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88話 「収穫祭 2」

街の東門から入って少し行ったところ。そこに一際目立つ一軒の宿屋がある。

宿の食堂ではバクス、オージアス、加賀、それに肉屋のハンズも加わった4名が収穫祭に向けて打ち合わせを行っていた。


「それで、だ。屋台で何を出すのかって話だが……一応よくあるのが串焼き、焼いた肉をパンに挟んだやつ、チーズ焼きやケヴィンなんかも人気だな」


バクスが挙げたのは屋台での定番となっている料理である。

串焼きや焼いた肉をパンに挟んだやつと聞いて、どこも似たようなものがあるのだなと考える加賀であるがチーズ焼きとケヴィンと聞いて首をかしげる。

チーズ焼きであれば何となくイメージが付きそうではあるが、ケヴィンというのはどんな料理なのかその名前からは想像もつかない。


「はい、バクスさん。チーズ焼きとケヴィン?ってどんな料理なんです?」


「む……」


加賀の問いに顎に手をあて考えるしぐさを見せるバクス。

依然食べた際の記憶を呼び起こすと加賀に向け伝えるべく口を開く。


「チーズ焼きは名前そのままだ、竈でチーズ丸ごと焼いて溶けたチーズをパンにつけて食う料理だ。

溶けたチーズとパンの相性良くてな、旨いぞ」


「確かに、まちがいなく美味しいでしょねー」


溶けたチーズにパン、合わない訳がない。

チーズはこの街の名産の一つである、加賀も何度も食べたことはありその味は良く知っている。

そのまま食べても良し、料理に使っても良い。自然とその味を思い浮かべ唾液が出てくる。

ほかの皆も同じなのだろう、加賀の言葉に同意するように頷いている。


「酒のあてにも良いんだよなあ」


祭りとなれば当然酒もでる。

チーズをたっぷり付けたパンにかぶりつき、酒を煽る。その場面を想像しハンズの顔が自然と緩む。


「んで、ケヴィンは……簡単に言うとウォーボアの塩茹でだな。それに酢漬けの野菜とか合わせて食うんだがこれが中々いける。普段は手間かかるからめったに食えるもんじゃないが、祭りとなれば話は別だ」


「手間、ですか?」


手間がかかると聞いて不思議そうに頬に指をあてる加賀。

もちろん灰汁をしっかり取って火加減みたりと多少手間はかかるだろうが、それでもめったに食えるもんじゃないと言う程ではないと加賀には感じられた。


「俺も詳しく作り方を知ってる訳じゃないんだが、なんでも数時間かけて茹でるそうだ。時間もかかるし薪やら魔石やらの消費量がばかにならんしで……こういった機会でもなければそうそう食えん。確か普段から出してる店が1~2軒あったかどうかぐらいだったな」


「へー……」


「ま、俺らはそこまで手間かけるつもりはないけどな! あ、加賀ちゃん、参考に聞きたいんだけどそっちの世界だとどんな屋台料理があったんだい?」


ハンズの言葉にケヴィンの事はとりあえず頭の外に置くことにした加賀。

屋台料理と言われなんとか記憶を掘り起こしていく。


「パンとかで挟んだやつが多めか? だがそれ以外も大量にあるな……」


とりあえず思いついたものをイラスト付きで順に書き出していった加賀。

日本だけではなく、世界各地の有名どころは大体書き出しているようだ。


「ケバブっての旨そうだな、あとカリーブルストってバクスが作ってる腸詰使えばできるんじゃね?」


「ケバブ……おいしそうだけど材料がなあ。加賀ちゃん牛肉の在庫って……あ、もうない? 羊肉も確保できるかがネックだなあ」


ケバブは加賀が好きで何度も食べたことがあり絵もわりと詳細に描けていた。そのためハンズとオージアスの目に留まる事となるがどうやら材料がネックとなるようである。


「どうせなら珍しくて旨いもんだしたいよな……いま確実に用意できるのってバクスの燻製肉と、加賀ちゃんの作った調味料……ソースとケチャップ? ぐらいか」


「ソースは祭りに使うとなると在庫がー……ケチャップは在庫ありますし、足りなそうなら作れますねー」


デミグラスソースが余っていればシチューや、煮込んだハンバーグあたりを出しても良い。

ウスターソースがあればトンカツソースにしてカツサンド……と言った手も使えたが。どちらにせよソースの在庫は心もとない、今から作るにしても手間がかかり祭りには間に合わないだろう。


「となると、カリーブルストはいけるか……これで行ってみるか?」


「ま、いいんじゃない?」


となると目についたもので出来そうなのはカリーブルストとなる。

ハンズとオージアスも特に反対意見は無いようで肯定の意を示す。



「まあ、こうなるよねー」


厨房で一人つぶやく加賀、とりあえずは試食してみようと言う話になり一人厨房で作業をしているのだ。

ほどなくして料理が出来たのか加賀は皿を取り出すと料理を盛り付けていく。

皿の上にはぶつ切りのウィンナーが大量に盛られていた。油で揚げるように焼かれたそれは表面はカリッと香ばしく、中はジュシーに仕上がっている。

表面には大量のケチャップがまぶされ、その上に加賀特製のカレー粉がまぶされている。

出来立てのそれを持って食堂に向かう加賀を3人の歓声が迎える。



「おっほ、かりっとしてて旨いな」


「こりゃ酒に合うよ!加賀ちゃん」


皿を置くと同時に手を出すハンズとオージアスの二人。

評判は上々のようで一つまた一つと手が伸びて行く。


「うむ、やっぱケチャップは合うな……この香辛料も程よく効いてて良い」


「どりどり……ん、いけますね。ほどよくジャンクな感じがまた……あーでもこれ大丈夫ですかねー」


ウィンナーを口に含んだまま加賀を見るバクス、しゃべれないので視線で続きを促す。


「香辛料効きすぎてないかなーって。ここの人たち普段使わないですし」


口の中にあったものを飲み込みぺろりと口を舐めるバクス。

ウィンナーをさらに取りつつ口を開く。


「大丈夫じゃないか? これそこまで効いてないと思うぞ?」


「そりゃみんなは食べなれてますからねー……バクスさん、トゥラウニで香辛料使った料理食べたときの事覚えてます?」


トゥラウニと聞いてバクスの眉間に深い縦皺が刻まれる。

香辛料が効きすぎた料理を食べたバクスがどうなったのかはまだ記憶に新しい。


「そんなわけでほかにも用意しておいたほうが良いんじゃないかなーと思いますっ」


「うむ……まあ、そう、だな」


苦々しい顔をしながら加賀の書き出したメニューを見直し始めるバクス。

加賀の書き出したのは他にもたくさんある、何かしら良いものがきっと見つかるだろう。



「まあ、こうなるよねー」


厨房で一人つぶやく加賀、とりあえずは試食してみようと言う話になり一人厨房で作業をしているのだ。

ほどなくして料理が出来たのか加賀は皿を取り出すと料理を盛り付けていく。


「なにこのデジャブ」


皿の上にはパンに挟まれたウィンナーに玉ねぎのみじん切り、そこにケチャップをたっぷりかけたホットドッグ。さらには焼いたベーコンをたっぷりとレタスとスライスしたトマトをパンではさんだいわゆるBLTサンドが置かれていた。


「でもってあとはこいつ……うまくいってそうかな?」


そういって、皿に乗せたのは一見すると先ほどのBLTと同じに見えるものであった。

ただ、よく見るとベーコンの形状が違う、先ほどのものは焼いたものを重ねただけだったが、こちらは何かをベーコンで包み込んでいるようだった。

その正体はこの街名産のチーズをベーコンで包んで焼いたものだ。

それをパンに乗せ黒コショウを挽いてレタスとスライストマトを追加しパンで挟み込んだ、BLTCサンドとでも呼ぶべき物に仕上がっている。

出来立てのそれを持って食堂に向かう加賀を3人の歓声が迎える。



「このチーズはいったのやばいな」


「うん、やばい」


「やばい」


語彙力が退化するぐらい気にいったようだ。

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