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43話 「揚げ物食べたい」

時は流れ季節は秋となる。


かつてバクスの宿があった空き地。そこには既に大きな馬小屋と、馬車の停留所が完成していた。

中ではアンジェが飼い葉を食べつつ、時々加賀から料理をもらいゆったりと過ごしている。

毎日と言うわけではないが、それなりの頻度で出かけるようになったため、アンジェは以前より充実した生活を送っているようだ。


そしてメインの宿本体は現在基礎工事が始まったところである。

バクス、八木、そしてモヒカン。三者がすぐ連絡を取り打ち合わせを出来る状態にあったのがよかったのかもしれない。

建物の設計は八木の予想をはるかに超えた速度で完了した。


空き地では大きく掘り返された穴に何かを流し込む作業が行われており、その傍らでは図面を見つつ、八木とモヒカンが作業員へと適時指示を出していた。

この世界にもきっちりコンクリートは存在するようで、基礎はコンクリと鉄筋を使用したものになるとのこと。


作業は順調で冬になる前には基礎工事は終わる見込みである。

それ以降は天候と職人の習熟しだいとの事だが、堅物そうなモヒカン曰く春ごろになるのでは?とのことだ。


図面を眺める二人の背後から一人の人物が近づき声をかける。


「八木ー。お昼できたよ」


「おっ、もうそんな時間かー」


「いつもすまいね、お嬢ちゃん」


何度言ってもなおらないお嬢ちゃんという呼び方。

加賀はその呼び方にもモヒカンにも慣れたのか、作業員に飯だぞと声を張るモヒカンの姿に苦笑しつつ仮設小屋へと入っていく。


この仮設小屋は作業員の休憩所として建てられたもので、事務所は食事処も兼ねている。

食事を用意するのは加賀だ。この国の人の好みを知っておきたいのと、自分の作る料理の味見をしてほしいという加賀の思いと、なるべく人件費を安くしたいという八木の考えが一致した結果である。



「今日のは揚げ物と聞いていたが……みごとに茶色だな」


「緑もありますよー、ほら付け合わせのキャベツとか。サラダとか」


うー(この黒っぽいどろっとしたのかけて食うんかの)


仮設小屋の中ではバクスとうーちゃんがすでに準備万端で椅子に待機済みである。

加賀が今日お昼として作ったのは揚げ物であった。かねてから八木からリクエストがあった事もあり、いつか作ろうと思っていたものだ。


トゥラウニで手に入れた各種香辛料、それにちゃっかり手に入れてたお酢。

これらを使って加賀はまずウスターソースを作っていた、そして十分寝かせたウスターソースをもとに揚げ物用のソースが完成したのがつい先日のこと。


そして肉屋のハンズからウォーボアの脂身を大量にゲットし、出来上がったのがテーブルの上にずらりと並んだトンカツである。


チキンカツや魚のフライも候補ではあったが、チキンより豚(猪)が良いという八木の要望と、魚はそこまで量が確保できないと言う理由から除外となった。


「えっと、今日の料理はトンカツといいます。似たような料理食べたことあるかもしれませんが…えっとこちらのソースをかけて食べてみてください、香辛料結構つかってますので最初は少なめにしたほうが良いと思います」


ずらりとテーブルにならぶモヒカンを前に料理の説明をする加賀。

慣れてきたとは言えこの数のモヒカンにじっと見られると緊張するのだろう、すこしつまずきつつ説明を行っていた。


加賀の説明が終わるのを見計らない、堅物そうなモヒカンがでは頂くとするか、とさっそく料理に手を付ける。

それを皮切り次々に料理を口へ運ぶモヒカン。湧き上がる歓声からトンカツはかなり好評のようであった。


「やっぱトンカツうまいな……てかこれ普通の豚よりうまいんじゃ……?」


「お? そうなんだー?」


パンにソースをかけたカツとキャベツを挟みうーちゃんに渡す加賀。

八木の言葉に反応し自分もぱくりとカツを口にはこぶ。


「んっ、確かにおいしい! どっちがと言われると悩むけど……豚に負けずおいしいねー」


加賀が食べてみたところ風味こそ違うものの、ラードで揚げられた衣はさくさくと香ばしく、肉は柔らかくジューシーに仕上がっている。

そして何より脂身がぷるぷるしてて非常に美味しい、ここは豚と異なる点だろうか。


うー(加賀ー加賀ー)


「ん? どったのうーちゃん」


くいくいと袖を引くうーちゃんに振り替える加賀。

そんな加賀にうーちゃんは空になった皿をすっと差し出す。


うっ(おかわりほしいの)


「食べるのはやっ。ちょっと待っててね、今追加で揚げちゃうからー」


その言葉にあちこちから俺も俺もと声があがる。

最初は数えていた加賀だが次第にめんどくさくなり、全員分揚げれば良いかと結論付け台所へと向かう。


「しかし……」


「どしたんすか? 八木さん」


ぼそりとつぶやいと一言。

それに気が付いたサラダをつつく線の細いモヒカン。八木へと声をかける。


「うまいんだけどなあ……酒ほしくなるよなあ」


「あー、そっすねえ」


酒、その一言にまわりのモヒカンがぴくりと反応する。


「酒か、なるべく考えないようにしてたんだがな」


堅物そうなモヒカンの一言。

同調するように酒、酒とあちこちから声があがり、次第に大きくなっていく。


「よおぉっし、お前ら! どうせコンクリ乾くまで何もできん、今日はもう終いだ!」


ばんっと膝を叩き立ちあがり声を上げる堅物そうなモヒカン。

その一言を待っていたかのように一斉に湧き上がる歓声、気が早いものはすでに財布片手に外に出してすらいる。

酒を求めに酒屋へと走ったのだ。


そんな様子をやれやれといった様子で眺めるバクスであるが、止める様子はない。というよりすでに一人酒を飲み始めていた。



「……なんぞこれ」


揚げ物の乗った皿を手に持ち立ち尽くす加賀。

自分が台所にいった十数分の間にいったい何があったのか、宴会場となった仮設小屋を前に入りあぐねている。


だが、一つ確かに分かる事がある、それは今あげた分だけでは絶対足りないだろうということ。

加賀は意を決し皿をテーブルに置くと、歓声に押されるように再び台所に戻るのであった。

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