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306話 「ダンジョンと温泉と おまけ」

男共がむさくるしい場面を繰り広げる中、女湯では宿の女性陣が時を同じくして脱衣所の扉をくぐっていた。


「わーひっろいねー!」


「走ると転ぶよ?」


入るなりタオル片手に駆け出すシェイラ。

後から来るその他の女性陣は落ちついたものである。


「あらまあ、すごく広い温泉ねえ」


「温泉……?」


のほほんとした感想を述べる咲耶。

だが周りのものは温泉と聞いて首を傾げている。


「確かに滑り台もあるし、普通の温泉とは違うわねえ……子供が喜びそう」


普通の温泉には滑り台などないだろう。

岩が一部滑るのに適した形になっていたり、といった事はあるかも知れないが。


「うーちゃんとシェイラが突っ込んでいったけど」


「……大人が楽しんでもいいと思うの」


「咲耶さんちょっと間があったよっ」


滑り台に真っ先に向かったシェイラとうーちゃん。

咲耶はうっとした表情を一瞬見せる。子供が喜びそうといったとたんに二人が突っ込んでいくとは思わなかったのだろう。

ソシエに突っ込まれるが咲耶はとりあえず笑ってごまかすことにしたらしい。



「咲耶さんのそれ、そこにあったんだ……」


十分遊んだところでいったん温泉からあがり体を洗い出した女性陣。

洗いながら隣へとシェイラがちらちら視線を向けている。


「紋様? 私は足首から膝にかけてなのよね」


神の落とし子にある紋様が気になっていたようだ。

咲耶は普段素足を見せないようにしているのと従業員だからという理由で他の者と風呂の時間をずらしている。その為紋様がどこにあるかは本人以外知らなかったりする。


「人によってバラバラなんだー。 八木っちは背中だよね? 加賀っちはどこなんだろう」


「あの子は……どこかしらねえ」


「太ももから腰にかけてだね」


「っへー……?」


加賀はどこにあるのだろうかという疑問に答えるアイネ。

なぜ知っているのか、そんな疑問がシェイラの頭に一瞬浮かぶが、深く考えるのはやめたようである。



「……咲耶さんもアイネさんもスタイルいいよねー……あんなに食べてるのに」


話題は紋様からそれぞれのスタイルについて移っていた。

自分のお腹をさすりながら羨ましそうに咲耶とアイネに視線を向けるシェイラ。

なお、他の女性陣は視線は向けるものの羨ましそうにはしてなかったりする。


「私は掃除のあれがカロリーいっぱい消費するのよねえ」


「私は魔力消費すればいいだけだから」


「ずーるーいー」


咲耶はそれなりにしか食べないが、アイネの食事量は探索者達と遜色ない。

だがどれだけ食べようが魔力を消費すれば太ることはない、というよりも一部にしか栄養が行かない特殊体質のようなものなので比較しようがないのだが。


「あれから食べたいのセーブするようにしてるのに……」


じとーっと恨めしそうな目で二人を見るシェイラ。

咲耶は困ったように笑みを浮かべると、ちらりと温泉の奥へと視線を向ける。


「あら、それじゃお店で買うのはやめておく?」


「買うよっ! それとこれは別だもんねー」


温泉に入りながら酒を飲みつつ軽食をつまむ。

それをしないなんて選択はなかったのである。


屋台で軽食を買い、それぞれが口に含んだときであった。

アイネとうーちゃんの二人に電流が走る。


「…………」


うー(ヴぁー)


「ふ、二人ともどうしたの??」


ぷるぷると体を震わせる二人を見てぎょっとするシェイラ。


「……味がしない」


うー!(かーがー!)


涙目で料理をおくアイネ。

うーちゃんは水面をバシバシ叩き加賀の名を呼ぶ。

二人ともうっかり忘れていたが、加賀が手を加えなければ二人は食事をまともに取ることは出来ない。


「うーちゃんてばすっかり拗ねちゃって……」


可哀そうな視線を向けるその先には水面に仰向けになりぷかぷかと浮かぶうーちゃんの姿。


「さすがに男湯に行くのはね」


加賀を連れてくるのは論外であるし、アイネは食事するのは諦め、温泉を楽しむことに専念したようだ。

以前の骸骨のような姿であれば男湯に行けたかも知れない……いや、それはそれで別の問題はおきそうであるが。とにかく今の状態で男湯に行くのはさすがに憚られる。


「うーちゃんだけでも行けばいいのに」


「何か皆に見られるのが嫌なんだって」


「えぇ……普段からあの格好なのに?」


一方のうーちゃんは普段と同じ格好であるし、いっても問題ないかと思われたが本人はどうも男湯に行くのが嫌らしい。

結局そのまま夕飯まで二人は空きっ腹を抱える事になるのであった。

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