第十五話 急展
さあさあ、主人公 鎌倉武士の矢三郎と流れで仲間になったギルドメンバーの戦果を横領しようとした銀板階級冒険者三人を殺害したのは一体全体誰なのか!新キャラか!ギルドメンバーか!それとも作中に登場したキャラクターの3分の2以上を1人で殺した某青鎧の侍か!(棒)
その一方、亡国のゴブリン王は…!?
さあさあ、お待ちかねの第十六話ご開帳!
ケッ、クソ。クソ雑魚パーティのクソ雑魚パーティ長が、このクソすげーエドバー様に歯向かうなんてことが、許されるはずがねぇってのに、クソ生意気な野郎どもだ。クソムカつくぜ。俺は、ヤツらとクソそっくり同じ目をしたクソ甘々のクソ弱々しい、クソ腑抜けな連中を踏み台にしてクソドブ攫いから成り上がったんだ。
ーーー ヤツらのあの目が気に食わねぇ。クソ雑魚共が。
銀板階級冒険者エドバーは、その無教養で短絡的且つ暴力的な思考しか編み出せない哀れな脳の貧弱な語彙から思いつくかぎり全ての罵倒を脳内で吐き続けながら、馬に繋がれたソリへと部下の一人を連れ、歩いていた。
ソリの前へ立ったエドバーは、「赤角」パーティメンバーの冷ややかな視線を意にも返さず、「光源」魔法で白い明かりを灯し、暗闇を照らし、ゴブリンの耳の入った袋をかつての盗賊稼業で板についた動きであさり始めた。
「おおほーぅ、なかなか耳の数ァ多いじゃねぇか。一晩 俺様が思いッきり呑んで、打って、抱くぐらいできる程度はあるな、こりゃあ」
「ちょっと、私にも分けてよね!」
「わーってる、わーってる。 ん?お、こっちのズダ袋はなんだ? ゴブリンの生首か?」
「わぁ、これロード級ゴブリンじゃない!これが巣の主ね!」
アルファの身代わりとなった犬鼻の生首をエドバーから奪い取った女魔術師は、その蓄えた知識の中から、その生首の階級を推定する。
「あたし、この首だけ貰えればいいわ。」
「テメこのクソアマ!ふざけんな!!!ロード級ゴブリンの首はこの二百少しのクソゴブリンの耳なんかより、クソ儲けになる!」
都合200個の耳が入った袋を地面に投げ捨てたエドバーはつばを撒き散らしながら怒鳴る。
「おいおい、美味そうな話じゃねえか!1枚噛ませろよ!」
前衛として前にいた大楯のコキュータクスに絡んでいた大剣の大男が「儲かる」と言う単語に反応して歩み寄ってくる。
大男の目は、ゴブリンの耳と生首に釘付けだった彼の二人の仲間が見つけられなかったものを捉えた。
「…なんだあれ?」
月の光に映える、青い、青い、鎧であった。
その脱ぎ捨てられた奇妙な意匠の鎧と兜に近づこうと大剣の大男の脳が身体に方向転換を命じた時には既に脳天に短刀が突き入れられていた。
けふっ と言うような声を出して地に大男は倒れ込む。
戦利品を巡って口論していた二人の冒険者たちが何か異常が起こったと気づいた時には、彼らの元に死が短刀を握って飛びかかっていた。
ーーーーー
実に呆気ないものであった。
(な、なんだ!?ハロルドが殺られた!?クソっ、誰に!?と、とにかく剣を…)
ざくっ
剣を抜く暇すら与えられず、エドバーの喉元に刃が突き入れられ、その意識は数秒で急激に薄れ、プツリと切れる。
死の刹那、エドバーはこれまでの人生で最も恐ろしい、狂った目を見た。
命が全て流れ出た後の身体を無造作に投げ捨てた黒い影は、女魔術師に向き直る。
女魔術師、この黒魔術を極めた女魔術師は、二人のろくでなしの仲間の死を理解すると、顔に憎悪を貼り付け、無詠唱で即死魔法を彼女とそのパーティにとっては死そのものであるもののふに放った。
ーーーーー
アルファはその、切り刻まれ、再生し、また切り刻まれ、傷に湧いた忌々しい蛆どもを免疫系で皆殺しにしてさらに再生した強靭な筋組織によってもたらされた脚力を持ってして、夕暮れから二刻も立たぬうちに、かつての同盟者、白き霧の降る北方のセレゴスト山脈に拠点を持つノース族のオークの首領 ガーシュによって治められる要塞、「黑き」アングルドゥアに到達していた。
ーーー 巨大にして強大な要塞である。
そして、かつては彼が最も嫌っていた、巨大にして強大な存在の根城であった。…最も、アルファが産まれる以前に「アレ」は斃されてしまっていたのだが。
アルファは堂々、その身一つのみでその黒き門を潜った。
ーーーアングルドゥアの門に門番はいない。
遠い昔に遺棄されたことになっている砦なのだから、そこに棲む存在が知られてはならないのだ。
門から内は、「彼等」の領域。
「彼等」が建造し、「彼等」が維持し、「彼等」が待つ場所。
ーーー この砦の中で侵入者を殺すことなど、容易い。
しかし、アルファは無傷で『王の間』へと到達した。彼にとっては勝手知ったる砦である。罠も、兵士の詰所も、すべて記憶している。曲がりくねった通路をオークたちの目を盗み、動き回るのはアルファにとってはあまりにも容易い。
突如 『王の間』に現れた巨躯のゴブリンが、さらに巨大な背丈を誇る白肌の、彼の姿に呆気に取られたセレゴスト・オークたちの間を縫って巨大な玉座の隣の比較的小さな副官の玉座に座る赤い血で身体を彩った赤毛のオーク、首領ガーシュの目の前に歩み出た。
「…生き鎧、生きていたか。勇者に王国を滅ぼされたと聞いたが。」
「幾千の息子たちを失ったが、俺は生きている。首領 炎よ。」
かつての同盟者2人はガーシュの母語であるセレゴスト・オーク語で会話する。
「如何用で御方の砦たるここへ来た?」
アルファは可笑しくて堪らないと言うふうにくっくと笑った。
「…御方?御方だと? あのロクデナシを待っているのか?ガーシュよ。北の国のオークの大首領、『丈高き』炎と呼ばれ、セレゴストの太守たるお主が!いつ戻ってくるか、そもそも戻ってくるかもわからぬ……
『魔王』
などを待って200年もこの寂れた砦を警固していたのか?」
ガーシュは一声憤怒の咆哮を上げると、副官の玉座を蹴って立ち上がり、何とか一言 怒りを抑えて何とか言語の形を保っていた怒声をアルファに向けて叩きつけた。
「…貴様、御方への無礼は許さぬぞ!!!!!!」
白肌碧眼のこのオークは、180cmの体躯を誇るアルファが小柄に見える3m近い巨躯の持ち主であった。オークよりトロルに近い体躯だ。 周りに控えるセレゴスト・オークたちも2m以下の背丈の者は居ない。その上 皆、筋骨隆々である。
「我らには御方への贖い切れぬ恩がある!
我ら北のオークは元々体格に優れていた訳では無い!オログは当然、ウルク以下の体躯、スナガよりマシ程度の体躯であった!故に寒冷な北の山脈に追いやられたのだ!
…だが、遥か昔 御方の創られた魔脈によって無限に供給される魔力によって我らの祖は強靭で巨大な肉体を手に入れたのだ!
…御方は我らを強くし賜うた!我らは恩に報いねば成らぬ!ここを守るのが、我らの務め!」
「…恩? …務め? バカを言うな!!!!!」
そう怒鳴ったアルファは、騒ぎを聞きつけ増えたセレゴストの屈強なオークたちの方へ向き直る。
「…魔王がお前達を強くしたのは、戦争機械として使い潰す為!消耗品に過ぎぬ!
我らは元々『ヤツ』に使い潰される為に咼められた闇の種族!神々とやらに祝福を受けた人間どもやエルフなどとは違う、タダの道具だ!
…魔王が俺たちに何かをくれたか?太陽の元を歩く自由は?豊かな耕地は?
ヤツが俺たちに寄越したものは、身体以外、何も無い!!!!!
自分たちを見ろ!魔王なんぞという訳の分からぬ創造主の帰りを待って、太陽の当たらぬ寒々とした雪に埋ずもれた砦で、さもしい狩猟や追い剥ぎで生計を立てている!
…人間どもを見ろ!奴らは太陽の光が降り注ぐ王国の、壁に囲われた安全な街で畑を耕し、家畜を飼い、ぬくぬくと暮らし、気分で『冒険者』などと抜かして我らを狩りにくる!
…農地が欲しくないのか!?
『オォオオオオオ!!!!!!』
緑の肌に金属片を埋め込んだ赤い毛のゴブリンの言葉に、白い肌の巨大なオークたちが同調の咆哮を上げる。
…家畜の肉が欲しくないのか!?
『オォオオオオオオ!!!!!!』
…暖かい寝床が欲しくないのか!?
『オォオオオオオオオ!!!!!』
カツンカツンとアルファが階段を上がる。何を考えているのか気づいたオークの首領 ガーシュはその青い目を見開くが、…彼は止めなかった。
『魔王』の玉座の前に立ったアルファが肺に目一杯吸い込んだ空気を爆発的勢いで放出した。
ーーーーー『王国』が 欲しくないのか!?」
オークたちはこれまでで最大の音量で吼える。…四度目の咆哮ではガーシュも拳を振り上げていた。
その日、大柄なゴブリンが、『魔王』の玉座に就いた。
異世界の蛮族とゴブリンの魔王、
この世界の状況が急転するまで、あと少し。
割と手練の冒険者2人をあっという間にぶち殺した矢三郎!しかし、女黒魔術師の即死魔法をモロに受けてしまった!その安否や如何に!
一方 鎧と一体化したゴブリン・ロード アルファはガチムチオーク軍団を味方につけ、魔王に就任!
ちょいちょいアルファパートも挟んできます。
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