330話
無事レプラを倒し解体を進めていた一行であったが、腹を掻っ捌いた辺りであることに気が付く。
「む……こいつ、雌か」
「あ、そうなんすか?」
レプラは毛深く、ぱっと見では区別がつかなかったが腹を割いて見ればそこには雄には存在しない臓器があった。
バクスはそれを見て顔をしかめる。
子をなした形跡があったからだ。
「不味いな……みんな番が居るかも知れない、すぐ対処できるように準備しといてくれ」
「ありゃ。それじゃ精霊にお願いして辺り探ってもらうねー」
バクスの言葉を受けてシェイラが精霊魔法を行使する。
番がやられたとなると残された方は怒り狂うこと間違いない。
そんなレプラに急襲でもされたらただでは済まないかも知れないのだ。
この場にいる皆はそれが分かっている。
そのため解体は進めるが決して気を抜くことはなかった。
そして、解体作業がほぼ終わろうとしていたときであった。
シェイラの精霊からこの場に接近する者が居るとの情報がもたらされた。
「きたよ。 方角は山頂のほうから数は……5」
「5!? ……肉にこだわってる余裕は無いな」
数が予想以上に多くバクスの顔が苦り切ったものに変わる。
番だけではなくその子供まで向かってきているのだ。
親離れしていないということはまだかなり若い個体ではあろうが、それでも脅威である。
もはや肉を目的に血抜きしながら戦う等と言っている余裕は無い。
「じゃ、殺すの優先でってことで……ソシエと私で最初に大きいの行くね。 残ったのはよっろしくー」
ただ5頭が向かっているというのに探索者達の表情に焦りはない。
シェイラは迎え撃つために詠唱を開始し、まずは向かって山頂のほうに強めの風を起こす。
季節は冬でしかも山中ということもあって、そこに存在する雪は全てサラサラの粉雪である。
そんな状態で風をおこせばどうなるか……ほどなくして彼らの前方は雪煙によって視界が遮られることとなる。
そしてシェイラとソシエは雪煙を気にする様子もなく次の詠唱をはじめていた。
二人の頭上に浮かぶに赤熱した長大な棒状の光。
ドラゴン戦でも使用したそれがソシエの頭上に三つ。シェイラの頭上には二つ浮かんでいた。
そして前衛は剣と盾を、後衛は弓と杖を構え待ち構えていると……やがて遠くから地響きが響いてくる。
レプラの群れがやってきたのだ。
「……いまっ」
シェイラがそう言うと同時に魔法を放つ。
それと一拍遅れてレプラが雪煙を突き破って飛び出してきた。
精霊魔法によってレプラの位置を把握できるシェイラは飛び出すタイミングにばっちり合わせて魔法を放つことが出来る……結果として二つの光はレプラの顔面へと直撃しその頭を吹き飛ばしていた。
一方のソシエはタイミングは分かるもののその位置までは知ることは出来ない。
なのでどうしても一瞬遅れて魔法を放つことになるのだが……それでも1頭の半身を吹き飛ばし、さらにはもう1頭の前腕を2本吹き飛ばすことに成功していた。
ただ残念ながらシェイラとソシエの魔法がまともにあたったのはいずれも若い個体であった。
一番厄介であろう親のレプラは咄嗟に回避行動を取った為、肩を掠めた程度であった。
「っよし、さすがだ!」
とは言え5頭のうち3頭は戦闘不能で1頭は戦力半減である。
肉に拘らず殺すことに専念した彼らにとっては苦戦するほどの相手ではなかったようである。
「ふう……」
「いやーさすがに連戦はきっついな」
真冬だというのに服の襟をばたばたと動かすヒューゴ。
前衛組は全力で動いていたこともあって、体からゆらゆらと湯気が立ち上っている。
「あまり体冷やすなよ。風邪引いたら加賀に呆れられるぞ」
「うぃっす。そんじゃまこっちも解体しますかね」
「全部は持って帰れないし、良い部分だけお願いねー」
「へーへー」
肉を持って帰るには用意しておいたソリで牽くことになる。
ただ山を登ることもあって、そこまで大きなソリは用意できなかったのだ。
帰りは作ったソリにのせ、何なら自分達も乗ってあとは召喚したスケルトンで引っ張れば良いので楽である。
行きもスケルトンに曳かせる手もあるが、戦闘前に魔力を消耗したくないとのことで止めることとなった。
「それじゃ帰るか……助かったよ、これだけあれば試作には困ることはなさそうだ」
「味見ならお任せください」
「レプラ食べたことないから楽しみー」
こうしてバクス達一行は無事レプラを狩り終え帰路につく。
帰りも元々レプラの縄張り範囲だったこともあり、何かに襲われるということもなく無事宿へと到着し、大量の肉を見て歓喜した加賀をはじめとした居残り組みの大歓迎を受ける。
その日の夕飯はレプラ尽くしだったそうな。
ちなみにヒューゴは風邪引いたらしく、一人お粥を食べていたとかなんとか。




