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Protocol;Earthbound  作者: Sierra
1章:異境
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Barehart(前編)

セドリックとウェバーが外へ情報収集に行ったら武器屋のおっさんにいろいろ教えてもらう回の前編です。


 翌日。


 少し調子が狂ったのか、彼ら皆が起床したのは八時を過ぎてからのことである。

 階下では夫妻がすでに朝食を済ませて紅茶を啜っているところであった。


 五人は遅ればせながら食事を済ませ、自前の歯ブラシやタオルで一通りの身だしなみを整える。

 昨日夜の話で役場まで簡易戸籍の登録へ行く手筈(てはず)だったものの、アイゼンシュタインの都合上実際に行くのは午後からだ。


 結果として午前中は各自自由時間となった。


 このときレイチェルやクリフは何やら作業をしていたが、セドリックとウェバーは軽く情報を集めようと外に出ていた。


「うーむ……地図があればいいんだがな」


「出てくるときに聞いておけばよかったやもしれませんね」


 アイゼンシュタイン宅を出て四十分少々。

 二人は住宅と商店の入り混じる区画をうろついていた。


「なにせ星があんなだったからな。ある程度植生も調べておきたかったんだが……」


 ここは相当に大きい街らしく、森や林のような中小規模の自然物は建物に埋もれているのか視界の中にはない。


 二人とも自生する植物を見てみようかと出てきた口であっただけに少し残念そうにしている。

 石畳の通りには雑草も大して見受けられず、街路樹のマロニエ(セイヨウトチノキ)と民家の窓や庭に植わっているゼラニウムか家庭菜園などが僅かばかりの植物だ。


「また午後から役場行ったとき、一緒に地図やら資料やら貰っておきましょう」


「そうだな」


 そうして仕方ないなといった風に苦笑すると二人は踵を返し、今まで来た道を戻り始めた。

 さて、今の彼らの恰好は最初着ていた深緑の迷彩から変わって薄手のシャツだ。


 それだけに筋骨隆々の二人の体はより一層強調され、すれ違う現地人や商店の店番らは皆この厳つい新顔を興味深そうに眺めるのである。

 ただ彼ら自身はそれほど気にしていないようだ。


「そうだウェバー、ここの通貨は分るか?」


「いえ。独自通貨のようですね」


 ちょうどセドリックの右手にある青果店ではまさにこの通貨が使われているところであった。


 客らしき男が青林檎(あおりんご)二つと檸檬(れもん)一つを左手に抱えながら店主に紙幣を差し出し、まさに清算せんとしているところだ。


 差し出された紙幣は白地に青のグラデーションが入っており、建造物のような模様が印刷されている。

 ユーロ紙幣によく似た色みだが模様は比較的絢爛(けんらん)で、どちらかというとドル札に近い。


 また他方ではポケットから金や赤褐色の硬貨を引っ張り出す少年もおり、こちらはシャープな文字ででかでかと数字が刻印されている比較的シンプルなもの。


 大きさは各々同じほどで形状のばらつきもない。

 いずれも比較的現代らしい貨幣だった。


「そうか。まぁ、どっちみちドル札すらちびっとしか持ってきてなかったけどな」


「ええ」


 青果店を横目に二人は小さく溜息をついた。

 現地時間にして九時半ごろのことである。

 


 さて、彼らの足取りは進んでアイゼンシュタインの家が遠目に見えるほどまで引き返してきたときだ。

 後ろから中年あたりだろうか、渋い声で話しかけてくる男がいた。


「あんたら新顔みたいだな。いつ来たんだ?」


 振り返ると頭にタオルを巻き、紺の作業服に白い前掛けを付けている労働者風の男が立っていた。

 前掛けはところどころ(すす)のような黒が見受けられる辺り、どうやら鍛冶屋のようである。


「あぁ、昨日だが……」


「なるほどな。俺はその辺で武器……まぁ、諸々の小物も売ってる店をやってる者だ。見た感じあんたらは軍人か何かだろ?」


「そうだ」


「やっぱりか。ちょくちょく相手はしてるからそんな感じだと思ってな。どうだ、暇なら来てみるか? 別に商売の話ばっかりしようって訳では無いからよ」


「なるほど……まぁ時間は有り余ってるしな。お邪魔することにするよ」


 彼に連れられて大通りを西側にそれると、その店はすぐに見つかった。


"Hephas Barehart"

ヘパス・ベアハート。


 店舗と作業場が横に連なっており、脇の通りの一角という立地だがいずれも面積は小さくない。

 洒落たデザインの吊り看板が軒先に下げられており装いも小綺麗(こぎれい)である。

 一見してそう小規模な店でないことが分かった。


「おぉ、なかなか綺麗だな」


「へへ、そりゃぁどうも」


 男はまんざらでもなさそうに笑うと店の戸を開け、中に二人を招き入れる。

 入ってみればやはり内装もなかなかのものだった。


 ぐるりと一瞥(いちべつ)した感じでも"武器屋"という感じの粗っぽさはなく、外に同様小洒落(こじゃれ)た装いだ。

 壁に、テーブルに、カウンターに、円筒のスタンドに所狭しと武器が並べられているものの、それらは整然と"陳列(ちんれつ)"されている。


「……副長」


 と、だしぬけにウェバーが口を開いた。


「どうした?」


「これ、M14じゃ?」


 彼の指さした先には確かにカービンライフルが一丁、(たな)に陳列されていた。

 いかにもライフル銃といった感じのフォルム、トリガーガードの前に付けられた板状のセレクター。

 その下には箱型のマガジンが置いてある。


 ストックが奇妙な白い木で出来ているものの、ウェバーの言う通り"スプリングフィールドM14"そのもので間違いない。


「驚いたか? まぁ人も物もバカスカ流れ込んでくるとありゃ、コピー品の一つや二つできるってもんよ」


 その言葉通り、たちまちM1ガーランドやイサカM37、ウィンチェスターM1873、果てはAK系列らしい小銃までもが姿を現した。


「こんなによくコピーしたな……」


「ハハハ、褒めるんなら公営工場の連中に言ってやってくれ。俺は製法教わって真似てるに過ぎねェからな」


 男はやがてカウンターの裏の扉を開けて裏方に入る。

 裏方は流し台とガスコンロなど簡易的なキッチンに木のテーブルと椅子(いす)四脚からなる部屋で、右側の一回り大きな扉はどうやら作業場に直結しているらしい。


 書類が詰め込まれた木棚やロッカーのような鉄の工具入れが配置されていることから仕事用の物置や応接間としても使われていることが分かる。

 少し生活感があり落ち着く雰囲気だった。


「そんじゃコーヒー淹れるから、座って待っててくれ」


 男は流し台の下にかがみ、サイフォンを取り出しつつも振り返ることなくそう言った。


(後編へ続く)

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