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91話 「収穫祭 5」

「いやー、いっぱい売れたなあ。これ去年の倍は売れたんじゃない?」


にっこにこ顔で今日の売り上げを袋につめるハンズ。

手に持った袋は小銭ではちきれんばかりに膨れていた。


「途中でパン足らなくなったしな、まさか追加で焼く羽目になるとは思わんかった……うまい」


時刻はもうそろそろ夜中である、出し物も終わり人通りの少なくなった大通りからは店を仕舞い出す屋台がちらほらと現れ始める。

加賀達の屋台も客足が途絶えそろそろ店仕舞いかと言ったところだが、火を落とす前にせっかくだからと余った食材を適当に調理しつつ遅い夕食をとっている。


「あー! 加賀っちの屋台みっけ」


「あら?」


聞き慣れた声に手を止め振り返る加賀。

そこには見慣れた何時もの宿のメンバーがいた。


「ねーねー、何の屋台なの? この赤いのがそお?」


ふらふらと屋台に駆け寄り加賀の手元をのぞき込むシェイラ。

加賀は酔っ払い何時も以上にぐいぐい来る彼女を片手で押さえつつ、自分用に作っていたカリーブルストを手渡す。


「カリーブルストだよー、ちょっと味濃いし香辛料いっぱいだから好み分かれるかも」


「へー、ありがと。食べてみるねー」


器を抱えふらふらと屋台から離れるシェイラ。彼女が向かった先にはどこから持ってきたのかテーブルやら椅子が並び、ちょっとした宴会のスペースが出来上がっていた。


「加賀殿、すまないが皆の食べるもの用意して貰っても良いかな?」


「はい、だいじょぶですよー。とは言っても屋台なんで作れるのは限られてますけど……」


「もちろん構いませぬ。ではお願い致しますね」


口調は丁寧だが目がうつろなロレン。

ふらふらと席に戻る見て不安を覚える加賀であったが、何時もの宿の光景を思い出し、そう言えば酔うとあんな感じだったなーと作業を進めるのであった。



「はーい、こっちもカリーブルストおまたせー」


「なんだこの赤いの、やっべえんですけど」


ケチャップで赤く染まったカリーブルストを見てケタケタと笑うヒューゴ。

かなり酔いが回っているようで何時にもまして言動がおかしい。

フォークを使い食べようとするがウィンナーがころころと転がり、なかなか食えないでいる。


「ちょー転がるんですけど。やべえ飯も食えない、俺もうだめだ……加賀ちゃんお願い」


「はい?」


突然名前を呼ばれた加賀が反射的に振りかえると酔っ払い顔を真っ赤にしたヒューゴが口を開けて待ち構えていた。


「ほら、あーんって」


加賀の目から消えていくハイライト。

ゴミを見るような視線を口を開けたままのヒューゴに向けるが完全に酔っぱらった彼に気がつく様子はない。


「何この酔っ払い超面倒くさい…………」


「加賀っち、本音漏れてる、本音」


ちらりと辺りを見渡す加賀であるが、皆一様に酔っ払っており止めに入るものは居なさそうだ。

しぶしぶため息交じりに承諾する加賀。ウィンナーを適当に幾つかフォークにさしヒューゴの口に突っ込む。


「……しょうがない、はい口開けてー」


「うひょーい……お、うめえじゃん!」


うまいとはしゃぐヒューゴに向けて加賀はにっこり微笑むと言葉を続ける。


「一回1万リアね」


「たっけー! ぼったくりじゃんかよー」


再びケラケラと笑い出すヒューゴ。壺に入ったのか何時までも笑っている。

呆れた様子で屋台に戻ろうとする加賀であるが、振り返った先に待ち構えているものがいた。


「うーちゃんてば……」


うー(あーん)


口を開け待ち構えていたのはうーちゃんであった。

驚いたような、呆れたような、悲しいような複雑な表情をみせる加賀。

うーちゃんの視線が手にもつ料理に注がれているのを見て、苦笑へと変える。


「しょーがないなー、もう。ほら口あけてー」


うー(おー)


さらに口を大きくあけたうーちゃん。

加賀は皿に乗っていたホットドッグをつかむと口の中に押し込んでいく。


「おいしい?」


うっうっ(あの、一口ではちょっと……あの、ちょっとむぐぉ)


「何しとんのだお前ら……」


両手に料理を持ち呆れた顔で二人を眺めるバクス。

ごめんなさーいとあやまり屋台へ戻る加賀とうーちゃん。

宿のメンバーが酔い潰れるまで今しばらくかかるだろう、今日はまだまだ休めそうにないと気合を入れなおすのであった。




時は少し過ぎ、無人のはずの宿には明かりが灯っていた。


「…………」


仕事を終え、宿に戻った八木であるが、宿の客も従業員も皆祭りに出かけており、宿には八木以外誰もいない。

夕飯の時間もだいぶ過ぎており、腹をならす八木であるがあいにく加賀もバクスもいない。

とりあえず空腹を紛らわせる為、余りもののパンをかじるのであった。


「……もう夜中なのに、まだ誰も帰ってないのか」


もそもそと口を動かし水でパンを流し込む。


「……いくか」


まだ眠くなるには時間がかかる、それまでずっと一人で過ごすのも中々に辛いものだ。

八木は上着を羽織ると宿をでて祭り会場へと向かうのであった。


30分後、そこには酔っ払いに囲まれしこたま飲まされる八木の姿があったとかなかったとか。


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