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317話 「鍋の季節4 何か届いたぽい」

テーブル3

イーナ:すじ肉

ガイ:エビ(???)

うーちゃん:チーズ(???)

カルロ:野菜盛り合わせ


もふりとした手が鍋の蓋をつかみ持ち上げる。

ふわりとチーズの香りが漂いとても美味しそうではある。


「……」


「……」


「なぜ誰も手をつけないのですかな」


美味しそうではある、が誰も手を付けようとしないでいた。

顎をさすり疑問を口にするカルロであるが、ガイとイーナは少し気まずそうにしながらも口を開く。


「いや、だって……ねえ? ガサゴソいってたし、液体入れる音がしたし……」


「……まあそうですね」


イーナの言葉に仕方ないかといった表情を浮かべるカルロ。

がさごそと生き物が蠢く音に、なぜか聞こえた液体の音、どちらも手を出すことを躊躇させるには十分な情報である。


うー(うまうま)


だが、そんな事お構いなしに手を出すものもいたりする……というよりは何を入れたのか分かってしまっているのだろう。


「うーちゃんは平気そうっすよ」


「しょうがないわね……ん、んん?」


平気そうに食べるうーちゃんを見て覚悟を決めたのか、皆おそるおそる具材を口へと運ぶ。


「これは……シチュー?」


「あぐっ!? ……殻? まさかこれ、蟹ですかな?」


野菜を口にしたイーナであるが、それは食べたことのある味となっていた。

一方のカルロであるが、ガキッという音がし痛そうに顔を顰め前歯を抑えている。口にいれようとしたものを確認するとそれは堅い甲殻に覆われたハサミであった。


「動いてたやつの正体それね……」


「もしかして牛乳いれたんすか? チーズもはいってるっすね」


ガサゴソいっていた物の正体は蟹であり、液体の正体は牛乳であった。

蟹は別に鍋にいれる具材としては珍しくはない、牛乳はあまり入れることはないだろうが相性が悪いわけではない。つまり……。


「普通にいけますな。 〆は米ですかね」


普通に美味しく頂けてしまったりするのである。


ガイ:エビ(活蟹)

うーちゃん:チーズ(牛乳)



テーブル4

ラードルフ:鳥丸ごと

アードルフ:鳥丸ごと

シェイラ:ボアのばら肉薄切り(???)

チェスター:ほうれん草(???)

ヒューゴ:餅(???)


ここは他のテーブルと違い鍋に手を出すのに躊躇がない。

蓋を開けると同時にいくつもの手が伸び鍋の具材をかっさらっていく。


「中央のでけーのなんだこれ」


「でかくて取れないじゃんー」


「……」


「……」


ただ鍋の中央に鎮座する巨大な塊、さすがにそれはでかすぎて手が出ないようである。

ちょっとでかすぎて不評なのを見て用意した二人は少しだけしょんぼりしていたりする。


「バラ肉とほうれん草いいですねえ。ポン酢でさっぱり食べられます」


「うんうん、いいよねー。 あう? なにこのもちもちしたの……餅か!」


ここの鍋は中央のでかい鳥を除けばそこまで変わったものは入っていない。

メインはバラ肉とほうれん草であり、酸味の効いたタレでさっぱりと頂ける。

時折餅が混ざっているようだが、食感が変わりちょっとしたアクセントになっているようだ。


「餅だぜぇ。 お? なんだこのでかいの……玉ねぎ? 丸ごとかよ!」


「玉ねぎ美味しいでしょう。 はて、バラ肉以外にも入ってますね。 この丸いのは……鳥のつくねでしょうか。軟骨はいってますね」


「ちょっとバラ肉だけだと飽きるかなーと思って」


一応内緒でいれた具材もあるようではあるが、どれも可愛いものである。

ちゃんと食べられるだけましと言うものだ。


「食感変わってよいですね。 では、私も餅頂ましょうか……コポォッ」


「ほあっ!?」


「ぎゃっははははは! 当たりおめでとーだぜ」


可愛くないものも混じっていたらしい。

皆が餅を食べるまで警戒して手を出していなかったチェスターであるが、ただの餅と思いぱくりと一口で食べてしまう。だが、それはただの餅ではなかったのだ。餅らしきものを盛大に吐き出したチェスターは震える手でフォークを使い断面を見る。


「こ、これ……大福です」


断面は餅らしい真っ白としたのではなく、黒い物体が餅の中にみっちりと詰まっていた。ようは餡子である。


「な、なんだってそんなの入れたの!」


「いや、だって普通のじゃ面白くねーじゃん? ギュェッ」


面白くないから、そう言ってのけたヒューゴの首にすっと暗闇の中から腕が伸びる。ヒューゴの口から変な声がもれる。


「もごぉっ!(タスケテッ) ふごごぉおおっ!(タスケテッ)」


残った大福は全てヒューゴのお腹に収まった。

予想通りと言えば予想通りだが、やはりこの男が一番やらかしたようである。



「ん、お客さん? こんな時間に……」


そんな皆の様子を半目で眺めていた加賀であったが、誰かが玄関で声をあげていることに気がついた。

外はもうだいぶ暗くなっており、いったい何のようだろうかとブツブツいいながら玄関へと向かう。


「はいはーい?」


ガチャリと扉を開けるとそこには雪にまみれ鼻水垂らした男が立っていた。


「……加賀様あてに荷物です」


「おおぅ……ありがとうございます。 そこにサインすればいいですかー?」


だれ?と首をかしげる加賀に男はすっと荷物をさしだした。

雪にまみれて分からなかったがよくよく見てみれば配達員らしき格好をしている。


「はい……確かに。 ではこれ荷物です」


「ありがとうございますー」


サインをし荷物を受け取った加賀は食堂へと戻っていく。

食堂は皆がもうネタバレずみと言うこともあって明かりが付けられていた。すると荷物を持った加賀に気が付いた探索者達がわらわらと集まってくる。皆高確率で珍しい食材が入っていることを知っているのだ。


「なになに。 なんか届いたのか?」


「復活はやっ」


さきほど大福をつめこまれ死にかけていたヒューゴがもう復活している事に驚く加賀。

ヒューゴは意外といけたぜ、と言うと興味深そうに荷物へ視線を戻す。


「たぶん新しい食材だと思う……あけよっか」


若干引きつつ荷物をべりべりと開けていく加賀。


「……あっ」


「お? どんなの入ってたん?」


荷物は加賀が待ち望んでいたものであった。

にこにこと笑みを浮かべ、加賀は手に取ったものを皆へと見せびらかすように高く掲げた。


「……それ食いもんなの?」


「え、木かなにかじゃないの……」


「食べ物だよー。 鰹節っていってこれでも元はお魚だったり」


反応の悪い探索者達に頬を膨らませつつ手に持った物がなんであるか説明する加賀。

だが削る前の鰹節は正直見た目は食い物に見えない、食べ物だと説明する加賀へと皆疑わしそうな目を向けるのであった。


「うっそだあ……いや、だってこれカッチカチじゃん。 どう見ても食いもんには見えねーぞ」


「薄く削って使うんだけど……八木、カンナとかある?」


「あるけどあれ仕事で使ってるからなあ……」


コツコツと鰹節を叩き加賀へと返すヒューゴ。

加賀は鰹節を八木へと見せ、カンナがあるか尋ねるがあいにくと仕事用しか無いようである。

さすがに仕事で使ったものを食材に使うのも気が引ける。加賀は頬をぷくりと膨らませむーっとうなる。


「むー。それじゃ使えない……そうだ。 うーちゃんちょっといいー?」


う(なんぞ)


「これをさ、向こうが透けて見えるぐらい薄く削れない?」


あきらめきれなかった加賀はうーちゃんへと鰹節をさしだし、削れないかと尋ねる。


うー(まかせろー)


「おー……さっすが。 本当に削れちゃったよ……」


そのもふりとした手でどうやって削っているのか不明であるが、うーちゃんが手をふりふりと振ると、手に触れた部分から鰹節は薄く、透けて見えるほどに削れていった。


「……木くずにしか見えねえんですけど」


「んー……ちょっと待ってね」


加賀や八木の見慣れた鰹節の姿となったが、それでも知らない人にとっては食い物に見えないようである。

厨房へとささっと戻った加賀は鍋を二つ、それに濾し布を持ってくると食べ終え空になった鍋をどかし、持ってきた鍋を火にかけた。

鍋には水が張られており、やがて沸騰しはじめる。


「こうやってお湯に入れてー」


すると加賀は削りだした鰹節を鍋にいれ。


「沸騰したら濾してー」


再度沸騰しかけたところで火を止め濾し布を使い濾しはじめる。


「はい。出汁とれたよ飲んでみて」


そういって出しの入った鍋をヒューゴに差し出す加賀。


「え、俺ぇっ?」


まさか自分が飲むことになるとは思ってなかったヒューゴ。まわりを見渡すが皆すっと目をそらすのであった。


「て、てめえら……じゃ一口だけ…………んお?」


諦めた表情で鍋の中身を口にするヒューゴ。

お?といった感じで眉をくいっと上げる。


「どー?」


「いけるぞこれ」


いけるとの言葉を聞いてにっと笑みを浮かべる加賀。


「他にもおにぎりの具にしたりー。薬味に使ったりー。色々使える」


鰹節は出汁をとるだけではなく様々な用途に使える。


「今度作るから楽しみにしててー」


そう言って加賀は嬉しそうに鰹節を厨房に持っていくのであった。



「加賀ちょっといいか?」


闇鍋も終わり、厨房で後片付けをする加賀。

そこへ八木が声を掛ける。


「う?」


気が付いた加賀へと八木はにこにこしながら手を振るのであった。

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