38話 「香辛料」
女将に礼を言い店をあとにする一行。
バクスは足元がおぼつかなく、八木が肩を貸すかたちでなんとか店をでる。
「なかなか強烈だったねー」
「いやあ、本当な……バクスさんどうしよう」
うっ(蹴ったらおきるんではないかの)
八木の肩に掴まる……と言うより八木が肩にかついでいるバクスだが、まだ先ほどのダメージが抜けきっていないようだ。
何やら物騒なこと言いだしたうーちゃんを見て顔を引きつらせる八木。
脇腹を擦りつつ口を開く。
「……いずれ起きると思うけど、とりあえず女将さんに教えてもらったとこまで行くしかないか」
「そだね、八木そのまま担いでいける?」
「余裕余裕」
そういうと八木はバクスを担いだまま普段と変わらぬ足取りで歩きだす。
さすがは神からもらった加護といったところだろうが。もっともそのせいで必要以上にムキムキになっているのだが……
「到着っと、バクスさんまだ起きないなあ。よっこいせ」
「……む?」
「あ、おきた」
ずり落ちそうになるバクスを再度担ぎ直す八木。
ふいにゆすられたことでバクスは目を覚ます、だが自体が把握できていないのかあたりをキョロキョロと見渡している。
「ここは……俺は一体」
「とりあえずご飯食べ終わってから、女将に香辛料売ってる場所きいたんすよ。で、いまその店についたとこっす」
香辛料と聞いてビクリと体を震わせるバクス、慌てたように八木から体を離しじっと目の前にある店を見つめじりじりと距離を取り出す。
「まさか家でもあんな料理を作るのか……?」
「いあいあ、あそこまで香辛料使わないですよー。さすがにあれはボクらもきつかったですし」
「ほ、本当だな!?」
バクスの反応に思わず苦笑いしそうになるが、普段香辛料を使わない人にとってあの量はいくらなんでも厳しすぎるかと思い。
胡椒だけではあるが、加賀が作った料理にも香辛料がはいっていたこと。今後使うとしてもあの程度で収まるはずとバクスに伝えなんとか落ち着かせる。
「いっぱい買えたねー」
「それに思ったより安かった?」
香辛料の購入はスムーズに終わったようだ。
女将に聞いたことを話したのが効いたのかも知れないが、加賀がまとめ買いをしようとすると、まさかこっちの人がまとめ買いしてくれるなんてと喜びいくつかおまけまで貰ったほどだ。
パンパンに膨らんだバッグを抱え加賀はすごくご機嫌である。
今にも踊り出しそうになったところで、八木に値段のことを聞かれると首をこてんとかしげる。
「んー、ものによるかな。胡椒とか高かったし、でも馬鹿みたく高いってことはなかったーかな?」
ああ、と会話を聞いていたバクスが声をあげる。
「陸続きでもってこれるか、一度海を渡らないといけないかの違いだろうな」
「あ、なるほどねー」
ご機嫌な加賀を先頭に南門から伸びる大通りへと出た一行は宿屋を探しつつ帰路へつく。
途中宿屋を見かけるたび、八木がメモを片手に建物内へと入っていく。
およそ20軒ほど見ただろうか、道が東門から伸びる道と合流する。
「ここ曲がって進むと俺らの宿かな」
「たぶんそうだねー」
残り半分!と言い東門へと歩を進める八木。
そして夕方近くなったころ八木たちは自分たちの宿屋へと到着していた。
「なんか東門の方は宿少ないなあ」
「南門からの出入りが多いからな、自然とそうなる」
バクス曰く南の国とは貿易が盛んで引っ切りなしに人の出入りがあるそうだ。
北と東とも勿論貿易が盛んであるが南方と比べると人の出入りは大分少ないとのこと。
「それで何かいいことわかったー? 建物はぱっと見あまり違いがなかったぽいけど」
「そうだなあ、確かに外見はあまり違いがなかったけど中はそれなりに違うみたいだぞ」
へーと感心したように声をあげる加賀を横目に、八木はメモをぺらぺらとめくり加賀へと見せる。
「ほれ、ここみてみ。これ各宿屋の部屋割な」
「ほほー、大部屋なんてあるんだ? あ、でも無い宿屋もあるね。食堂もだ。個室の中はベッドだけが多いんだねー」
「大部屋は商人向けかねえ、個室と比べると大分安いし」
「へー……バクスさん。バクスさんの宿屋もこんな感じだったんですかー?」
バクスは加賀の問いに少し顎に触れ、口を開く。
「似たようなもんだな、うちは個室のみだったがベッドと一応小さい机があったな。ああ、食堂もあったぞ?」
「建て直すのも同じ感じでいくんですかー?」
加賀の問いにバクスは八木を一瞥すると口を開いた。
「いや、外見はもちろんだが中身も前とは変えようと思う。基本的には八木の案でいくが、全てを採用できるわけじゃなくてな。その辺は追々詰めていくことになる」
「あ……それじゃバクスさんもしかして……」
八木の期待するような表情を見てバクスはニッと笑みを浮かべる。
「ああ、八木の案を正式に採用する。あとでギルド通して依頼だすからよろしく頼むぞ?」
「よっしゃああ!! バクスさんありがとう!」
飛び上がらんばかりに喜ぶ八木、その勢いのままバクスへと抱き着こうとする。
「ふんっ」
「げふぅぉっ!?」
とっさに突き出された拳が八木の腹に突き刺ささる。良い具合に鳩尾にはいったようで、腹を抱えてその場にうずくまる八木。
心配げにかけよった加賀が肩に手をかけ声をかける。
「だいじょうぶ? おなかなぐる?」
「追い打ちやめてっ」