292話 「そう言えばそんな時期6」
「そこのお嬢さん?達。どうだい、買っていかないかい? この街で……うち自慢のソーセージだよ」
加賀とシェイラを見て声をかける店の店主。
さすがにバクスの店がああなっている状態で街一番と言う気にはならない様だ。
「なんで疑問符つけたし」
「まあまあ、シェイラはどっちかと言うとお姉さんだし?……とりあえず2本くださいな」
お嬢さんに疑問符をつけた事に抗議するように拳を構えるシェイラを宥め、加賀はソーセージを2本購入し空いている席を求めて歩き出す。
「あそこ空いてるねー」
さすがに昼過ぎで人が増えてくる時間帯且つ、街の中央付近となると空いている席も中々の見つからない。
加賀はあちこち歩き回るとようやく空いている席を見つけ、振り返りながらシェイラに声をかけた。
「……にひひ」
「? ほりゃ、行くよー」
振り返った先で何故かにまにまと笑みを浮かべるシェイラ。
お姉さんと言われたのが嬉しかった様だ。
そんなシェイラを不思議そうに眺めていた加賀であったが、すぐに我に返るとシェイラの背を押して席へとむかう。人がこれだけ多いのだ、いつ席が埋まってもおかしくは無い。
「ほい、シェイラの分」
「おー、ありがとー」
買ったソーセージを分け、少しの間眺めていた二人だがやがてどちらからともなく食べ始めた。
「……」
「……んー」
口に入れて一口二口、そして二人揃って首を傾げる。
「味は普通? 後はなんか香辛料効いてるけど……これ何?」
「不味くはないけど何か余計な香りが……」
恐らく味自体は不味くは無いのだろう、ただ薫香の他に変わった香りがする様で二人にはそれが邪魔だと感じ多らしい。
「なんだろねーこれ」
「まあこりゃーバクスさんの店がああなる訳よね」
「めっちゃ気合い入ってたしねー」
すぐ近くで同じ物を売っているバクスの店があの人集りなのだ、その香りは二人以外にとっても好評とは言えない様だ。
「ごちそーさま」
「ぷう」
とは言っても、バクスのが美味しいとは思っても今食べている物も好みでは無いだけでそこまで不味いと言う訳ではない、二人は少しだけ時間を掛けてソーセージを食べきっていた。
「次はバクスさんの店行きたいけどー……しゃーない、並ぶかっ」
「おー」
食べ終えてもバクスの店は相変わらず混んだままだ、むしろ先程よりも人が増えてすらある。
だがここまで来て食べないと言う選択肢は二人には無かった。
ゴミを片付けると二人は列の最後尾へと並んで行く。
「回転早いね、これならすぐ買えそう」
「お腹空いてきちゃった……」
何かしらの方法でソーセージ一気に焼いているのだろう。
客の回転は早く、二人は思ったよりも早く列の前側まで来ていた。
近付くに連れ香ばしい香りが強くなり、シェイラの食欲をそそる。
「えっ、さっき結構食べた……よね」
「甘い物は別腹って言うし?」
先程の店ではソーセージを1本食べただけだが、その前にシェイラはオージアスの店でかなりの量の菓子パンを食べていたはず。
そう思い確かめるように話す加賀であったが、シェイラはいやいやーと軽く手を振りそう言ってのけた。
「別腹って先に埋まるものだっけ……」
「細かい事は気にしないのーっ」
「命、シェイラさんいらっしゃい」
咲耶は列に並ぶ二人の姿に気は付いていた様だ。
二人が顔を出しても驚くこと無く出迎える。
「順調そうだねー」
「ええ」
加賀の言葉にニコリと笑みを浮かべる咲耶。
それを見て周りの客が少しざわつく。加賀と同じく咲耶も容姿はかなり整っている、十分集客効果はあるようだ。
「ここだけ人集りすごいもんね。……ねね、加賀っちソーセージ3種類もあるよっ」
「あ。ほんとだー」
目を輝かせてぱたぱたと手を振るシェイラ。
バクスは普段宿で出している物も含めて3種類用意していた。
プレーンとハーブ、それにチョリソーの様な辛みのあるタイプがあるようだ。
「後がつかえてるし、……あ、一人前までなのね……とりあえず3種2本ずつくださいなー」
「はいはい、ちょっと待ってねえ」
列は二人の後ろにも大分伸びていた。
あまり喋りこんでも迷惑だろうと加賀は注文を済ませてしまう。
もっと本数を買ってもよかったが、買い占め防止の為だろうか、一度に購入出来る数が限定されていた。
「……あの機械今日のために用意したのかなー」
「多分そうじゃない? 普段見たことないよねー」
注文を受けてお皿にソーセージを並べ、皿の端にケチャップとマスタードを添える咲耶。
その様子を覗き込むように見ていたかに見えた加賀であったが、その視線は店の奥で必死にソーセージを焼きまくるバクス、その手元へと注がれていた。
棒状のローラーがいくつも並び、自動で回転している。
ソーセージをローラーの間に並べる事で自分で転がさなくとも大丈夫な様にしてある様だ。
それにより一度に大量に焼いてもうっかり焦げたり皮が弾けたりと言ったことが避けられる。
今日のためにバクスがゴートンに特注した品である。
「はい、熱いからきをつけてね」
「ありがと、バクスさんもがんばってねー」
「む……おうよ」
ソーセージを受け取りバクスに一言声を掛け屋台から離れる二人。
バクスはその声で二人が来ていたことに気が付いた様で軽く手を上げ応えると再び作業へと戻っていった。
「んじゃ……」
意外にもバクスの屋台の側には空席がいくつか残っていた。
どうも食い終わった側から再び列に並ぶ人が結構居るらしく、そのお陰で空席がちらほらあるのだ。
「んー! んんー!!」
「……焼き立て美味しいねえ」
焼き立てを思いっきり頬張ったシェイラはその熱さと旨さから目を白黒させている。
それを見ていた加賀は少なめにソーセージを頬張るとじっくりと味わうように噛み締める。
「……何時もよりお肉自体が美味しい?」
バクスが作るソーセージは美味しい。それは加賀もよく知る所であったが、その日食べたソーセージは何時もより明らかに味が上であった。
これは気合いを入れたバクスが肉屋のハンズに頼み込み、きっちり熟成させたお肉を使用していた為だ。
「……もう食べちゃった」
「はやっ」
そんな感じで1本目を味わって食べていた加賀に対し、シェイラは勢いのままに3本食い切っていた。
そして3本でシェイラが満足できる訳もなく再び列へと並ぶシェイラの姿があった。
「少し食べ過ぎたかも……」
「5回も並ぶから……」
苦しげにお腹を抑えるシェイラの背中をさする加賀。
焼き立てのソーセージは美味しく、シェイラは結局5回も列に並んでいたのだ。
「……あれ、八木?」
腹ごなしも兼ねてゆっくりと祭りを見て回っていた二人であったが、ふと加賀が目を向けた先で屋台でモヒカンズと共に何かを売る八木の姿があった。




