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Protocol;Earthbound  作者: Sierra
3章 軌道修正
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帰巣本能

 翌日、定刻通りに姿を現した使いは部隊がこちらに来て以来最も目を引く体裁であった。

 クリフは唯一それがペストマスクの類に属するものだと知っていたが、とかくクラッグルヤード・クランの代表者を名乗る彼・ブレンは樹海まで一行を案内し、その後また別な人員が実働要員としてつくことをレイチェルに表明した。


 手配されていたジープ二台に分乗して砦に到着した部隊を待ち受けていたのはブレンのそれとはまた少し違う仮面を着けた白髪の青年であった。


「長旅お疲れ様、私はサミュエル・クラッグルヤード。こちらでの仕事全般を受け持っているんだ、今日はよろしく」


「こちらこそ。私はレイチェル、あとの四人は同じ部隊の者だ」


「ええ。そしてもう一人がこの森に入っていて、それを探すついでに仕事も、と。大方のことは聞いています。すでに午後なので、動くにしても早いほうがいいでしょう」


 雑嚢にサーベルとナポレオン・コート姿のサミュエルはブレンと同じクラッグルヤードを名乗った。


「この森に漁がらみで入るには大方ひとつのコースがあります。基本的にはそのルートから一キロの範囲以内にしか動くことはありません」


 そういうとサミュエルは五人を引き連れて隔壁を超え、一枚の小地図を彼らに渡して歩み始める。


「そこに書いてある通りに漁をすると一日に二漁場ほど漁れます。なので今日はその分だけ歩いて一旦休み、翌日の昼頃に四つ目の漁場の痕跡を調べて動向を決めましょう」


「なるほど……セドリック、お前はどう思う?」


 セドリックはレイチェルから地図を受け取り、しげしげと眺めて一度後ろを振り返った。


「そうですね、ペース配分はそれでいいと思います。それとこの地図の赤い印があるところは樹木に同じ色の布が巻いてあるようですね、さっき見つけました」


「そうか。クリフ、次に印が見つかったら位置情報として一応記録しておけ」


「了解です」



 一行の長靴はやがて水銀めいた泥の地帯にさしかかる。


「ここからはオールド・カインドが現れるようになります。セフティは外しておいてください」


レイチェルはハンドサインで部隊に警戒を命じる。


「……しかし、暗いな」


「木の葉から光が透けて見えません。ただの木じゃなさそうだ」


 サバイバル慣れしているはずのセドリックですら驚きをもってこの森に臨んでいる。

 このとき彼は視覚インプラントを起動して比較的遠方を見ていたのだが、やはり集める光が少ない分暗視機能だけに頼って進むことも難しいように思われた。


「ここから五キロも先に行けば未開の地です。三百年以上昔から存在しているのに、今わかっている以上は誰も開拓したがらない」


 ヤバいエリアだなぁ、とクリフが漏らす。

 パッカーとウェバーは比較的のんびりと歩みを進めているが、それでも周辺を見回す頻度は少なくない。



 一時間少々進み続けているとサミュエルが第一の漁場と呼ぶ場所に差し掛かった。


「おそらく彼らはここでも少し漁ったようですね。泥を掘り返しているあたりは手練れの漁師も一緒でしょう、事実そういった話はブレンから聞きました」


 セドリックが周辺を少しく調べると、奇妙な生物の死体とともに.357マグナム弾のものと思しき空薬莢が見つかった。


「彼らここで戦ったみたいだ。でもカイルは撃ってないようです。ピストル弾のようですが、MEUの四十五口径じゃない」


 クリフがインプラントを介して画像を取り込む傍らでウェバーが生物の死体を調べる。


「……一つはきれいに切り裂かれている。でもほかの二つは乱雑に外力でつぶされています。しかし、それにしちゃ殻はとても固いようだ」


「これはコール・エッグと呼ばれる種類です。死体は一部材料になるので殻だけ取っていきましょう」



 続いて第二の漁場に付くころには午後三時ほどになっていた。

 此方の漁場には漁った後はあるが、以前のような戦闘の痕跡はない。

 その代わりとして刃折れのブロード・ソードとヒンジ部分で真っ二つに折れたマークⅡリボルバーが見つかった。


 雑嚢へそれらを回収する傍らパッカーが疑問を呈する。


「落ちている物の特性がバラバラ、ってかここにある意義がわかんねぇな。なあサミュエルの旦那、なんでこんな塩梅なんだ?」


「それは純粋に不純物として生成された物品であるか、それとも別の場所からの転移でここに移動してきたかです。こちらの生物に対して攻撃手段を持たない人々が移されてしまうとどうしてもこうなる……」


 サミュエルはそう言いつつも首を傾げた。


「ただ、今のは不純物特有の気配がしませんでした。そうかといって転移とも考えにくい泥の固着具合で……いえ、まあ考えても仕方ない。先を急ぎましょう」



 パッカーはその歯切れの悪さに少しく不穏な気配を感じ取っていた。 

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