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Protocol;Earthbound  作者: Sierra
2章:Trübheit
12/16

鳥追い

活動報告上である通りペストマスクの奴が改名しました。

ついでにツェーザルの拳銃も銃身長おバカだったので短くしました。

 コンクリートの壁とトーチカを抜けて、カイルはあの森へと再び足を踏み入れた。

 ともすれば自分より若いやもしれぬ前を行く三人に安心感というか、どことなく奇妙な感覚を覚えながら義肢を身に着け、この間メンテナンスしたSR-16を携えて戦闘態勢を整えている。


「今回は北東まで行く。今日は片道の三分の一、獲物を集積しながら移動するからそのつもりでな」


 ベルンハルトは歩きながら今回のプランを説明した。

 それをちゃんと聞きながらも、カイルの神経は疲れない程度にリラックスと緊張のバランスを保っている。

 少しの間だが経験した森の中の事、まったくの初見でない分下手に気を詰めすぎるのもいけないと彼は分かっているのだ。


 それにどうせ長い道のりになる。

 事前知識で詰め込んだぶんのオールド・カインドもおそらくインプラントで接近くらい検知できると割り切ってカイルは漁に臨むのだった。



 十分くらい進むと気の密集率が徐々に上がり始めるころだが、この時点で気づくことと言えば若干の気候の変化だろうか。

 前に来たときは深部から出てきたのもあるかもしれないが、相当湿度は高く感じていた。

 しかし今日は心なしか()()()()している。


 銃にとっても都合は決して悪くはないし、なにより地面のコンディションも少しはましになるだろうとカイルは思考していた。


「なあ、ここの気候って結構変わりやすいのか」


「ああ」


 ツェーザルが答える。


「一応深部は日光も届きにくくて似たようなものと言えばそうだが、湿度や風の具合、向きは数日から一、二週間程度でよく変わる」


「漁への影響は」


「どこにでも言えることだが地面のコンディションと、それから運次第で連中が風上をとってくれれば儲けものだ。言葉で言うには些末なことだが、この森においてはそれだけの事でもだいぶ助けになる」


 意外と自分の思考の範疇で済むこともあるものだなと彼は頷いた。



 そのまましばらく進み続けて辺りが暗くなってくると気温は下がり、変わって風の方が湿度を上げて吹いてくる。

 来るまでは綺麗な快晴だったというのに、まるで昔夏に行った鍾乳洞がそういえばこういう感じだったかと彼はふと思い出した。

 このまま進めば最初にここへ来たとき同様、木々の密集した暗い危険地域に突入するだろう。


 カイルは銃を改めて持ち直して緊張を高めていった。


 ベルンハルト達もそのように気持ちを切り替えたのだろう、急激に視線がさまざまの場所に散り始めているのが目に見えて分かる。


「漁場はまだ先だが、怪物らはこのあたりから出るぞ」


 急に聞きなれない、荒さを感じる低音の若い声を耳にして彼はぴくりと背を伸ばした。

 声の主はこれまであまり話してこなかったフリッツである。


「ああ。ありがとう」


 この少年の髪の癖はカイルに同じ隊のパッカーを思い出させもしていたが、しかしフリッツの容貌は彼と比較するにはあまりにニヒリスティックだった。

 パッカーはもっとウィットに富むというか状況を問わず余裕なように見え、ある種狂気性を感じるタイプの強者(つわもの)といえる。

 対しフリッツは純然たる戦闘者といったふうな冷たい様相である。


 その若さも絡むのだろうが、これらのギャップは彼に対するイメージを無為に錯乱させた。


 もう一つ気になるのが手に持った長剣で、やはりそのカラーリングの毒々しさがどうしてもカイルの目を引くのだ。


 本体は幅広の先が逆アーチ状になったいわば中世の処刑に使うようなスタイル。

 (つば)の中央から剣先に向けて伸びるダークパープルの溝にならい、左右対称にエングレーブのような直線の溝が走っている面白いものだ。


 彼のこれもトリュープハイトには違いないが、だとすれば一体どういう作用を持った代物なのかと言う好奇心半分でカイルはこれを捉えていた。




 それからさらに数十分、森に侵入しておおよそ一時間三十分時点で一行は完全に森の内部に到達する。

 そこからはもうカイルにも見覚えのある景色で、あの銀色の泥ややたら白くて背の高い木々の乱立するところはもう間違いなくそれだと分かった。


「そろそろ最初の漁場に着くぜ。今んとこ何もないが、こっからは気い付けろよ」


 ベルンハルトの口調はまだまだ余裕ありげである。

 少しだけ気になって視覚インプラントの暗視を使ってみたが、今のところ何も変わったものは見えないただざわざわと上の方で響く葉擦れと風の音が辺りを支配していた。


 集音を元の感度に戻して三人の様子をうかがう。

 大股なベルンハルトとスタスタ歩いて行くフリッツ、それらとは対照的に安定した足取りのツェーザル。


 慣れと軸の強さを感じさせる若い先達。

 それを見て周りの事よりも、この先でまみえる物品に思いをはせようとしたその時だった。


 急にツェーザルの歩みが止まる。



「何だ、何か見つけたのか」


 ツェーザルは人差し指を口元にやり、逆の手で大腿ホルスターから拳銃を抜きつつ低声で言う。


「居るぞ」


 ほかの二人も臨戦態勢である。

 一気に緊張状態へと立ち戻ったカイルは小銃を肩付けに構えて彼らの視線の方向へ向け、同時に視聴覚双方のインプラントを動員して情報の集積にかかった。


 すると聞こえたのは足音でも唸り声でもなく、さっきと同じような環境音に交じるほんの小さなラップ音だった。

 なんのことはない、切れぎれのブルーノイズのような音がちらほらと聞こえるだけだ。


 しかしカイルはそれが何の音なのか知っていた。


 資料館で読み漁った本のうち一つ、とあるオールド・カインドに関する記述にコールエッグという名前のものがある。

 楕円形で一つ目のついた真っ黒な体と左右対称に伸びる針のような触腕が特徴的なものなのだ。


 今聞こえているブルーノイズはその触腕と内部でつながった機関から出ていると考えられているのだそう。


 余談ながら名前の元はコール、石炭のような卵という具合になる。

 このような割と直球なネーミングを目にして、幾度か館内で失笑を漏らしそうになったことをカイルは記憶していた。


 さて、そんなことはさておきこの怪物の特性は異様に硬い外殻である。

 卵型のシェルの高度は只でさえ高い上同硬度の触腕で防御までしてくるという。

 攻撃はその分地味だが、長い目で見れば体力を使う持久戦に持ち込まれるのはこちらが一方的に困る。


 カイルはそれで撃つのをためらった。

 五・五六ミリでそのシェルを貫けるかは分からないし、できるとしても弾薬の消費は大きい。


 展開次第では跳弾にも気を使うときて接近戦を考え出したカイルをよそに、フリッツが動いていた。



 ノイズの聞こえた方向は一行の左。

 ツェーザルが彼のしようとしていることを解したのか、そちらに向かって適当な牽制射撃を行うことで連中を刺激しおびき出す。


 出てきたのはすこしばかり可愛げはあるがとげとげしいシンプルな楕円形の影が三つ。

 フリッツとの距離はわずか二メートル。


 最初の一体が彼に向かって触腕を伸ばすが早いか、それを避けるでもなくフリッツは長剣を横薙ぎに振り抜いた。


 すると影は突然正面の目からインクのような液体を吹き出し、触腕を力なく漂わせながら地に沈んだ。


(おいおい、まさかあれで斬れたってのか?)


 困惑するカイルの側でベルンハルトが動く。

 機敏な動きでフリッツがあたったのと逆側の卵を標的に、触腕を手で捌きながらシンプルな右ストレートをかました。

 今度はあろうことかシェルがド派手な音を伴ってかち割れ、黒い有精卵はわかりやすい最期を迎える。

 残るひとつを方向転換から身を捻っての左フックで粉砕し、戦いは呆気なく終わった。


「……」


 呆気に取られているカイルに向き直ると、ベルンハルトは悪戯っぽく笑う。


「ふう、まあ今のがトリュープハイトの恩恵ってやつよ」

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