34話 「トゥラウニの街」
トゥラウニへの旅路は順調であった。
特に何かに襲撃されるといったこともない、街道はそれなりに整備されており、馬車のサスが良いことも相まって3人?でトランプする余裕すらある。
ただ順調すぎると今度は暇になってくる。昼食を食べ終え空調のきいた車内、眠気をさそうほどよい馬車のゆれ。そのまま二人が眠りに落ちるのも仕方のないことだろう。
「……ぉ……い。おい、ついたぞ」
時刻はまもなく夕方、二人が寝ている間に馬車はトゥラウニへと続く城門前へとついていた。
よほどがっつり寝ていたのか、二人とも眠たげに体をおこすとおおきく欠伸をする。
「がっつり寝てたな……いま街中にはいるための順番待ちをしている所だ。もう10分もあればうちらの番がくる、それまでしっかり目を覚ましてギルドカードをだす準備しといてくれ」
寝ぼけまなこでカバンをあさる二人、そんな二人をみてバクスはやれやれと言った様子で御者台へと戻るのであった。
「おぉ、磯のにおいが……港かなりでかいな、船もすげーとまってる」
「わっすっごいねー! あんな船いっぱいとまってるの初めてみたかも」
門をくぐり抜け二人の視界に飛び込んできたのは大小さまざまな船がとまる巨大な港であった。
門があった場所が港に対し高所に位置していた為、建物が視界を遮ることなく港を見下ろせるようになっているようだ。
門周辺に高い建物が見受けられない、これはこの景観を確保するためだろう。
夕方時ということもあり、海面にうつった夕日が非常に美しく二人は少しの間その景色に見ほれていたようだ。
「お前ら、景色みるのはいいがそこ邪魔になるからこっちこい」
ふいに二人の後ろから声が掛かる。アンジェと馬車をあずけたバクスが戻ってきたのだ。
バクスの言葉にはっとする二人、後ろからは後続の馬車がきており慌てて道端に身をよせる。
「ごめんなさい、バクスさん」
「すんません」
「なに、初めてこっちから来た奴は大抵ああなるもんだ……ま、後ろだけには気を付けてな」
「こっち? 他にも入口あるんですかー?」
「ん? ああ……」
バクスの説明によるとトゥラウニにはバクス達がきた東門の他に、北門と南門が存在するとの事だ。
尚、どの門でもいくらか入場料が発生する。
これは他国からものを持ち込む際の関税……というわけではなく、各街や国を結ぶ街道の整備費用として徴収している。
実は徴収した分だけでは整備費用を賄え切れておらず、足がでた分は隣国同士で国が負担しているとの事。
これは国が負担したとしても、入場料を安くおさえたほうが結果として利益となると判断した為である。
「へー……」
「なるほどなるほど……船も多いし、人の出入りもかなりある見たいですし。これなら色んなもの手に入りるだろうなあ」
「あぁ、そのあたりは期待して良いと思うぞ」
ビールはないがな、と笑いながら歩きだすバクス。
「まあ、まずは宿とるぞ。この時間ならまだまだ空きはある。荷物置いたら日が暮れるまでまだ時間あるし、ちょっと街を回ってみるか?」
「お、いいっすね。できれば港のほうもいってみたいなあ」
「あー、おさかな食べたいかも」
うっ(さかなとな?)
「港町だしね、魚介類いっぱいだと思うよー」
お魚に興味があるのか、早く早くとせかすうーちゃんにほっこりしつつ、一行は本日泊まる宿へと向かった。
歩くこと十数分、一行は港に面する道沿いにある宿へと到着する
。
宿は白い漆喰で覆われ、窓が各部屋に一つと実にシンプルなたたずまいであった。
宿に入るとこじんまりとしたカウンターがあり、店員が一人店番をしている。
壁には各部屋のものだろう鍵がかけられている。
鍵の残り具合からまだ部屋に空きはあるようだ。
「一泊お願いしたい、3人だが空きはあるか?」
「あいにくと一人部屋しか開いてないけど、それでいいかい?」
「ああ、それで頼む」
そう言って懐から財布を出し宿代を支払うバクス。
支払った額は3人で銀貨9枚、これは以前八木が調べた宿の平均額よりやや高い額となる。
部屋の中はベッドと小さな机のみとかなり質素であった。
だが部屋の中に埃などはなく、布団も皺なくきっちり敷かれており、見た目が質素なだけで中身はちゃんとしているようだ。
値段が幾分高めだったのもこのあたりのサービス料が含まれているのかも知れない。
「それじゃいくとするか。ついでに夕飯も食べるから今日は市場のほうに行くぞ」
「あ、宿じゃ食べないんですねー」
「ああ、この宿……というかこの街じゃ夕食だす宿はほとんどないぞ」
バクス曰く、市場で魚を焼いて売るなど露店がそれなりにあるため、夕食はそこですませてしまう人が大半とのこと。
自然と宿で夕食を出すところが減っていったそうだ。
なお、朝食については露店がまだでてないので、頼めば用意してくれる。
「おお、結構人も店もあるなあ」
港近くにある広場、ここでは地元の人間や各地から訪れた商人がバザーを開けるようになっている。
今日の夕飯をもとめてふらつくもの、掘り出し物を探して真剣な表情で商品を見比べるもの、ただの冷やかし等々、広場は結構な人がいた。
人でごった返す、というほどでは無いのは夕方近くなり一部の人間は店を片付けはじめるか、帰るかした為だろう。
「おーよく分からないけど色々売ってるねー」
うー(さかな、さかなはどこぞ)
さかなを探すのに夢中なうーちゃんんはおいといて。
八木も加賀も商品を眺めるのに夢中になっているようだ。
二人がちょうど見ているのは海を渡った先の国の工芸品である、実に異国情緒溢れる品であったが、二人にとっては例えこの国のものであったとしても異国のものと変わらないだろう。
最もそのおかげでどれを見ても物珍しくうつり、二人はかなり楽しみながら店をまわることができたようだ。