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47話 「街の様子が……?」

だんだんと日差しが暖かくなり、地面に降り積もっていた雪もとけだし所々地面が見えてきた。


まだまだ春が訪れるのは先のことだが冬の終わりを感じる頃、宿の建設は終盤へと差し掛かっていた。


「もう少しで完成かー……あっという間だったなあ」


「あと一月といったところだろう、トラブルなかったおかげで予想よりちと早いが……まあ早い分には問題ないだろう?」


その言葉にああ、と頷く八木。

雪が完全に溶けきる前に内装を終わらせておけば、春先にどっと訪れる客への対応も間に合うだろう。

加賀はそのまま宿で働いて俺は別の仕事に取りかからないと……などと八木が物思いにふけっていると背後から声がかかる。


「なあ、そこの兄ちゃんよ。その看板ここ宿屋だよなあ」


「……ああ、そうだが」


八木が振り向いた先には武装した男が数名八木のほうを見ながら立っていた。

薄汚れたその格好から恐らくは旅をして、今日この街についた、と言ったところだろう。


「やっぱそうか、おい入ろうぜ!」


「あ、ちょっと!」


宿と聞いて中に入ろうとする男の集団。

それを慌てて八木が止めに入る。そんな八木に男は不機嫌そうに口を開くこと


「あ? んだよ、旅して疲れてんだ。どけ」


「この宿はまだ完成してない、中がまだ工事中だ。スタッフもそろってないし、オープンすんのは一ヶ月以上先だ」


一瞬男たちの瞳に剣呑な光が浮かぶ、が八木の言葉を聞いて……と言うよりは八木の異様な筋肉と建物内から様子をうかがうモヒカンの群れに気が付き、ちっと舌打ちをし仲間を引き連れ無言で立ち去って行く。


「なんかあの手の最近おおくないですか?」


「春だからな。仕方のないことだ」


「はぁ……そんなもんすかねぇ」


モヒカンの言葉に辺りを見回す八木であるが、まだまだそれなりに雪は残っていて春と言うにはまだ気が早そうだ。

とは言え暖かくなってきているのは確かであり、八木はそんなもんかと呟き作業へと戻るのであった。



一方屋台で働く加賀。

降り積もっていた雪が減り、人通りが増えてきた店の前ふいにざわりとあたりが騒がしくなる。

何事かと顔を上げた加賀の前で屋台を中心に円を描くように人垣が出来ていた。


そして下を見ると、地面には顔を真っ青にして這いつくばるように屋台から離れていく数人の男達、いずれも武装し薄汚れた格好をしている。


ふと横を見ると赤い燐光を目に宿らせたうーちゃんがいた。加賀はそれを見て軽くため息をつきながらうーちゃんの頭をなでる。


「またきたんだ? ありがとねうーちゃん」


うー(もっと感謝するとええ。れいはデザートでよいぞ)


「しょうがないなあ、うーちゃんだけ特別に1個追加ね?」


小躍りするうーちゃんをニコニコと眺める加賀、だが視線を屋台の前に戻したときその顔は悲しげであった。


屋台の前には先ほどまで買おうかどうか悩む人がちらほらといた。

だが先ほどの騒ぎを目にして皆散ってしまったのだ。


先ほどのような連中はここ最近多くなっている。一見すると少女が一人でやってるように見える屋台、ちょっかいをかけようと人通りがあるにも関わらず白昼堂々とやってくるのだ。


もっともうーちゃんが文字通り目を光らせているので加賀が直接被害を被ったことはない。

だが、騒ぎがあるたびに客足が遠のくので加賀にとっては非常に迷惑な出来事であった。



「……ってな事があったんすよ」


「まあ春だしな……いや。まだ冬か?」


「そういやボクのとこにも来たよそんな連中。あ、全部うーちゃんが追い払ってくれたからだいじょぶだいじょぶ」


加賀のところにも来たと聞いて表情を険しくもする二人。それを見てうーちゃんに追加のプリンを渡しつつひらひらと手を振る加賀。


「まあ、なら良いが……何にせよ二人とも気をつけてな、やばいと思ったらすぐ助けを呼ぶように」


バクスの言葉にしっかりと返事をする二人。



「でもなんで急に増えたんだろうねー? まだ春って感じではないしー」


「……分からんな。明日ギルドに顔出してくるか……ここ最近燻製作りで家にこもってたし」


そう言ってちらりと台所の隅に置いてあるメモを見やるバクス。

それは日々少しずつ配合を変えている燻製のレシピである。

毎日増えていくそれはすでにノートほどの厚みとなっていた。


もちろん成果も出ており、特にベーコンはウォーボアの風味によくあった香辛料の配合となっており、一番最初に加賀がつくったものよりも数段味が向上していた。


この男相当な凝り性のようである。


翌日探索者ギルドにて受付に並ぶバクスの姿があった。


まわりではバクスの事をちら見しつつ、ヒソヒソとなにかしらささやき会う姿がちらほらと見える。


(知らん顔がふえてるな……やはり何かあったか?)


それなりに見慣れている探索者ギルドのメンバー、だが今日は知らない顔がちょくちょく目に付く。

顎に手を当て物思いにふけるバクス、ふいに名前を呼ばれた顔を上げる。いつの間にか自分の番となっていたのだ。


「バクスさんお久しぶりです」


「ああ、そちらも元気そう…でもないな」


バクスの対応をするギルド員であるがその顔には疲労が浮かんでおり、目の下にはクマができている。


「ええ……バクスさんも復帰されるんですか?」


「いや? 今日はちょっと町中の様子が変なんでな、話を聞き来ただけだ。ギルマスにあえるかい?」


探索者を引退して久しいバクス。復帰と聞かれ怪訝な表情を一瞬浮かべるがすぐに引っ込め用件を伝える。


「そうですか……ギルマスにはバクスさんが来たら通すよう言われています、二階の談話室でお待ちください」


ギルド員に礼を言い階段を上るバクス。面倒ごとの予をひしひしと感じているのだろうその顔は苦虫をかみつぶしたようである。

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