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30話 「おもちかえり」

「さすがに腹きついな……」


「私しばらく動けそうにないわあ」


あおむけになり軽く腹をさするバクス。

その横ではアンジェが地面に横たわっている。アンジェが何をいっているかバクスには分からない、だがその状態からなんとなく察したのだろう。アンジェを横目で見て動くのはしばらく休憩してからだな、と呟くと大きく大の字になり目をつむる。


「ん、全部売れたなあ……あまるかと心配したけどよかったー」


うー(うま……うま)


空になった弁当箱を片付けていく加賀、その横ではうーちゃんがリンゴを少しずつ齧っている。

そのお腹はぽっこりと膨れており、かなり大量に食べたであろうことが窺える。


「あまり無理して食べないようにねー、おなかこわしちゃうよ?…よいしょっと」


弁当箱を片付け、リンゴがつまった籠を馬車へと積み込んでいく。

依頼のあった数は十分集まっており、自分たちの分として小さな籠も積んでいる。

アンジェが満足する量ではないが、それなりの量となっている。


う(もう帰るん?)


「ん、そだね。リンゴ集め終わったし、みんなのお腹落ちついたらかなー」


うー(そっか……)


そう呟いて最後のひとかけを口にするうーちゃん。

荷物を積み終わった加賀が近づきそっとその手で持ち上げる。


「うーちゃんも一緒に行く?」


う!(行く! ……行って良い?)


「ん、バクスさんに聞いてみる。たぶんだいじょぶだと思うけど……」



大の字になって横になっているバクス、その顔にかかる影。

近づいてきた加賀に気づき体を起こす。


「加賀か、どうした?」


「あの……その、ちょっとお願いごとがあって」


バクスは加賀の言葉に軽く首をかしげ次いでその手元に視線を移動する。

そして軽く顎をさすりつつ口を開く。


「……まあ、別にかまわんぞ」


「う?」


「連れて帰りたいんだろ? 別に構わないぞ」


ま、看板娘?として働いてもらうがなと笑うバクス。


「だって! よかったねうーちゃん」


うー!(ありがたや、ありがたや)


うーちゃんを高く掲げ喜ぶ加賀、そしてバクスを拝むうーちゃん。

当のバクスは軽く笑いつつも再び横になる、どうやらかなり食べ過ぎのようである。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



日が暮れだすより少し前、一行が乗る馬車は街の入り口へとたどり着いていた。

タイミングが悪かったのか、それとも初日がよかっただけなのか、入り口には入門待ちの列ができていた。


「ありゃー、結構並んでるー」


「まあ、あれぐらいなら問題おきなきゃ大してかからんよ」


バクスの言った通り列はスムーズに流れて行き30分もしないうち加賀達の順番となる。


「それではカードお返しします」


「ありがとう、それじゃ通してもらうよ」


特に何事もなく門を通った一行は馬車を預けた後、バクス亭へと向かう。

なおアンジェについても馬車と一緒に預けてきた。これは旧宿を解体した際に馬小屋も一緒に解体したためである。

現状アンジェの住む場所がないのだ。


「それじゃ、アンジェまたくるねー」


「えぇ、期待してまってるわ」


アンジェと別れバクス亭へと向かう最中、ふとバクスが口をひらく。


「……アンジェ何かいってたか?」


「ん、期待してまってるって言ってましたよー」


「そうか……早めに宿を……いや、馬小屋だけでも先に作ってもらうべきか」


「帰ったら八木と相談ですねー」


今までも決してアンジェのことを気にしていなかった訳ではないが、やはり意味のある言葉として聞いてしまうと何か思うところがあるのだろう。

家へと向かう足を自然と早めるのであった。



一方そのころバクス邸。

八木の部屋、ベッドに寝ていたはずの八木の姿はなく人の気配はない。

居間をみても人の姿はなくがらんとしている。


ふいにがちゃりと音をたて扉が開く一人の男が部屋へと入ってくる。

八木である。


眠気覚ましに水浴びをしたのだろう、濡れそぼった髪をタオルで荒々しくふいている。

そして居間にある棚の戸を開くと木製のコップをとりだし、好きに飲んで良いと言われていた牛乳を冷蔵庫から取り出しコップへとそそぐ。


「たっだいまー」


「もどったぞ」


ぐびぐびと音を立てて牛乳を飲み干す八木。コップをテーブルにおいたところでガチャリと音を立て戸が開き、二人が部屋へと入ってくる。

そして八木の姿を確認したところで二人そろって顔をしかめるのであった。

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