一部のイカれた存在を惹きつけるパワーではカルト以上である我らがもののふ系主人公 矢三郎に世の中を知らないエルフ娘が心酔するのは、仕方が無いところでもある。
矢三郎は知らぬ間にその力にベタ惚れした信奉者を手に入れたのであった。
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「何でッ!何でこうなるんだァアァアア!ヤバいよ!ヤベーよ!コイツら銀板冒険者だぞぉおおお! オレはただ、偉くなりたいだけなのにぃいいぃいい!!!!!!」
アゼルハートは街道のど真ん中で絶叫した。
足元に転がる無惨な死体に変わり果てた三人の銀板階級冒険者の死体を見てのことであった。
「ーーーーーーー!!!!!!!」
矢三郎から「歩き巫女」というかなり不名誉な通称を賜ったエルフの女魔術師、ペルは声にならない叫び声を上げた。
無慈悲にパーティの手柄を何度も何度も奪っていった何階級も上のめちゃくちゃ強くてムカつくゲスい先輩冒険者たちがあっさりぶった斬られたこと、高位の魔法使いでもない、と言うより魔法使い要素がゼロに等しいのに即死魔法が効かないという、怪物的な矢三郎を見て、色々と感情が爆発してのことであった。
「…ヤ、ヤ、ヤ、ヤ、ヤサブロー な、な、なんで即死呪文が効かない!?ありえなعهغفب!!!ظهر?!وطعتغق!?」
とことん現実主義者である北の入江の民の追跡者 アバは、弓の腕とそのえげつなさを尊敬し始めた人物が、魔法に対しての知識が薄いアバにすらわかる物凄く危険な即死魔法を食らってピンピンしているというあまりに非現実的な事態に混乱状態になり、この場にいる誰にも理解できない母語である北方語が出まくってしまっている。
「…こりゃたまげたわい。あの高位の即死魔法を真正面から食らって死なぬ人間がいるとは… 祝福を受けているどころか、低位の防御魔法の心得さえなさげだと言うのに…」
顎鬚を蓄えた坊主頭の老人、イヅマはその長い人生の中でも滅多にないほどの驚きを感じていた。
「…魔法や魔術の心得はないようですが、非常に力の強い精霊か何かの加護を受けているのではないでしょうか?
……寧ろ 悪魔か邪神か何か取り憑いてそうですけど。」
黒髪の美女 精霊遣いのササラはいつも通り冷静に彼女が考えうる限りで最も現実的な推論を口にする。後半言ってることを見ても分かる通り、矢三郎がゴブリンにした所業を見ていない彼女も矢三郎のヤバさをほんのり感じ取っている。
熟練の元傭兵 双剣使いのホルトーは本人とパーティメンバーたちはゴブリンにやられたと思っているものの、実際は矢三郎にやられた傷による大出血のせいで血液不足で撃沈中であり、目の前で展開された殺人劇には気づいていないのであった。
そして前衛の巨人、大楯のコキュータクスは相変わらず何も言わない。
街道で繰り広げられたこのパーティの様相を事細かに描写したものの、大騒ぎしているのは主にアゼルハートとペルとアバの三人である。いい加減腹が立ってきた矢三郎は、
「うるさいわ」
という言葉と共に
がつん
と1番近くにいたアゼルハートを棍棒でブン殴って気絶させ、パーティメンバーに冷静さを取り戻させた。獣が服着ているような鎌倉武士を統率する棟梁である矢三郎にとっては 最も素早く静寂をもたらす手段とは、暴力なのである。
「殴っちゃうんですか」
「殴っちゃったね」
「まあしゃーない」
「パーティ長は肝が小さいからのう。むしろ頭が冷えるじゃろうて。」
「まあ アゼルが悪い。」
「……」
天然エルフとダーティな事象と殺しに慣れた四人なので、目の前でパーティ長が後頭部ぶん殴られて気絶してもあんまり気にしない。
「…何でこいつら殺したん?」
アバが聞く。
「…何故? 俺の手柄をあさましくも奪おうとした上、お前達より身分の高い冒険者なのだろう?
…殺さぬ理由があるのか?」
矢三郎は不思議でならないというような様子で逆に尋ね返す。
「あの〜、前半はわかったんですけど、高位の冒険者を殺すのはなんでなんですか?」
ペルが好奇心から聞いた。
「詮無きことじゃ。お前達『ぼうけんしゃ』は、その胸にぶら下がっておる鉄の板で身分を証明するのじゃろう?」
たまたまペルと雑談した時に聞いていたことを話す。
「はい、まあ、そうですね」
ペルが肯定する。
「身分証明というか、認識票です。」
ササラが説明を補完する。
「まあ、龍の炎で灼かれても残るぐらい頑丈だからな。」
アバが言う。
「…うむうむ、つまりだな、」
ほとんど彼らの説明した内容がほとんど分かっていないものの、矢三郎は結論を言う。
「こいつら殺してソレを奪い取って名前を彫り変えれば、身分も上がって貰える褒賞も増えて お主ら いい事づくめであろうなぁ、と。」
「………………」
空気が凍った。
「…いくら何でもエゲツなすぎやしないか…?
何度も何度も格下のウチのパーティにたかってきて、今回も手柄を奪おうとしたマジモンのクソ野郎共とは言え、これまでこいつらが積み上げてきた結果を奪い取って成り代わるってのか?」
アバのその、この世界では残虐無比な民族である北の入り江の民としては善良すぎるものの、一般的に見たらろくに働かない良心が咎める。
「応。」
「…そもそも出来るのか?」
アバはなお食い下がる。
「板の名前を削り取って 彫り変えれば良いじゃろう。記録があってそれを変える必要があるのなら、金子握らせれば役人なんぞ一捻りじゃ」
国司に金を握らせて別の土地の領主を殺して奪った幕府の権利書を正式に最初から白石家の土地だったと書き換えてもらうなど、ズブッズブの関係だった矢三郎は断言する。
「…何を戸惑っておる? お主らは偉くなりたいのだろう?金が欲しいのだろう?所領が欲しいのだろう? これを少し弄るだけで身分が上がるのだぞ?何を躊躇う必要があるのだ。」
悪魔の囁きである。後半は矢三郎自身の欲望であったが。
「…ううっ」
その悪魔的表情を浮かべた我らが主人公の足元ではブン殴られたアゼルハートが意識を取り戻しつつあった。
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「魔王様、今後の方針や如何に。」
炎が上座に座する存在に尋ねる。
彼は三メートル近い巨躯を誇る強靭なセレゴスト種のオークであり、血と炎を崇拝するノース族の族長でもあある為、その赤い髪と髭は真っ赤な血によって染め上げられ、その純白の肌とのだんだらが赤色の強さを増している。
彼は玉座に坐す「ゴブリン」の『魔王』、アルファに意見を求める。
「…ふ、魔王か 」
身体中に埋め込んだ鉄片や骨片の鎧の上から新たに黒いマントを羽織った魔王・アルファは思わず独りごちる。 最も彼がこの世で最も憎悪した、自分達を勝手に創り出し、自分達を勝手に使役し、自分達を勝手に使い捨てた存在の名を名乗るようになるとは、今の今までは思いもよらなかった。
故郷を破壊し、右腕を殺し、有象無象の息子たちを殺戮したあのおぞましい眼光を湛えた『青い獣』、…あの『青い獣』には感謝せねばなるまい。魔王の称号を得、屈強にして忠実なるオークの部下達を得、何より魔素濃度の高いこの黑きアングルドゥアと言う拠点を得られたのだから。 この砦で我が子を孕ませ、産ませたならば、それはそれは逞しく育つであろう。
何れ 奴はこの俺… …いやこの予が直々に殺し、肉を喰らい、生皮を剥いで軍旗としてくれよう。
「如何されましたか、魔王様?」
かつては対等な同盟者であったガーシュも、アングルドゥアで育ったオークなら全員の身体に叩き込まれている魔王への忠誠を、魔王と認めたアルファに向けていた。
「いや、何でもない。
…今後の方針、か。
…予は世界を統べ、その先へも征く。
世界を統べる、国を統べる、群れを統べると言うことは、自分の意を世界中に押し付け、否応無く受諾させること。
小さな群れならば自らの力と知識のみで支配できる。しかし、大きな群れや国となると末端まで目が届かなくなる。
…すると、謀反を企てる者、予を畏れぬ者、予の力を知らぬ者が増え、群れの力が大きく弱まる。
…ならばどうするか。予は時をかけて予の血を受け継ぐ子らで群れを作った。
つまり、予に近しい者が、支配権を握れば、群れや国は栄えるのだ。
それの規模を大きくする。
世界を手に入れた暁には、支配者層をゴブリン・オークで固める。
当然王や領主は我が子らで固めたいが、それが能なう息子たちを選別し、鍛え、知識を叩き込むまでの間に統治を司る者共が必要だ。国の支配を完遂できる者は少ない。それが出来るのは恐らく、各部族の長や、砦の首領、大規模な狩猟隊や盗賊団の頭目ぐらいであろう。
そもそも、兵士の頭数も揃えねばならぬ。この砦のオークのみでは足りぬ。…また征服には武器を供給する工場、死者を蘇らせる死人遣い、死をもたらす呪い遣いも必要だ。」
「然らば、如何と致しましょう? 一口に我らゴブリン・オークと申しても住む土地も体の大きさも気性も崇める神も違います。魔王様が求める人材とは?」
「 …全てだ!
ーーー 死を信奉する死霊術の使い手、死者すら容易く蘇らせるナズガル、冥王を信奉、死の呪いや黑の呪いを遣うネクロ、ドワーフの工業都市を奪い、製鉄所、鍛冶場を自在に稼働させて武器を鍛えている炎と鉄を崇める南のウルク共、モリアの地下鉱山一帯に住処とするゴブリンのノッカー、酒と腸と黄金を愛する略奪者集団 アングレイジ、獣を崇拝する魔狼に跨った野生的な西の青の山脈の狩人共…
…思いつく限り全ての部族を我が手中に収める。」
骨の鎧で身体を覆った赤と白のだんだらオーク、ガーシュは尋ねる。
「…然らば、何れから取り掛かりますか?」
魔王は獣の深い爪痕が残る極悪な顔に尚も極悪な笑みを浮かべ、彼がこの世界にもたらす大惨劇の第一歩となる行動命令を口にした。
魔物のライバルと主人公の悪鬼羅刹ぶりに遜色がないという異様な状態ですが、鎌倉武士とはそういうものなのです。次話以降 街に着いたら矢三郎にも もう少し可愛げが出てくると思います。…多分。
感想等頂けないとバックれる可能性大です。ブクマ・感想頂けると大いに励みになります!
誤字脱字等あれば教えていただけるとありがたいです!




