休題:漁具
はっきり言って前回詰め切れなかったクリーニングシーンです。
銃器関連の話でいっぱいなので、多分読み飛ばしても問題ない.5話的存在になります。
さて、肝心のクリーニングについてだが、本来ならば完全分解してメンテナンスすべきだが生憎今からでは少々辛い。
そもそも時間が遅いうえ、三丁もあるとなると流石に難しいだろう。
深夜まで精密作業を続けていればメンテナンスの質自体にも波及する可能性は無きにしも非ず、あまつさえ明日からはこれらを持って漁への準備に赴くのだ。
こちらの世界も銃火器を盛んに扱っている以上、メンテナンス器具や方法が確立――あるいは輸入されているべきではないか。
という事で、カイルはフィールドストリッピング(通常分解または野戦分解、工具を使わないレベルでの簡易分解のこと)のうえ銃身清掃程度で済ませることにした。
最初に弾倉を抜き、チャンバーが空であることとセフティが安全位置に入っていることを確認していよいよ作業に入る。
SR-16はM4よろしく二つのピンを抜いて上下レシーバーを分ける。
手前側のピンはセフティより少し後ろ、マズル側のピンはハンドガードの付け根辺りだ。
上下レシーバーの分かれ目はストック前の独特の起伏部から伸びるライン、刻印の上を通ってハンドガード付け根辺りまで続いているこの溝である。
銃身は無論上側、後端からマズルまで見通せるようになっている。
(ちょいと汚れてんな。でもま、泥はあんま入ってないか)
カイルはいよいよ雑嚢からクリーニングキットを取り出す。
内容はT字のハンドルがついたロッドと先端に取り付けるブラシ、大小の布片がいくつかとかさばらない程度の瓶に詰め込まれたガンオイルと点数は抑えられている。
レシーバー後端に露出しているボルトキャリアーとチャージングハンドルを順に取り出し、キャリアーは各ピンなどを抜き取ってさらに細かく分解して一応準備完了。
分解したボルトキャリアーは各々磨くとして、まずは肝心のバレル内部を清掃する。
清掃とはまた別の、少し大きめの布片を下に敷いて銃身へオイルをひく。
オイルを引き終わったらロッドにブラシを取り付け、発砲時に付着した煤や火薬、泥などの汚れを落とす。
この汚れには鉛などの金属も良く含まれており、先程ひいたオイルはそれを溶かす作用も持っている。
ブラシで銃身内を何度か往復させて引き出すと、やはり多量の煤に交じってくすんだ銀色の泥が付着していた。
――前から思っていたが、この泥といいあの木といい、一体何なのだろうか。
どちらにせよこれから明らかになることだろう、と考えながらブラシを外し、ロッド先端付近の穴に大き目の布片を通して回転させながら銃身を往復させる。
こうして汚れをふき取り、銃身を後ろから覗いてみて概ね綺麗になっていることを確認したところでバレル清掃は一応の終わり。
ボルトキャリアーも布片とオイルで磨いて汚れを落とし、最後にこれらをアッパーレシーバーにチャージングハンドル共々戻せば簡易的ながらクリーニング全体も終了だ。
(とりあえずブラシとか洗ってくるか。蛇口どこにあったっけ)
カイルは慣れた手つきで上下レシーバーを再連結させながら、建物の構造を思い出そうとするのであった。
さて、部屋に戻ってからはMEUピストルの清掃に入る。
こちらはM1911と構造的差異はほぼない。
比較的簡単に分解することもできるので、こちらは一応スライドも吹いておくことにした。
ライフル同様マガジンを外し、スライドを引いてハンマーを上げると銃本体右側からスライドストップを押して外す。
こうすると簡単にスライドとフレームが分離する。
分解したスライドのほうはスプリングガイド、リコイルスプリング、スプリングプラグが一番下のほうにある。
スプリングガイドは一番手前にあり、上部が欠けた円形の板に通された細い円柱状をしている。
この円柱に続くリコイルスプリングがはまり、円形の板でストップする仕組みだ。
リコイルスプリングはそのままスライドを押し戻すバネであり、銃をマズル側から見た時銃口下にあるチェッカリングを施されたような表面のパーツ、つまりスプリングプラグという一回り大きな筒に前部が収まっている。
またバレルブッシングという銃口とスライドの間を持っている部位があるのだが、スプリングプラグを取り外すにはそちらの方を先に分解した方がいいかもしれない。
バレルブッシングは水平方向に捻ることでロックが外れて取れるようになる。
こうして四つのパーツを取り外すことで本体のバレルに手を出せるようになるのだ。
さて、こうしてバレルをスライドから取り外すことができたのだが、これ以上の細かいパーツには分けない。
正直なところそこまでであれば完全分解と手間は変わらないし、見たところ大して汚れているわけでもないというのがその理由だ。
詰め込まれていたパーツを取り外してすっきりしたスライドも布で磨いて汚れを落とし、バレルにもオイルを引いてロッドで清掃。
簡単だが、拳銃程度ならこれくらいのものだ。
本格的に清掃するのは明日以降でいい。
さっきまでと逆の手順でバレルを戻し、バレルブッシングをつけ、スプリングプラグをはめてリコイルスプリングとスプリングガイドを手早く取り付けていく。
スライドをフレームに戻してスライドストップを挿せば元通りだ。
(次は擲弾筒か)
そのまま流れ作業で擲弾筒の清掃に移る。
と言いたいところだが、実のところこれは難しいものだった。
まず彼はあまりこれを使ったこともない、つまり頻繁に清掃しないのでそれだけ分解も相対的にしていないことになる。
加えてロータリーマガジンを使用する独自の設計のため、泥の入り込みが多かった場合かなり手を焼くことになると予想された。
場合によっては店にもっていってみてもらうというのもあるが、そもそもこんなモデルがこちらにあるとは思えない。
ダブルアクションの撃鉄も面倒さの一つである。
最早そこまでいけばフィールドストリッピングとはいかず、工具を使ってほぼ分解してしまった方が早いのだ。
そのため、一応マガジンや給弾部付近を確認することで泥の入り、錆の具合を見ることにした。
弾倉に入っている六発の榴弾については泥のつき、異常などはなし。
リュックに入れていたこともあるだろう。
給弾口にも目立った埃や錆など動作不良の原因になりそうなものはない。
(湿度の高い森にだいぶ居たから心配してはいたが、意外と大丈夫そうだな。頼りになるんだか面倒なんだか)
処置にはたびたび手を焼かされるが、どこか憎めない腕白小僧だとカイルは思っているのだった。
――追記:ナイフはもちろん問題なし。いい子だ。




