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96話 「いろいろとタイミングが重なったようです」

ヒューゴの言葉を聞いてがばっと身を起こす八木。

その勢いに若干引きつつも話をはじめるヒューゴ。


「……そんなわけで、オークションがそろそろ終わるんだよ。あまり大金抱えたまま動くのは危険だからさ、メンバー全員集めて動こうって話なんよ」


ダンジョンで得た財宝。そのオークションがようやく終わりを迎えるとの事。

そしてオークションが行われていた街、それこそまさに八木が向かう事になるリッカルドだ。

ダンジョン攻略できるレベルの探索者が15名、護衛としてはかなりのものだろう。


「お願いしますううう!」


「おうよ……まあ、詳しい、話は、後で……はなせえええ!!」


ヒューゴの手を取り感謝する八木。

手を離そうと心みるヒューゴだが思った以上に八木の力が強く引きはがせないでいる。


「よかったじゃん、皆が護衛してくれるんならだいじょぶそだねー」


宿の皆が護衛につくと聞いて安心した様子を見せる加賀。

一応は八木の事を心配していたようである。


「問題は街中っすねー」


「へ?」


ヒューゴの手を離さない八木を見ながらぼそっとつぶやくガイ。

それに続き、八木とヒューゴのやり取りを見ていたアルヴィンも口を開く。


「私たちは私たちでやることがありますので、八木は城の中にいくのでしょう? ついて行けたとしても数名だと思いますよ」


「と、なると少人数でむっちゃ強い護衛が……あ」


少人数で強い護衛といえば加賀には一人、というか一匹心当たりがあった。

加賀がちらりと視線を向けると自然とみんなの視線も集まる。


う?(なんぞ)


八木の居なくなったソファーに寝そべりくつろいでいたうーちゃん。

どうやら皆の話は聞いていなかったようである。


「うーちゃん! うーちゃん様! お願いしますうぅうついて来てくださいいいい!」


うー!(はーなーせえええええ)


ヒューゴの手を離しうーちゃんの脚へとしがみつく八木。

うーちゃんにゲシゲシと蹴られまくっても手を離さないあたり中々にタフである。


「うーちゃん。お願いしてもいいかな?」


う(む……)


加賀にお願いされ八木を蹴る脚がぴたりと動きを止める。

少し悩む様子を見せるが、軽く息を吐くとしょうがないねえとつぶやくのであった。


「んじゃ、これで護衛はだいじょぶと。あとはエルザさん待ちだねー」


「いやー、本当助かったわ……知らない人が護衛とか怖すぎる」


「まあ、道中はまかせとけよー」


笑いながら酒をかぱかぱと飲み始めるヒューゴ。

ふと何かを思い出したかのようにそういえばとつぶやくと加賀へと声をかける。


「加賀ちゃんはどうするん?」


「ボク? どうって……作る量が減るぐらいでいつも通りですよ」


いつも通りと答える加賀に対しヒューゴは軽く手をふりながらいやいやと言葉を続ける。


「バクスさんと咲耶さんも日中しばらくいなくなるってー話だぜー。なんだっけ、服の教室? だかなんだか開くって言ってたなあ」


「え゛っ」


どうやら加賀は初耳のようだ。

ヒューゴ達も今日聞いたようなので、極最近出てきた話のようである。

とりあえず話を聞かなければと加賀は咲耶とバクスを呼びに行くのであった。



「なっるほどねー」


「前々から教えてほしいって話はあったのよ……そこに皆しばらく宿から離れるって聞いて、ならちょうど良いと思って……受けちゃった」


偶然というのは中々に重なるものである。

ヒューゴ達の用事に八木と咲耶の依頼、見事に重なっている。


「とーなると、日中はボクとアイネさんだけかな? 宿にいるの」


「あの……それなんだけど」


おずおずと手を挙げ発言するアイネ。

加賀が続きを促すと言葉を続けた。


「国からいい加減顔を出せと言われてて、さすがにそろそろ行かないとまずそうなの……仕事の引継ぎもやってないし」


最後にぼそりとまずそうなことを呟くアイネ。

国際会議が終わりすぐに宿に常駐することになったアイネであるが色々とほっぽり出していたらしい。


「ん、ということは加賀は日中一人になるのか……それはあまり良くないな」


「んー、どうしよ。母ちゃんの教室いってもなーやることないだろうし……」


再び手を挙げるアイネ。

今度はおずおずといった様子ではなく、少し期待するような視線を加賀へと向ける。


「だったら……私と一緒に行く? 護衛なら私だけで大丈夫だし、それに見てもらいたいものがあるの」


護衛がアイネだけと聞いてそれは……と思うが、よく考えればアイネさんは人ではない。

まわりの様子を見るに特に反論があるものは居ない様子であり、加賀も納得したようだ。


「護衛は……そっかアイネさんならだいじょぶそうだね。見てもらいたいものって?」


「チョコの原料があるの、でも加賀に見せてもらったのと違うみたいで……よければ一緒に確認したい」


ここしばらく菓子作りにのめり込んでいたアイネであるが、加賀から教えてもらったレシピのうちいくつか材料が足らず手を出せないでいたものがあった。

チョコの原料がそうであり、どうやらものは彼女の国に存在するようだ。

しばらく放置していた国からの呼び出しに答える気になったのも仕事の引継ぎというよりは、チョコの原料目当ての方が比重が高そうである。


「ボクは……うん、アイネさんが護衛としてついてくれるなら良いと思う」


「あー、アイネさん。もし相手が大勢だったりした場合はどうすんだい? 多分問題ないんだろうけど一応聞いといていいかな?」


念のための確認と言ったところだろうか、少し酔っ払いつつも真剣な目でアイネに尋ねるヒューゴ。

アイネはこくりと頷くと静かに何かを口ずさむ。


「……召喚魔法か」


床に突如として現れたぼんやりと光る魔法陣。


「でも一体だけじゃ」


そうヒューゴが言いかけたところでアイネに変化が起きる。

みしりと音を立て首にを一周するように裂け目が走る。ごろりと垂れ下がる首、そして首の裂け目から這い出るようにいくつもの頭が現れる。もっともそれは人と変わりない今のアイネの顔ではなく、出会った頃の骸骨のそれであったが。

かたかたと歯を鳴らすように次々に口ずさみはじめる骸骨。いくつもの声が重なりまるで読経の唱和ようなそれに思わず背筋を震わせるヒューゴ。

骸骨の数に比例して魔法陣が増えていく、やがてすべての魔法陣から現れたのはまさに悪魔と呼ぶべき姿をした者たちであった。


「こんな感じでどうかしら」


「……ええ、文句ないっす。ごめんなさい」


文句ないというヒューゴにアイネは静かにほほ笑むのであった。


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