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60話 「だが回り込まれてしまった」

階段を上りきった先、一番手前の扉が親方衆の部屋である。

八木は扉を前にし、すこし躊躇ったのち扉を静かにノックする。


「……八木です、親方居ますか?」


「居るぞ!」


居なければいいなと言う考えが八木の頭を過ぎる。だが無情にも中から即時応答があり、軽くため息をつきつつ扉を開けるのであった。



「おう、しばらくぶりだな」


「お、お久しぶりです……」


八木を見て笑みを浮かべる堅物そうなモヒカンことイジドール親方。だがその目は笑ってないのを八木はしっかりと視界にとらえる。


「もうエルザから聞いてるだろうがお前さんが居ないあいだ色々と問い合わせがあってな」


「は、はぁそうなんですか……っ」


親方の妙に静かな視線をうけ自然と足が後退る。

あと少し下がれば一気に外に出ることも可能であろう距離まで下がったところでふいに後ろからカチャリと音がする。驚き思わず後ろを振り返る八木。


「八木さんどうしました? 書類持ってきましたよ……さ、どうぞ座ってください」


後ろに居たのは線の細いモヒカン……オルソンであった。

彼は八木を見ると無表情のまま後ろ手に扉の鍵をしめる。

逃げ道はない、そう悟った八木は静かに椅子へと座るのであった。




「と、いうわけで明日八木には私と一緒に領主の館に向かってもらう」


「げぇ……」


「む? そうか一人で行きたいか、八木がそう望むなら……」


「いえいえいえ! 滅相もありません!!」


親方の言葉に慌てて否定する八木。

貴族などまともに相手取ったことのない八木である、一人でいくなどとても考えられないのだろう。


「……安心せい、しょっぱなから領主本人など出てこぬよ。対応するのはまず下っ端だろうさ」


「そうなんですか……」


「領主は暇ではないからな。ま、そこで仕事の内容を聞いて……おそらく本格的な仕事に入る前にまずおおざっぱでもいいから計画図を出せと言われるだろうな。それは八木がやる事になる、私たちが関わるのはそこからさらに進んだ段階からだろう」


それを聞いて専門家の意見を聞きながらのほうがいいのでは…と思い口を開こうとする八木であるが、親方に遮られる。


「おそらく領主はお前が設計した建物をみたのだろうな、そしてそこに余計な思想が入るのを嫌ったのだろう。それだけ八木の設計を気に入ってるということだ。ま、見ていかにも問題ありそうならそこはいずれ指摘する事になる、まずは気にせず好きにやることだ」


「……はい」


なんとか返事はしたもののかなりのプレッシャーを感じているのだろう。八木はそっと胃のあたりを抑え、軽くため息をつくのであった。



一方の宿では八木とは対照的に明るい雰囲気で満ちていた。

咲耶が作成していたうーちゃんの服が完成したのである。

見た目はズボンと靴をはいたピー〇ーラビットといった感じだろうか、かなり可愛らしく仕上がっている。

驚くことに服だけはなく靴まで咲耶の手作りであった、いったい革をどう加工したのか不明であるがしっかりとした靴に仕上がっている。


うっうっ(はよ!はよ!)


「はいはい、いまいきますよー」


服を着て靴をはき大はしゃぎのうーちゃん。さっそく近所に見せびらかしに行きたいのかさきほどから仕切りに買い物に行こうとする加賀の手をひっぱっている。


「今靴はくからー……よっと、んじゃいこか」


「おや、お出かけですか」


靴を履き行こうかとしたところで後ろから声がかかる。

振り返るとそこにいたのチェスターであった、彼も出かけるところなのかその恰好は宿にきたときと同じであった。


「はい、買い物と……うーちゃんの服ができたんでそのお披露目ですね」


「おや……これはまた立派な服ですね、良く似合ってますよ」


うっ(そうじゃろ、そうじゃろ)


チェスターの言葉に気を良くしたのか、見せびらかすかのように小躍りするうーちゃん。

一方チェスターは自分の声に反応したように見えたうーちゃんをじっと見て、その細い目をわずかに見開く。


「あれ……目が赤いような? 赤いですよね?」


「? どうしましたチェスターさん」


「あ……いえ」


加賀の問いかけにチェスター開いていた目を再び閉じ、軽く咳ばらいをする。


「その、うーちゃん…? は幸運兎なのでしょうか?」


「あ、はい。そうみたいですよー」


あっさりと答える加賀に対しチェスターは頭痛がしたのか軽く自分のこめかみを抑える。

それを見てどうしたのかと顔を除きこむ加賀に対し、軽く苦笑するチェスター。


「幸運兎というのは確認されているもので大きくても50cmぐらいなんだそうです」


「うーちゃん1m以上ありますねー」


「ええ…なので最初は似た種族のホワイトラビットかと思っていたのですが……少し驚きました」


それを聞いて手をぽんと叩いてそういえばと言う加賀。


「うーちゃんであったときは片手に乗るぐらいでしたよ。それからいっぱいごはん食べてここまでおっきくなったんです」


「はぁ……ごはんですか」


うっ(加賀、はよ!はよ!)


「あ、ごめんごめんうーちゃんいこっか」


がまん仕切れなくなったのかうーちゃんが加賀のそでをぐいぐいと引っ張る。

引っ張られるように玄関の外へと向かう加賀とうーちゃんに対し、後ろからついてきたチェスターが声をかける。


「中央まで行くのであればよければ私もついていって良いですか? まだこの辺りの地理分かっていなくて……」


「あ、どうぞどうぞ。散歩もかねてますのでギルドまで案内しますよー」


「や、それはありがたい。ぜひお願いします」


そういって3人はうーちゃんに引きずられるようにギルドへと向かうのであった。

なおアントンは二日酔いでダウン中の為、一人留守番の模様である。

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