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57話 「概ねイメージ通りらしい」

エルフと聞いてどんな姿を思い浮かべるだろうか。

日本人であればある有名な小説の影響もあり、森の中に住みあまり人と関わらず、精霊魔法の使い手であり弓の扱いにも長けている。総じて人よりも長命、金髪で美形そして特徴的な尖った長い耳もつ。

差違はあれど大体はこの様なイメージになるのではないだろうか。


ここでガイの連れのエルフを見てみよう。

絹のようにさらりとした金髪に非常に整った顔。耳はイメージほど長いわけではないが、やはり人と比べるとやはり長い。


ここまではほぼイメージ通りと言って良いだろう。

だが彼にはイメージと大きく異なる点が一つあった。

それは回りの男たちに勝るとも劣らない立派な筋肉の鎧をその身に纏っていることだ。

その姿は八木と加賀の中にあったエルフのイメージ像を粉々に打ち砕く。


「うそ……だろ」


「…………」


その衝撃は大きかった。ショックのあまり膝から崩れ落ちる八木とその横で真顔でぴくりとも動かなくなる加賀。

振り向きその様子を見ていたバクスが呆れた様子で二人へと声を掛けた。


「……何しとんだお前ら、ほれお客さんだぞ挨拶しろ」


「……はっ ご、ごめんなさい……えっと…………その」


バクスの声にはっとした様子で慌てて挨拶をしようとする加賀であったが次第に声が小さくなっていく。

先ほどから件のエルフが二人の方……と言うよりは加賀をガン見しているのだ。


「おいおいアルヴィン見すぎだっての、嬢ちゃん怯えてんじゃねーか」


「……失礼した。もしかしてあなたが神の落とし子なので?」


エルフの男性の名はアルヴィンと言うようだ、彼は加賀に謝罪すると質問を投げかける。


「あ、はいそうです。ボクとこっちの……でかいのもそうです」


まだショックから立ち直ってないのか説明がどこかおざなりである。それを見ていたバクスがしょうがないなと言った様子でアルヴィンらに向けて口を開く。


「簡単に紹介するとだな……こいつは加賀、宿で出す料理を担当してもらってる。で、そこの崩れ落ちてるのは宿の設計者だ。あともう一人この場にはいないが清掃などを担当して貰ってる咲耶と言うのがいる……3人とも神の落とし子だ」


「……聞いていたのより一人多いですね」


「昨日一人増えたんだ」


そうですか……と、とりあえずは納得するアルヴィン。

その後は流れで各自自己紹介を簡単にしていく事となる。


エルフの男性はアルヴィン

軽薄そうな男はヒューゴ

優しげな男はイクセル

髭ずらのおっさんはアントン

糸目の男はチェスターとそれぞれ名乗る。


ぼんやりとした頭で聞いていた加賀であるが、頭に浮かんだのは覚えるの大変そうのみであった。

まだ少し立ち直るまで時間がかかりそうである。



その後各自の部屋に荷物を置いた彼らであるが、今日は休むと決めているのだろう。どこに出かけるでもなく食堂で飲み物を飲みながら寛いでいる。

そこに厨房から困り顔で出てきた加賀がおどおどとした様子で話しかける。


「あの……アルヴィンさんちょっと聞いてもよいですか?」


「ええ、良いですよ、加賀」


軽く微笑みつつ振り向くアルヴィン。加賀の質問は食事に関することであった、エルフと言えば肉は食べないというイメージがある。もっともアルヴィンの体を見る限りそうとは思えないが……夕飯にお肉を出して食べれなかったら不味いだろうと、確認することにしたのだ。


「エルフが肉を食べないなんてことはありません。……ああ、あなたが居た世界にはエルフが存在しないのでしたね」


「…はい、物語にでてくるぐらいですね」


「ほう? 少し興味があります、その物語ではエルフはどういった存在として描かれているのですか」


「えっと……」


アルヴィンに尋ねられた加賀は先ほどの日本人がもつエルフのイメージを伝える。

するとアルヴィンはなるほどと軽く頷き加賀の方をみて口を開く。


「驚きました。概ねあっていますね、違うのは食生活についてでしょうか」


「美形ってとこは否定しないのな」


「あっているでしょう? 謙遜は美徳とは限りませんよ」


「けっ、嫌な野郎だぜまったく」


アルヴィンの言葉に反応し口を開くヒューゴ。

なんとなく言い争いに発展しそうな雰囲気を感じ取り思わずあとずさる加賀。


「やれやれ、またはじまりそうだの」


「ええと、加賀ちゃんだっけ? 厨房に戻っておくといいよ」


自分のコップをもって迷惑そうに離れた先へとうつるひげずらのおっさんことアントン。

そしてどうしていいかおろおろする加賀に糸目の男チェスターが話しかける。


「はい……あの大丈夫なのでしょうか?」


「ああ、平気ですよ。いつものことですし、本気で喧嘩するわけじゃないです」


チェスターに言われはぁ、と返事をする加賀。

後ろが気になるひとまず厨房に戻る事とする。



そして夕方


「夕飯の準備できましたよー」


「やった! 待ってたっす!」


「これが異世界の料理ですか……面白いですね」


夕飯の準備ができ、加賀が皆に声をかけるとどこから現れたのかまずガイが飛び出てくる。

ついでアルヴィンと他のメンバーもぞろぞろと集まり席につく。

そこには先ほどみた喧嘩しそうな雰囲気はまったくなく、加賀はああ、仲悪いわけじゃないんだなと思うのであった。



そして夕食を終え咲耶に風呂がある事を聞いた一行。早速とばかりに石鹸やシャンプー、タオルなどの一式を片手にお風呂へ直行していた。


「かーっ、外見も立派だったがこんな風呂まであるたーなあ」


「まさか石鹸やらシャンプー? までついてくるとはのう。高いだけあるわい」


気持ちよさげに湯船につかるヒューゴと泡立てた石鹸を顔につけ髭の手入れをするアントン。

どちらも非常にご機嫌である。


「飯も美味しいし、部屋も綺麗だしその上風呂も入りたい放題。ここに決めて正解だったね」


「ええ、ありがたい事に洗濯までしてくれるそうで……本当助かります」


「ね、だから俺が言った通りでしょ! 絶対おすすめだって!」


タオルで背中をごしごしとこするチェスターに頭を洗いながら相槌をうつアントン。そして嬉しそうに湯船で泳ぐガイ。

こちらも非常にご機嫌である。


「でだ、おめーはなんでまた黙りこくってんだよ」


「……」


ただアルヴィンだけは考え事をするように、一人無言で湯船につかっていた。

そして煩そうにヒューゴのほうを一瞥し、軽くため息をつくと口を開く。


「精霊力の元だがな、あの加賀って子だったんだ」


「ふぅん? だからそりゃ神の落とし子だし、精霊魔法使えるからだろ?」


アルヴィンの言葉にそう返すヒューゴ。

だがアルヴィンは軽く頭をふると再び口を開く。


「戦う力はないと聞いただろう? だとしたらあの力はおかしすぎる、異常だ」


「……まあ、気になるなら本人に聞いてみりゃいいんじゃねーの?」


「そうだな……」


そう言いながら湯船から上がるアルヴィン。

体を拭き衣類を纏うと一人食堂に向かう。


そして10分後、他の者が遅れて食堂にいくとそこには一人満足気にデザートを食べるアルヴィンの姿があった。

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