83話 「ダンジョン再び 4」
宿の食堂にて昼食後の休憩を取っていた加賀たちであったが、外から聞こえてきた喧噪に揃って首を傾げる。
「あいつら今日は遅くなるような事言ってなかったか?」
「ええ、確かにそう言ってましたね、何かあったのかしら……」
そう言って誰からともなく立ち上がるとバクスは玄関に向かい、加賀と咲耶はテーブルの食器を片付け始めるのであった。
「隠し扉の先にドラゴン?」
「いやあ、参ったねあれは。まさか本当に居るとは思わなかったよ」
「いしし、ほんとに居るなんてラッキーだね。きっとお宝も良いのあるよ!」
参ったと言いつつも顔には笑顔が浮かぶギュネイとこちらも笑顔で話すソシエ。
残りの面々も表情は明るい、ドラゴンと聞いてあまりぴんとこない咲耶であるがとりあえずいい事があったのだろうと注文を聞きに回るのであった。
「あ、私はお酒は良いので御茶と甘味を頂けますかな」
「あたいは酒で、つまみはあまり腹に溜まらないので頼むよお」
二人の注文を受け頷きつつメモを取る咲耶、次いでアドルフとラドルフにも注文を聞きにいく。
「酒とつまみを頼みます」
「私も同じものを」
(……どっちがどっちだったかしらねえ)
とにかく地味で特徴のない二人、名前も似ている事もありどちらがどちらなのかたまに区別がつかなくなる。
とりあえず畏まりましたと返事をし、辺りを見渡す咲耶。
人数が若干合わないのを見て軽く首を傾げ口を開いた。
「あら、イーナさんとカルロさんが居ないのかしらねえ」
「あの二人なら先に風呂をあびると言ってましたぞ、そのうち来るのではないですかな」
なるほどと頷きいったん厨房に注文の内容を伝えに行く咲耶。
「お待たせしましたー」
程なくして咲耶と共に加賀も料理や酒を手に持ち食堂へと出てくる。
二人は皆に料理や酒を配ると自分もコップ片手に手近な椅子へと座り込む、 どうやらドラゴンと聞いて話を聞きにきたようだ。
「お、どうした? ドラゴンの話でも聞きにきたか?」
「うん、すごいねードラゴンってやっぱいるんだ。やっぱすごいおっきいの?」
「そうだなあ……」
近くで確認したわけじゃないが、と前置きし椅子から立ち上がるギュネイ。
自らの頭よりもやや高いあたりに手をかざし言葉を続ける。
「2mよりちょい高いぐらい、体高はこのぐらいだな」
それを聞いた加賀、あれ?と首を傾げ少しがっかりした感じで口を開く。
「人よりちょっと大きいぐらいなんだー」
「いやいや、体高は土竜つって四つ足で歩くタイプだからだよ、人なんかよりずっとでかいぜ。尻尾から頭まで大体……そうだなあ12mはあるんじゃないかな、頭についてる角も入れれば15mぐらいだな」
15mと聞いておおーと歓声を上げる加賀。
頭に浮かぶのは大好きだった某狩りゲームのモンスター達だ、加賀は八木からくすね……もらった紙をテーブルに置くとペンを片手に地竜について質問を投げていく。
「……甲殻がとにかく丈夫でな、特に前脚の肩回りはやばい」
「角も特徴てきだよー、先端むっちゃ尖ってるからね! 鎧来てても刺さるねあれは、ぐさっと」
「ふむふむ」
ペンをテーブルに置き満足そうに頷く加賀。
紙には比較用に書かれた人物と皆から聞いた話から想像でかいた土竜が描かれている。
「っほー、うまいもんだなあ」
「どれ、私めにも……なるほどなるほど、細かい部分は違いますが中々に似てますぞ」
どうやら中々にうまく描けたようだ。
加賀は満足げな表情を浮かべ、皆に話の礼を言うと鼻歌交じりに厨房へと戻っていく。
「紙おきっぱだけど……」
「む……あとでアルヴィン殿らに説明するときにでも使いますかな?」
「そうだな……ああ、バクスさん」
酒を片手に皆の話を聞いていたバクス。
話を振られぴくりと方眉を上げ、続きを促す。
「ほかの連中今日戻ってくるかな? 戻ってくるなら今日は酒控え目にするんだけど」
「特に遅くなるとも言ってなかったからな、普通に帰ってくると思うぞ?」
それは残念、とおどけた仕草をみせるギュネイ。
酒の入ったコップをテーブルに置くと、菓子を注文すべく声を上げるのであった。
そして翌日の朝、玄関前に宿の探索者たちが集まっていた。
いずれも何時にもまして重装備である、特にラヴィは全身を覆う分厚い鎧を身にまとっており、まさに鉄塊といった様子である。
「ラヴィ、これ丸薬な」
「うム、すまなイ」
ラヴィが受け取ったのは筋力を一時期に増強させる魔道具の一種である丸薬だ。
鎧があまりにも重くラヴィの力を持ってしてもまともに動くのが厳しい為、このような魔道具に頼る必要がある。
効果は1時間ほど筋力を3割上げるといったものであり、効果はかなりの物だがその分副作用もでかい。
おそらくラヴィは明日から筋肉痛に悩まされる事だろう。
「皆よかったらこれもっていってー」
「お、ありがと加賀っち。これなーに? すごい甘い匂いするけど」
「この前作ってたやつかな、これはありがたいな」
加賀が手渡したのは特製のドライフルーツ入りパウンドケーキである。
元々はアイネ用に作っていたものだが、寝かせている間毎日魔力を込めたもので多少なりとも強壮効果がある。
気休め程度だけど渡さないよりは……ともってきたのだ。
「おう……ありがとう? ……なんか窓からアイネさんがこっちむっちゃ見てるんだけど」
「だいじょぶだいじょぶ、まだいっぱいあるし……許可もちゃんと? もらったから」
カーテンの隙間から覗く黒く落ち窪んだ眼窩に宿る赤い光、きっと気のせいに違いない。
ギュネイはそちらをなるべく見ないようにしつつ貰ったケーキをロレンに渡す。
「え、私が持つのですかな」
「……なんか怖いし」
食い物の恨みは怖い。
とにかく地竜攻略に必要なメンバーをそろえたギュネイらは、残った面々に見送られダンジョンへと向かうのであった。




