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Protocol;Earthbound  作者: Sierra
3章 軌道修正
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再会

 野営を経た部隊はようやく今日中にもカイル達に追いつくといった段階に入った。

 今までオールド・カインドと接触することなく来られたのも幸運、一行はいち早く合流をと早めの時間から行動を開始した。


 夜露に湿る森を六人の長靴が踏んでゆく。


「あ、そういえば旦那、昨日"不純物特有の気配"って言ってたよな。アレって目とか触った感じで分かるのかい?」


 小銃をふらふらと小刻みに振りながらパッカーが聞く。


「視覚的にはこの仮面のレンズ越しであればわかりますね。ぼんやりと普通とは異なった色彩で見えるので、私はそれを気配と呼んでいます」


「ほえ~。そのレンズって他に何か見えるもんとかある?」


「具体的には近寄ってはいけない空間だとか、ですね。例えば触れると別世界に転移してしまうものも」


 ヒエッと肩をすくめるパッカー。


「俺たちにそれがありゃ、こっちへは来なかったかもな――」


 談笑する部隊の元に銃声がとどろいた。


「おい、今のは?」


 クリフが進路上をにらみながら答える。


「先だ。カイルかも」


 一行に緊張が走る。


「そうなればペースを上げましょう。今にも追いつける距離かもしれない」


 サミュエルの号令一下、部隊は走った。

 義肢なしでも部隊に追従しうる速力を見せた彼も彼だが、六人は今はカイルとの合流しか頭にない。


 一行は泥をはね、落ちた小枝を踏み追って食肉類のそれのように森を疾駆する。


 たどり着いた先には果たして、SR-16で緑色の巨人の頭を吹き飛ばすカイルと徒手空拳や剣、拳銃で大立ち回りを演じる少年たちと必死に姿を隠す二人の男が居た。


「カイル!」


 XM8を構えながらレイチェルが叫ぶ。 


「え、隊長!?」


 此方を見た一瞬の隙に棍棒を振り上げた巨人の頭めがけ彼女は射撃を始めた。


「各員、彼らを援護しろ!」


 徒手空拳で巨人の肉を削ぐ少年の裏手に回ったのをセドリックのSCAR-H、拳銃の少年の前の個体をクリフのSR-47が砕く。

 たちまち地面の泥が脳漿と脂肪に埋もれ始めた。


「おん? 味方か?」


 少年はレイチェル達の方を見やる。


「そうだ。来るとき話した部隊さ」


 カイルの言葉を切り裂くように残りの三体をパッカーのSR-25が貫いた。


 沈む十弱匹の巨人たちを見やり、少年は口笛を吹く。


 「やるゥ」





 合流した部隊はまるで倅の帰郷のように一時和気藹々としていた。

 

「良く戻ってきたな、カイル」


 レイチェルはカイルの頭を二度撫でた。


「どうも、お待たせしました」


「会いたかったぜ、兄弟」


 パッカーがその腕をつつく。


「意外と強かにやってたようで安心したぞ」


 セドリックも背をたたいた。


 ウェバーやクリフとは言葉こそ無かれどハイタッチで答える。


 ひと段落付いたところでレイチェルが疑問を呈した。


「ところでそうだ、その五人は?」


「俺を森から拾ってくれた味方ですね。ただ奥の二人はこの森で初めて会った、遭難者といったところです」


 少年は待ってましたというように名乗りを上げる。


「俺らは漁師サ。こっちで不純物を集めてる。俺はベルンハルト、剣持ってる奴がフリッツ、銃の奴がツェーザルだ」


 フリッツとツェーザルは手を上げたり軽く会釈したりで答えた。


「んでその奥のは甲冑はバーニー、帽子のはチェスター。こいつら武器無くしちまってな、やっぱり別世界から来たらしい」


 西洋甲冑姿と西部開拓期のカウボーイ風な風体をした二人は若干パニック気味であったのか特に反応を示さなかった。


「ま、そんにしてもサミュエルの兄貴まで来てるとは思わなんだぜ。久々じゃんか」


「ああ、そうだね。最近仕事が回ってこなかったから本当に久々だ、そろそろ街に帰ろうかと思っていたところだよ」


「じゃあ一遍これで帰ってみようぜ、この二人もちょいと面倒見てもらいてぇしな」


 その後カイルとベルンハルト達自身の説明によりここに来た事情が説明された。

 レイチェル達はベアハートの仕事も兼ねてこちらに来た事、カイルも同じような理由で三人について行ったことなどなど悉皆の事情を伝えあった彼らはやっと一つに戻ったといった感じで今後の進展に話が行く。


 一応は帰還後にアイゼンシュタインを通して戻る手立てを探すという大まかな目標設定と、手に入れた通貨で一度市場を見て回ることも提言される。


「皆さん方、お決まりかい? そろそろ進んだ方がいいと思うぜ。早く切り上げてもいいが、あと三日分ほど漁は残ってるんだしサ」


 ベルンハルトの一言まで立ち止まっていた一行はふと現実に引き戻されたのであった。




 次の漁場までは主にサミュエルからバーニーとチェスターへの聴取が進められながらの移動になった。

 実のところこのように迷い込んだ人間がいないかとその応対はクラッグルヤード・クランに行政から託された仕事の一つでもある。

 サミュエルは彼らにどこから来たのか、状況に対してどの程度理解が言っているのかを聞き、こちらについての事情を説明する。


 幸いにも前者は丁寧はイギリス英語、後者は若干ぶっきらぼうな調子のアメリカ英語を話したのでコミュニケーションは難しくなかった。


 「――なるほど、お二方は戦場から。こちらに来た時トロールとたたかったが、チェスター氏はそのときリボルバーを破損し、バーニー氏はそれを助けようとしたが剣が折れたので走ってベルンハルト君たちに追いついたと」


 「ええ。大砲の前に立たされたような気分でした」


 バーニーの具合は今は落ち着いている。


 「まさか甲冑の騎士が助けてくれるとはな、十年来の相棒は逝っちまったがありがてえ話だ」


 レイチェルはふとリボルバーの話から気になって戦利品の雑嚢を漁った。


 「ひょっとして、あなたの相棒というのはこれか?」


 レイチェルはヒンジの折れたMk2を彼に差し出す。


 「おっ、それだそれ! 俺が彫った牛のメダルがついてるぜ、間違いねえ。ありがとよ」


 セドリックもブロードソードを取り出してバーニーに聞いた。


 「これももしかすればあなたのでは?」


 「ああ、おそらくそうです。捻じ曲がるようにして刺さりかけで折れたので、これはとても似ているな……ありがとう、頂きます」


 ベルンハルトは眉を上げて感心した。


 「お、そいつぁ殊勝だな、良いこった」


 パッカーが言う。


 「俺たちゃ得物にもこだわりがあるんでね、各々」


 そういうと彼はSR-25のチャージングハンドルを一度引き、チャンバーから7.62mm弾を取り出す。

 視線を送られたカイルも同様にして弾丸を取り出すと彼に放り渡した。


 「おんなじ部隊の中だが、全員が全員共通の弾丸を使ってるわけじゃねえんだ。ウチらのお上が結構ゆるゆるでも通してくれたんでね、皆好きなヤツを好きにカスタムして使ってんのさ」


 彼らの装備は二人か三人単位でしか弾丸の共通性がない。


 カイルのSR-16、レイチェルのXM8にウェバーのM27 IARは同じ5.56mmNATO弾、セドリックのSCAR-HとクリフのSR-47、パッカーのSR-25も7.62mmで弾丸の可能だ。

 サブアームについてもカイルとパッカーが45口径、それ以外が9㎜となかなかにバラバラである。


 最新の弾丸の省スペースパッキング技術から共用を無視して単独の戦闘能力で見ることができたのもこれが認められている裏にはある。

 

 「まあこれも損ばっかじゃない。統一してると弾丸が状況にマッチしていないこともあるが、別々の弾薬を使ってると遠距離や目標の性質に合わせたヤツが対応すればいいとかって柔軟性も増す」


 一小隊で多方面への機能を求められる彼らなればこその構成だった。

 

 各々が義肢を持ち、さまざまな銃を持ち寄り、人知れず切り札として仕事をこなす。

 この部隊は度の側面においてもすべてと一線を画していた。

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