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45話 「冬がきたらしい」

すっかり吐く息も白くなった今日この頃、曇り空の下ついには雪まで舞い始める。


「お。雪だ……通りで寒いわけだ」


「ついに降り始めたか……おい、上に登ってんの! 今日はもうあがれ!」


建設中の宿は二階建てである、ゆえに高所で作業しているものもそれなりに居る。

当然命綱はつけているがそれでも安全を確保するに超したことはない。

堅物そうなモヒカンは早々に高所作業中のものに引き上げるよう指示を出す。


「いつやむか分からないし、しばらくは中の作業中心かなあ」


「まあ、そうなるな……外側がだいたい終わってて助かったわ」


そう言いながらスケジュール表を眺めモヒカンをバサリとかきあげる。


「うむ、ここまでは予定通りだな。やはり完成は春だろう」


「宿の客も増えるし丁度良い時期だなあ」


「この後も予定通りに行けばだがな」


そう言うとモヒカンは帽子を被り直し、高所から降りてきたものに明日以降の指示を出しに行く。


その様子を眺めていた八木だが、後ろから近づいてくる音に気が付くと振り返る。


「うーさっむい。八木、ごはんできたよん。皆に声かけといてー」


「あいよ」


近づいてきたのはご飯が出来たことを知らせにきた加賀である。

かなり寒いのだろう、モコモコした服を重ね着しているようだ。


「今日のめしは?」


「寒いしシチューにしたよ。パンは焼き立てもらってきたー、なんとチーズいりなのだよ。それにデザートまでついちゃうぞ」


焼きたて、チーズ、デザートと聞いてほくほく顔で小屋に入る八木。

中では例によってバクスとうーちゃんが既に席についている。


全員が席についたところで、堅物そうなモヒカンの一言を皮切りに一斉に食べ始める。

がやがやと騒がしい中、加賀がちらりとバクスを見やる。

ちょうど食べ終わったとこだったのだろう、コップを置き一息ついているようだ。


「バクスさん、ちょっと質問いいですかー?」


「ん? ああ、いいぞ」


ちらっと外をみて、バクスに視線を戻し口を開く加賀。


「もうすぐ冬だけど……冬の間食糧ってどうするんでしょー?」


「ああ、乳製品や鶏関係は変わらず供給があるし…ウォーボアが取れなくなるが、肉は冷凍のがある。野菜も冷蔵してるのがあるからまあ、それなりにあるぞ」


だんだん萎びてくるがなと笑うバクス。


「冷凍ですか? 一冬持つもんなんですねー」


加賀の言葉にバクスは詳しくは知らないがと前置きを口を開く。


「なんでもめちゃくちゃ低い温度で冷凍するから鮮度が落ちないらしいぞ? どういう理屈なのかは知らんがな」


「へー……ん? そ、それって業務用の冷凍庫じゃ」


「ん、確かに一般家庭で使う大きさじゃないな、あれは……ほしいのか?」


バクスの言葉に加賀はえへへと笑うと、申し訳なさそうに小さくうなずく。


「そうだな……加賀には宿で出す料理作ってもらおうと思ってたし、あったほうがいいだろうなあ。一応倉庫に昔のがあるが……せっかくだ新品を買おうか」


「おおー……ちなみにおいくらぐらいなんでしょ」


新品を買うと聞いて喜ぶ加賀だが、値段が気になるのか小声でバクスに尋ねる。

加賀の感覚でいうと業務用の冷凍庫となるとかなりの高額となる。


「1000万リアてとこかな」


「1000万……1000万!?」


加賀が想像していたのより桁が一つ多い。

思わず大きな声をだしてしまう加賀、まわりの視線が一瞬あつまりあわてて体を小さくする。


「あのぅ……それだいじょぶなんですか?」


「問題ないぞ。必要なものだしな、せっかくなら加賀も新品のほうが良いだろう」


心配する加賀にバクスはあっさり問題ないと答える。

その様子からこの男にとっては1000万リア程度の出費であれば、実際問題ない範囲なのだろうと言う事が伺える。


「やだ、バクスさん男前……」


「何を言っとるんだお前は……」


呆れた視線を加賀に向けるバクス。

デザートの栗のパウンドケーキを頬張り、満足げにうなずくと再び口を開く。


「とは言え、買うといってすぐ買えるもんでもなくてな、在庫があるかギルドに問い合わせにゃならん。場合によっては取り寄せになる…何せダンジョン産だからな」


「……ダンジョンで冷凍庫がとれるんですか?」


「ああ、宝物庫で稀にだがでるぞ」


ダンジョンの宝物庫に鎮座する巨大な業務用冷凍庫。

違和感しかないその光景を想像し思わずこめかみを抑える加賀であった。


「そういや、バクスさん。この街って以前はダンジョンあったんでしたっけ?」


加賀とバクスの会話が聞こえていたのか、パウンドケーキ片手に八木が会話へと入ってくる。

八木の質問にああと呟き、顎に手をあてるバクス。


「もう15年以上前になるがな、この街で魔道具をちょくちょく見かけるだろう? ほとんどがここのダンジョン産だぞ。俺の馬車も攻略したときに出たやつでな……あん時は本当苦労した」


「…………ん? あん時はって……もしかしてもしかするとこの街のダンジョン攻略したのって……バクスさん?」


「そうだぞ、正確には俺とPTメンバーがだがな」


八木の問いにあっさり肯定するバクス。

驚き目を丸くする二人を見て少し笑うと残りのパウンドケーキを口に放り込む。


「そんな驚く事ないだろう、俺がもとSランクの……あー、そうかそうか。お前ら知らないか」


一人納得した様子のバクスを疑問符が浮かんだまま見つめる二人。

バクスは一言すまんすまん、と謝ると再び口を開く。


「Sランクってのはダンジョン攻略した者に与えられるランクなんだよ」


感心したようにバクスを見る二人、バクスは気をよくしたのか倒叙の冒険譚を二人へと語り出す。

そして話は終盤、最後の敵を倒しダンジョンコアを割るときの話しとなる。


「……そして最後の敵を倒しダンジョンコアを破壊した。それで終いだ、後は宝を全部回収して残ったのは活動停止中のダンジョンだけだ」


「へぇ~、やっぱダンジョンコアとかあるんですねえ、どんなの何です?コアって」


八木のの問いにそうだなあと呟き自分の手を見つめるバクス。


片手で持てるぐらい……リンゴよりは一回りでかい、綺麗な赤色しててな、ぱっと見は宝玉って感じだった」


「…………」


赤い宝玉、それを聴いてい何か引っかかる加賀、以前にたしか……何かを思い出しそうなところでふいに声がかかる。


うっ(加賀、ケーキおかわり)


「デザートは一人1個……これで最後だよ?」


美味しそうにケーキをほおばるうーちゃんをにこにこしながらながめる加賀。

先ほどの引っかかりなどすでに忘れているのであった。

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