293話 「そう言えばそんな時期7」
軽い足取りで八木へと近付く加賀。
商品を整列していて背後から近付く加賀に気が付いてない八木へと声をかける。
「八木~? 何してるん?」
「……おう、加賀か」
少し驚いた様子で振り返る八木。
声の主が加賀であると分かり手を上げ軽く応える。
「見ての通りだ。皿売ってんだよ」
そう言って整列中の商品を指さし加賀へ見せる八木。
ひょいと八木の体を避け、背後に隠れた商品を覗き込んだ加賀であるが、そこに置いてあったのは八木の言うとおり大量の木製の皿であった。
「何でまた皿を……ってやっす」
何故皿なのかと半目で皿を見ていた加賀であったが、皿の前に置かれた値札を見て目を見開き驚きの声を上げた。
「だろ? でも物はそこまで悪くなかったりするぞ」
「……値段を考えれば確かに」
値段で言うと2枚セットで100リアとこの辺りの相場を考えれば非常に安い。
その上もの自体も八木の言うとおりそこまで悪い物ではなかった。幾分木製にしては薄いと感じるが割れていたりとか言った事も無く、形も全て綺麗に揃っている様だ。
「ねー八木っち。このお皿どーしたの?」
「余った建材とか、切れっ端使って作ったんすよ」
皿を手に取り物珍しそうに眺めていたシェイラが八木に問いかける。
「ほあっ、まさかの八木っち作」
「まあ、俺だけで作った訳じゃねーんですけどね」
皿はどうやら八木を含めたギルド員達が作った物である様だ。
よく見れば店には八木以外にも見慣れたモヒカンの姿がちらほらとある。売り子はエルザであった。
「皆で作ったのねー……八木はその模様部分やったのかな?」
「まあな」
「そういや趣味で色々やってたもんねえ」
綺麗な寄木細工模様の部分は八木が担当した部分であるらしい。
「でもお皿なんて売れるものなのー?」
祭りで皿などの日用品を販売している所はほぼ無い。
やはり祭りと言うことで酒や食べ物、それに物珍しい物を売っている所。それに射的などの普段出来ない遊び等を提供している所がほとんどであり、シェイラの疑問ももっともだろう。
「意外と売れるんすわ。つってもメインで買ってくのは周りで店出してる人らなんすが……店で料理提供する際に使ったりするみたいですね、使って皿は回収するか最悪使い捨てで……後は珍しい見た目の皿ではあるんで、自分で使うように買う人がちらほら?」
食べ物を提供している所には取り皿がないとどうにも食べにくい物や、多少高級な物を扱っている所がある。
2枚セットで100リアとお手頃価格なこの皿は一応需用があるらしい。
「へー……この値段じゃ赤字ならない? 大丈夫?」
「いや大丈夫。ちゃんと人件費込みでも黒字なるよ……ちょっと耳貸せ」
「む……」
赤字になるんじゃないかと心配する加賀に八木がこっそり耳打ちした内容、それはこの皿は薄板をプレスして大量生産出来るといった内容であった。
仮に一枚一枚削り出していたのでは間違いなく赤字になるだろう。加賀も八木の言葉を聞いて納得した様子を見せる。
「んー、自分用に買うかなー……」
「あ、じゃあ……これ、自分用に買う人にお勧めしてる奴です。こっちのが丈夫で長持ちしまっせ、その分少し値段高いですけど」
そう言って八木が手にしたのはシェイラが見ている皿と比べると大分肉厚なものであった。
それに寄木細工模様も一部だけでは無く全体に掛かっている。
「あ、良いじゃん買うよー」
値段は一気に跳ね上がったが即決で買う事を決めるシェイラ。
宿で自分専用の食器にするつもりなのだろう、ニコニコと機嫌良さそうに笑みを浮かべている。
「ありがとうございます。 この後まだ祭り見て回るんすよね? それなら宿で渡しましょうか?」
「あ、それが良いなー。お願いして良い?」
「了解っす」
その後、加賀も自分用と宿の皆に……は値段的に厳しかったので、とりあえず従業員分の食器を購入する。
雑談している内に客が来たので二人は再び祭りを見て回ろうと、店を後にする。
「そんじゃー、祭り見てくるけど八木はしばらくこのまま?」
「んだね、夕方には店仕舞いするから、そしたら俺も祭り参加するつもり」
「おっけ、そんじゃまた後でねー」
手を振り店を離れた二人。
まだまだ見ていない店はたくさんある。が、シェイラの視線は主に食べ物を扱う店と注がれていた。
「次は何食べよっかなー」
「もうお腹に空きができたの……?」
「歩いてたらねー。 加賀っちは何か食べたいのないのー?」
シェイラはまだまだ食う気の様だが加賀はそうでもなかった。シェイラの言葉を聞いてぎょっとした表情を浮かべていた。
「お腹がまだ空いてない……それに夜はアイネさんが何か仕込んでた見たいだから、控えめにしておこうかなーなんて」
「えっまじ!? 早く言ってよもーっ」
腕をぱたぱたと振って抗議するシェイラ。
宿の夕食は出ないと思っていたから遠慮せず食っていたのであって、出ると知っていればもっと加減して食べていたのだろ。
「んじゃ、別の行こっか。……あ、くじ引こうよーくじ」
「くじ引きもあるんだー……」
祭りと言えばクジは付き物だろうか。道ばたに豪華景品当たります!とでかでかと書かれた看板が置かれていた。
この手のは早々当たる物では無いと分かってはいるが、やはり引いてみたくなる物である。一瞬躊躇う素振りを見せた加賀であったが、すぐにシェイラの後をついていくのであった。
「加賀っちさ、運良すぎじゃない」
「あはは……」
むーっと頬を膨らませるシェイラと苦笑いといった様子の加賀。
加賀の両腕にはくじで当たった様々な景品が抱えられていた。
まず当たらないと思っていたくじだが2等や3等など割と良い物が当たりまくったのだ。
「いや、まさかこんな当たるなん……って!?」
加賀は自分しても予想外、そう言おうとシェイラに向け言葉を続けていたが、ふいに加賀の視界を覆うように巨大な陰が現れる。




