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303話 「ダンジョンと温泉と7」

ぞろぞろと連れ立ち小山へと向かう男共。目的は一つである。

それに抗議するように桶から身を乗り出し、水面をばしゃばしゃと叩く加賀。


にゃー!(結局やるんかいー!)


男共の中にはヒューゴも含まれていた。

真顔で突っ込みを入れたヒューゴであったが、なら貴方はやらないのですね? と問われ――


「やらいでか!!」


と答え、今に至る。


「男にゃやらねばならん時があるのよ……わかるだろ?」


にゃ!(わかるかー!)


聞き分けのない子を諭すように、言い聞かせるように話すヒューゴ。

だがやることはただの覗きである。


にゃー!(八木ー! 八木も止めてよー!)


何を言っても止まりそうにない、そう理解した加賀は一緒についていかずその場に残った八木へと助けを求める。


「あー……大丈夫。 ちゃんと対策はあるから」


対策はあるから、そういって小山へと向かう男共を見る八木。

その目はどこか可哀そうなものを見るようであった。


にゃ……(対策?)


「見てりゃわかるよ」


そういって小山へと視線を向ける八木。

男共は既に小山の中ほどまで登り進んでいた。



「お湯が熱いな……」


「源泉の側ですから」


頂上から溢れ流れ落ちる湯が、時折はねて肌を刺激する。

流れる間に冷めるため温泉自体は適温であるが源泉はかなり高温であるようだ。


「そりゃそーだ……おっし、もう、ちょい」


流れる湯を踏まないよう登り、あと少しで女湯と男湯を分ける壁の縁へと手が届きそうになる。

その様子を下で見ていた加賀と八木であったが、その顔は苦り切っている。

ほぼ全裸の男共を斜め下から見上げるという行為はなかなかにきついものがある。主に視界が。

そして次の瞬間、小山の頂上が突如として噴火する。


「なぁっあっぢぃいいいいいいっ!?」


噴火といっても溶岩が噴き出た訳ではない、出たのは高温の温泉である。

大量に噴き出た温泉は男共を一気に押し流し、まるで雪崩のように裸体とお湯が斜面を流れ落ちて行く。


「あっつ!? あっつ! お湯噴き出たぞおいっ!?」


にゃー(わー)


「な、無理だべ?」


よほど熱かったのか皆、我先にと小山からわらわらと逃げ出す。


にゃ(てか、みんな真っ赤だけど大丈夫なの?)


「まじで熱湯だからなあ……」


しみじみと言う八木であるが、それを聞いた加賀は驚き思わず八木へと振り返る。


にゃ!?(それ、まずいんじゃっ!?)


「いや、ここの温泉は火傷に効くらしくてな、数分入ってりゃ治るよ」


実際に八木の言うとおり、彼らの皮膚は最初真っ赤になっていたが、徐々に普通の色へと戻っていく。

大丈夫そうであると分かり、ほっとした様子を見せる加賀。

熱湯を浴びた彼らも傷みがひくに釣れ、徐々に落ち着きを見せる。

噴火したことに対して驚きの声や、ぶーぶーと不満の声も聞こえてきたころ、一同にバシャバシャと水をかき分け近寄る男の姿があった。


「おい、こらてめえら! 何してんだっ」


「あん? ……なんだギュネイじゃへぶらぁっ!?」


額に青筋浮かべたギュネイの蹴りがヒューゴの顔面をとらえる。

てめえらと言いつつピンポイントでヒューゴを狙ったのは日頃の行いであろうか。


「俺の相棒の裸みようなんざ……死にたいらしいなあ?」


女湯にはギュネイの相棒であるソシエがいる。

なので覗きをしようとしたことに対し怒るのは当然のことだろう。

ここで、素直に謝っておけばギュネイの怒りも収まったかも知れないが――


「ざっけんな! あんな貧相な体に興味ねえよ!」


「あぁ!? 誰がロリコンだ!」


「言ってねえし!」


――火に油を注ぐのがヒューゴである。

そして乱闘がはじまった。


にゃ(喧嘩はじまった……)


「退散すっぞ、退散」


別に武器を使って争っているわけではないが、ほぼ全員が筋肉達磨であるがため周りの被害がなかなか酷い事になっている。

比喩ではなく人が飛び交い、時折離れて見ていた二人の元へも水しぶきが掛かる。

巻き込まれたらたまらないと二人はそそくさと退散する。


「まったく、せっかくの酒がまずくなるわい……」


そんな中、一人ゴートンだけは酒にしか興味ないのか持ち込んだ酒を静かに飲んでいた。

だがそこに誰かに吹っ飛ばされたヒューゴが飛んでくる。


「ぶはっ!? くっそが……あ?」


着水と同時に盛大に水しぶきをぶちまけたヒューゴ。

悪態ついて起き上がろうとしたところでふと、足首を何かに掴まれる。


「儂の酒に何してくれてんだああああっ!?」


「ちょっ、俺のせいじゃねえええええおあああああっ」


水しぶきで酒をダメにされたゴートンが怒りに任せ、ヒューゴの足を掴み思いっきりぶん投げた。

その様子はまるで石で水切りをするようであった。

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