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55話 「宿屋オープン?」

「……結局能力が何か聞いてないなあ」


翌朝ねぼけまなこで昨日の事を思い出す八木。

能力についてたずねる予定がご飯に夢中だったのとその後のガイの話で今の今まですっかり忘れていたのだ。

八木は最初能力について何となく尋ねただけだった、だが一晩立って思い出すと能力について興味がどんどんわいてくる。


(バクスさんもう起きてるよな……ちょっと聞いてみるか)


そう考えベッドから身を起こして食堂……ではなくまず顔を洗いに行く八木、一応お客様がいるのであまりだらしない姿は見せられないのだろう。


「お早うございまっす」


「おう」


「あ、おはようございます! 昨日はちゃんと挨拶できてなくてすんません、バクスさんの弟子のガイっていいます!」


朝からテンションのくそ高いガイに圧倒されつつも宜しくと返す八木。

とりあえず席に着きつつバクスへ声を掛ける。


「あ、バクスさん。昨日聞きそびれちゃったんですけど。能力って……」


「ああ、すまんすっかり忘れてた。ガイ、ちょっといいか?」


「はい!」


呼ばれてそばへ駆け寄るガイに席に座るように言うバクス。

座って落ち着いたのを確認し能力について話しても良いか尋ねる。


「え……はい、別に問題ないすけど」


頭に疑問符を浮かべたままバクスと八木を見るガイ。


「まず、ガイは見た目は俺らと変わらないが実は別種族だったりする。灰狼族と呼ばれる彼らは人にはない特殊な能力を持っていてな……ガイ、すまんがちょっと見せてやってくれないか?」


「はいっす!」


バクスに言われ全身に力を込めるガイ。するとガイの体に変化が起こる。

全身の体毛がぞわぞわと濃く、長く伸びて行きやがて全身を覆ってしまう。そしてミシミシと音を立て全身の骨格もが変わっていく、顎は犬のように突き出し牙が生えそろう。

やがて変化が収まったときそこには二足歩行する狼、と呼ぶにふさわしい姿があった。


「「おおおおお!?」」


その光景を目撃した八木とこっそりみていた加賀は揃って驚きの声を上げる。


「「おぉぉぉ…………」」


「な、なんでがっかりするんすか?」


そして二人揃ってガイの手の平を見て、そこに肉球がないのを確認し落胆した表情をする。


「何しとんだお前ら……とまあ、こんな感じで体を変化させる事が出来るんだ。この状態になると身体能力も上がるんでな、多分昨日はこの状態で街まで走ってきたんだろう、その気になれば馬並みに走れるからな……ただこの状態になるとえらく腹が減るみたいでな」


そこが欠点だがなと聞いて昨日のガイの食べっぷりはそういう事だったのかと納得する二人。


「なんか人前ですると照れくさいッス。まあでも楽しんで貰えたなら良かったス……そんな珍しいものじゃないと思うんスケドネ」


骨格が変わったからか幾分話ずらそうにしているガイ。

バクスはちらりとガイを見てそう言えばと話を変えるように声を掛ける。


「ガイはダンジョン攻略したって事はランクあがったよな?

例の話聞いているか?」


「例の話……もしかしてあれっすか?」


変身を解き元の姿へと戻ったガイ。バクスに問われ少し考えるそぶりを見せるが、すぐにピンと来たのか少し興奮した様子で話し始める。


「神の落とし子っすね! まさか自分が生きてる間に来るなんて思っても見なかったす! この街にいるとは聞いたん……で一度……あって……」


はじめは勢いよく話し始めるガイであるが、一つの疑念が頭に浮かび徐々にその勢いを失って行く。

加賀と八木顔を何度か見た後がばっとバクスの方へ振り向く。


「ももももしかしてこの二人が!……あ、でも三人だったような、神の落とし子は二人だって……」


「昨日一人増えたんだよ……」


「なるほど!」


あまり深く考えない質なのか、バクスの言葉にあっさり納得すると二人へ話しかける。


「通りで食べたことない料理だと思いました! これからここのお世話になると思うので次も楽しみにしてますね!」


「うん、がんばるよー。てか神の落とし子の情報って結構出回っているんですね?」


「探索者は一部の人間はもう知ってるっすね。無理な勧誘とかしだす前に正しい情報渡しておこうって話しだったと思うっす」


「なるほどねー」


ガイに礼を言いつつ厨房へと向かうと加賀。

もう仕上げてあった朝食を手に取ると食堂へと戻りテーブルの上に並べて行く。


「そんなわけで朝食です」


朝食はバクス特製のベーコンを使ったモーニングセットだ。

全員分を用意し席に着いた加賀。口に合えば良いが……と思う間もなく無くお代わりの声があがる。

その声に笑顔で返しつつ厨房へと向かうのであった。



「それじゃ、ギルドで待ち合わせ場所してるんで行ってきます! 夕方には戻ると思うっす!」


朝食を食べ、洗い立ての服を着込み玄関に立つガイ。

一日遅れで街へと来る別PTメンバーと待ち合わせをしているのだ。

他に空いている宿がない以上きっと夕方には皆この宿に来ることになるだろう。


バクスの宿は宿泊客に対し石鹸やシャンプーの提供、いつも洗い立ての寝具、さらには洗濯などかなりサービス充実している。

もちろんその分他の宿に対しかなり高額な料金設定となっている。

それについてガイに聞いたところこのサービスでこの値段ならまったく問題ないとの答えが返ってきた。

毎日とまれば出費も相当な額となるが、高ランクの探索者であるガイとその仲間にとってその程度の出費はまったく問題にならない。


「固定客いっぱい出来そうですね?」


「ん、そうだな……ありがたいことだ」


ガイを見送りその姿が見えなくなったところでバクスへと声を掛ける咲耶。

その言葉に思わず顔がにやけるバクス。昨日はPT全員が来ると聞いて一瞬頭を抱えたが、よくよく考えればそれだけカモ……もとい上客が来るのだ。そう考えると自然とほおが緩む。


「んんっ……さて、夜に備えて準備しておくぞ。まだまだ人数少ないとは言え忙しくなるのは間違いないからな」


誤魔化すように軽く咳払いをし皆に声をかけるバクス。

「兎の宿」と書かれた看板を立てかけ、感慨深そうにながめる。


八木と加賀がこの世界に来てから半年と少し、ようやく宿の従業員として生活が始まる。

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