320話 「ワカサギ釣り再び2」
早朝。 額に手をかざ眩しそうに目を細め空を見上げる八木。
「雲一つなし。快晴快晴。それに風も弱いし釣りするにゃぴったりだな」
「天気良くてよかったねー」
ずっと座って釣りをしていると時期は真冬ということもあって防寒着を着ていても結構辛いものがある。
曇りだったり風が強ければなおさらだ。
幸いなことに今日の天気は非常に良い、支障なく釣りを楽しむことが出来るだろう。
「おう。 おう……? お米持ってくんか?」
馬車に荷物を積み込む加賀の姿をちらりと見た八木であったが、積み込まれるお米を見て加賀に声をかける。
「天丼にしょうと思ってねー」
「お前……なんて良いこと思いつくんだ」
「寄るなし。 暑苦しー」
加賀は釣りたてを天ぷらにするだけでは飽き足らず、天丼にしてしまうつもりであった。
近寄る八木をぐいと押しのけ残りの荷物を積み込む加賀。
「おーい。 こっちは荷物積み込み終わったぜ」
「おー。あっちはー……あっちも良さそうだね」
加賀以外も荷物は全て積み込み終わったようである。
各々の乗り物へと向かうと席に着く。
「んじゃ早速行くか。 ドラゴンさんは現地で集合だっけか?」
「そだよん。 それじゃーアイネさんお願いしまーっす」
「ん。 行くね」
ドラゴンは現地集合となっている。
今頃足場作りに励んでいることだろう。
「うーちゃん……うーちゃん様。 どうかゆっくりめでお願いしたく……」
う(おことわる)
「おぎゃああぁぁぁ……」
去年に引き続きうーちゃんはゆっくり行くつもりはさらさら無いようだ。
一気に加速すると悲鳴を置いて雪道を爆走していく。
「アンジェ俺達はゆっくり……アンジェ? アンジェさん?」
アンジェも同じようである。
久しぶりの遠出とあって非常に張りきるアンジェは速度はうーちゃんに劣るもののその体格を生かし盛大に雪煙をまき散らしている。
「わー雪男がいっぱい」
「ひでぇ目にあった……」
結果としてドラゴンの待つ汽水湖にたどり着いた時には幾つもの雪像が完成していた。
「おう、思ってたよりも早かったのであるな」
服にこびりついた雪を皆でほろっていると岸辺のほうからドラゴンがのそりと姿を現す。
「あ、ドラゴンさんお早う。 今日はよろしくねー」
「うむ、いま足場を作っているのでな、少し待つと良いのである」
挨拶を済ませるとドラゴンは再び岸辺へと向かい、そしてひょろっと細いブレスを吐き出す。
前回全力でブレスを吐いたせいで魚が一時的に逃げてしまったのを反省したのだ。
「ブレスって威力調整できたんだ」
「そうらしいですね……さて、今のうち決めることは決めてしまいましょうか」
そういって箱を取り出すアルヴィン。
蓋にあたる部分には手が入るぐらいの穴があいており、ゆすると中からがさごそと音がする。
「席と竿を決めるクジです……なにが当たっても恨みっこなしです」
そういった途端に手をあげるものがいた。
「はいはいはい! 俺が一番先にひく!」
ヒューゴである。
どのタイミングでひいても同じ気がしなくもないが、本人としては最初にひきたいらしい。
去年のが色々とトラウマになっているのだろうか。
「……別に構いませんが。 皆もそれで良いですか?」
「別にいいっすよ!」
「最初にひこうが最後にひこう変わんないよ。 さっさと席決めちゃうよー」
あきれた表情を浮かべほかの皆に問題ないか確認するアルヴィン。
異論は無いようでヒューゴにすっと箱を差し出した。
「……ふむ、また其方とであるか。 奇遇であるな」
「分かってたよ! 分かってたんだよ!!……ちくしょうがぁっ」
器用にも巨大な手で紙切れを持ちヒラヒラとさせるドラゴン。
その傍らでは悔しそうに地面を叩き叫ぶヒューゴの姿があった。
「ああ、そうであった。 ここの穴だけ大きめにしても構わないであろうか? 例の夫婦も呼んでいるのであるが……何せ若い個体であるでな。 人慣れもしておらぬ故に吾輩の側がよいと思うのでな」
釣りには汽水湖の中央に住む、若いドラゴンの夫婦を呼んでいたようだ。
夫婦を気遣い自分の側にくるようにと話すドラゴンであったが。
「別に構わないと思いますよー?」
「ざっけんなコラ。 何が悲しゅうて裸族に囲まれにゃ――」
当然ヒューゴは抗議をする。
ドラゴン一人だけでもきついのになぜ囲まれなければいけないのか、と。
だが、その時であった。さきほどの会話がヒューゴの脳内でリフレインする。
(例の夫婦……若い個体……裸族)
数分後そこには良い笑顔を浮かべ足場にあけた穴を拡張するヒューゴの姿があった。




