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67話 「人が一気に増えたようで」

トントンとリズム良く階段を上る加賀。階段を上った先には廊下とずらりと並ぶ扉がある。

その内の一つの前に来て、ガチャリと扉を開く。


「ここが201号室です」


「おー、やっぱ新築だけあって綺麗」


「こちらの机と物入れは自由に使ってください、鍵もかけれますので。あと着ているものはここのハンガーに……洗濯するものがあればこの袋に入れておいてください、部屋の清掃の際に回収して夕方か翌朝までには洗っておきますので」


加賀の言葉を聞いてふんふんと頷くエルフの女性。

頷くたびに肩で切りそろえた髪とその長い耳が揺れ自然とそちらに加賀の視線が向いてしまう。


「洗濯までしてくれるの? 助かるー……よっと」


そんな加賀の視線に気付いた様子は見せず着ていた鎧を外すと早速物入れに置くエルフの女性。

鎧を脱いだ姿を見た加賀の感想としてはすごくスタイルいいな、と言ったものであった。

首から下はピッタリ目の服を着込んでおり体のラインがよく分かる。出ているところは出ている、それでいて細いところは細く、全体的にはむっちりした印象を受ける。だがそれは決して太っているわけでは無く、その軽くめくった袖からのぞく筋肉質な腕から分かるように筋肉そのものが太いのだろう。


「お風呂は昼の清掃時間をのぞいていつでも入れます、お好きな時間にどうぞ」


「わっ、お風呂もあるんだ?」


「はい、入るときにはこれ使ってください」


そう言ってタオルやシャンプー石鹸等の一式を渡す加賀。


「? これはー?」


「お風呂に使う奴一式です。お客さん一月以上継続して泊まるんですよね? 一月以上継続して泊まるお客さんにはサービスで一式差し上げてるんです」


石鹸、シャンプーの容器などいずれも宿のロゴが入ったものは八木手製である。ここ一月の間に空いた時間を使って用意してはおいたものである。

エルフの女性は受けとったものが石鹸であると認識すると顔を輝かせる。


「すっごいね、こんなのまで貰えちゃうんだ……これ石鹸だよね、こっちの容器は何かな、中に入ってるの液体?」


「えっとそれはですね……」



容器を不思議そうに揺するのを見て説明をする加賀。

その後他にも説明してほしいとの要望もあり鍵のかけ方や、清掃の時間、風呂場の使い方などを教え二人は食堂の前まで戻る。


「……夕方には食事を用意してますので食堂まできてください、メニューは日替わりでお代わりと飲み物は別途料金がかかります。……以上です」


「ありがとねー……えっとお名前は?」


「加賀です」


「ん、私はシェイラって言うの、これからよろしくね加賀っち」


あまり慣れない呼び方に一瞬固まる加賀。

手を振り会談を登っていくシェイラに向けそっと手を振り見送った。


「お、そっちも終わった?」


「あ、八木じゃん。そっちも?」


「終わったよ、慣れないことすると緊張するなあ」


横から声をかけたのは八木である、こちらも案内をちょうど終えたのだろう、1階廊下の奥の方を女性が歩いて行くのがちらりと加賀の視界にはいる。

緊張をほぐすためか、軽く背伸びをした後首をぐいと回しゴキゴキとならす八木。


「二人とも、次はこの人らの案内頼む」


「はーい、今いきます」


「次いきますかねえ」


玄関から二人を呼ぶバクスの声。

休む間もなく二人は次のお客さんを案内していく。

さきほど案内したエルフの女性二人、地味に目な男二人組、ちょっと目つきの悪い男性と加賀よりも小柄な女性などなど、次から次へとお客さんがやってくる為引っ切り無しに対応に追われる事となる。


全部で10人ほど案内したところで入ってきたお客さんを見て、思わず八木と加賀、そして咲耶も驚き動きを止める。

今までのお客さんは多少筋肉質であれど見た目はほぼ人であった。だが新たに入ってきたお客さんは種族そのもが人からかけ離れている。

一言でいえば直立するトカゲ。そうとしか言いようがない容貌である、かなり背が高く2.5mはありそうだ、尻尾までいれると3~4mにはなるのではなかろうか。

彼? 彼女?は爬虫類独特の盾に細長い瞳で皆を見回すとたどたどしい口調で話し始めた。


「宿ヲ……お願いシタイ」


「あいよ、部屋の案内頼むぞ」


「っとと、分かりました、こっちです」


鍵をひょいと投げてよこすバクス。

八木は慌てて鍵を受け取ると案内すべく部屋へと向かっていった。

そして後ろをとことこと付いてくる加賀、目の前にいるトカゲ?に興味がわいたのだろう。


「ここです、特注の部屋なのでベッド大き目に作ってあります、なので遠慮せず使ってください」


「あ、ああ。……もしかしてあんたらが神の落とし子ってやつかい?」


「ええ、そうですけど……良く分かりましたね?」


特に名乗ったわけでもないのに神の落とし子とばれる、その事を不思議に思いつつもとりあえず肯定する八木と、後ろでうんうん頷く加賀。


「いや、だって俺らの言葉で普通に話してるし。人間にはまともに喋れないらしーのに」


「「おお」」


思わず手をぽんと叩く二人。

言われてみれば最初は片言だったが今は普通に話している、これは最初は人の言葉を今は種族特融の言葉で話している為であろう。


その後各説明をしながら宿の中をめぐり残すは食堂の説明のみとなる。


「……あとメニューは日替わりで、お代わりと飲み物は追加料金が発生する……で終わりかな」


「ん、たぶんおわり」


「……ちょっといいかい」


食堂の説明を聞いてラヴィ(本名はウラディスラヴィチと言うらしいが長いので愛称で呼んでほしいとのこと)は手を上げ二人へと声をかける。

加賀が続きを促すとラヴィは言葉をつづけた。


「実は俺食えないもんがあって……俺だけメニューから外してもらうことっと出来ないかなあ? あ、もちろん別料金はらうよ」


「それってーもしかして卵たべると体調崩すってやつです?」


ラヴィの言葉に加賀は依然聞いた話を思い出す。アルヴィンのPTメンバーの一人が卵アレルギーだったはずである。

ラヴィは加賀の言葉を聞いて細長かった瞳孔を丸くする。


「アルヴィンさんから聞いたんです。うちの料理だとおそらく症状でないと思いますよ」


「ああ、なるほど……え、まじ?」


「まじです。そういう加護もらってるんです」


加賀の話を聞いたラヴィの反応は劇的だった。

おぉぉ…と静かに声を上げながら加賀の前に跪くと加賀の手を取り祈るようなしぐさを見せる。


「ちょっ、た、立ってください! 他の人にみられちゃうっ」


「ありがとう……!ありがとう!」


なかなか立ち上がろうとしないラヴィを何とか落ち着かせ、いったん食堂へと入った一行。茶をすすりながらひとまずラヴィの話を聞くことにする。


「……そんなわけでここ10年ぐらいはずっと食えてないんだ」


「そりゃきついなあ。好物だとなおさらだよな」


ラヴィの話をまとめると、以前は卵が好物で日に一度以上食べるほどだった。

だが、10年前のある日卵を食べたあと嘔吐や呼吸が苦しくなったりと様々な症状がでるようになった。

初めはたまたま当たっただけかと思っていたが、以降卵を食べるたびに同じ症状がでるようになり、卵を一切食えなくなってしまったとの事。

それを聞いた加賀はよしっと気合をいれ立ち上がると出かける準備をはじめる。


「ラヴィさん、今から簡単な卵使った軽食作りますのでそこで試しに食べてみてください。大丈夫なの確認して夜は卵いっぱい使った料理にしますね! そんなわけで買い出し行ってきます。うーちゃんいくよー!」


「お、おぉ……」


ラヴィが反応を返す間もなくうーちゃんと共に買い出しに行ってしまう加賀。

八木は軽くため息を吐くとラヴィへと申し訳なさそうに話かける。


「すんませんねー、あいつ気合はいるとたまにあんな感じなるんすよ。たぶんすぐ戻ってくると思うんで茶でも飲んでまってましょうか」


「あ、あぁ……」


まだ固まったままのラヴィを横目にそっと席を立つ八木。

とりあえず急須にお湯を入れに厨房へと向かうのであった。

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