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302話 「ダンジョンと温泉と6」

料理と酒を手に水音をたて温泉の中を進んでいく3人。

暫し進んだところで後ろを振り返ると呆れたようにため息をつく。


「てか広すぎだろこれ……泳げちゃうぞ」


「泳いでも邪魔にならんすからねえ」


ここの温泉は海岸のように砂浜が広がっており、歩いていくにつれ徐々に深くなっていく。

振り返るとそれなりの距離を歩いたこともあって岸までは結構離れている。だが、奥にはまだまだ温泉が続いている。

周りを見ればそれなりに温泉につかる者の姿が見えるが、温泉自体が広すぎるためその姿はまばらである。


「よく見りゃ皆入ってんな……あん?」


立ち止まり周りを見渡していたヒューゴであったが、腰あたりをぺちぺちと叩かれる感触に何事かと振り返る。


にゃー(上っ、上見て、上)


「上……おう、こりゃまた綺麗な星空で……確かに眺めは良いな」


叩いていたのは加賀であり、何やらしきりに上を指さし騒いでいる。

大きくまんまるとした月に、不思議な輝きを見せる星雲。空には視界いっぱいに満天の星空が広がっていた。


にゃ(ここダンジョン内……)


加賀はその光景に大層驚いたが、ヒューゴの反応は割とあっさりしたものである。


「ああ、たまにそんなダンジョンもあるんだよ。中には雨降ってたりするのもあるぜ」


にゃー(ほほー)


ダンジョン内なのに空があるというのはここ以外も存在していたらしい。

ヒューゴは探索者としてのキャリアも長く、そういったダンジョンも経験済みなのだろう。


「せっかくだし、奥の方行ってみん?」


「いっすよ」


ヒューゴの提案に乗り二人は奥へと進んで行き、その後ろに加賀が続く。


「こっから少し深くなったぞ……それにお湯の温度も上がってきたかな……って、おい加賀ちゃん!?」


「ん? ちょっ、溺れてんのかお前っ……あだだだっ、爪立てんなっての」


奥に行くに連れて少しずつ深くなっていった温泉であったが、ある箇所を境に急に深さが増したようだ。

とはいっても腰より下ぐらいの深さが腰の上になった程度ではある。だが加賀にとっては足が着かなくなるような深さであった。

差し出された八木の腕にがしっとしがみ付くとそのまま腕をよじ登る。


にゃー……(死ぬかとおもた……)


「危ねえなあ……ほれ、桶にでも入ってけ」


ぷかぷかと浮かぶ桶に加賀を入れ、そのまま奥へと進む3人。

まもなく温泉の端に着く、そんな所まで行ったところで女湯と男湯を分ける壁、そのそばに集まる男共の姿が目に入る。


「……なんかあそこに人集まってるけどよお、あれうちの連中じゃね?」


「んー? ……あー確かにそっすね。壁際で何してるんすかね」


見覚えのある壁際に集まる男共。

何人か見知らぬ者も混ざっているが、それは宿の探索者達であった。


「まあ行ってみるべ」


何をやっているのか興味をひかれた3人はひとまずその人だかりへと向かっていく。

そして向こうが3人の接近に気が付き振り返ったところでヒューゴが軽く手をあげ声をかける。


「おう、お前ら何しとんの?」


「……別に何でもありませんよ」


何をしているかと問われすっと目線を外す男共。


「いやいや、こんな集まっておいて何もないはないだろう? ほれ何やってんのかゆーてみ」


「……仕方がありませんね」


話を聞くまで離れそうにない、そう思ったのだろうか。

男共は互いに目配せをし頷きあうとヒューゴに向かい話はじめた。


「そこの壁……その先を見てご覧なさい」


「……ああ、あれ源泉か? お湯すげー流れてきてんな」


壁は温泉の奥へと続いており、最終的には小山にあたり止まっている。

その小山の頂上からは大量のお湯が流れ落ち、そこが源泉となっていることが分かる。


「ええ、あの小山の頂上付近……壁が途切れているでしょう?」


「そうだな」


だが壁は小山の頂上の手前までしかない、お湯が噴き出ている付近には壁はない。

アルヴィンは頂上を指さし、言葉を続ける。


「あそこから隣を覗けるんじゃないかと話し合って――」


「バカだろお前ら」


珍しく真顔で突っ込むヒューゴであった。

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