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290話 「そう言えばそんな時期4」

再び弓を構え狙いを定めるアルヴィン。


「ほれ、何時までも構えてないで……あ、加賀ちゃん見てるから緊張して――」


「ふっ」


集中を高めるアルヴィンの横から煽るヒューゴであったが、完全に聞き流していたアルヴィンは不意に矢を放った。


「――んだよ、あっさり当てやがって。ったく可愛げのねーエルフだなおい」


矢は見事に的のど真ん中を捉えていた。

全身でどや顔をアピールするアルヴィンを見て悪態をつくヒューゴ。


「お見事! まさか全部当てるとはねえ……ほら、賞品は好きなの1個持ってっておくれ」


そう言って店主は賞品の置かれた棚を指さした。


「え、全部……? あ、なるほど。もう何回かやった後だったのね」


どうやら加賀達が来るより前から的当てはやっていたらしい。

棚には明らかに安物っぽいのから如何にも高そうな賞品が並んでいた。当然ではあるが、当てた回数が少なければ賞品は安物からしか選べ無いのだろう。


「そう言うことです……さて、どうしますかね。実は何か欲しい物があった訳では無いのですよ……」


「なんでやったし」


実は欲しい物が無い、そんな事を言い出したアルヴィンに対し思わず素で突っ込みを入れるシェイラ。

アルヴィンは半目でヒューゴの方を見ると言葉を続けた。


「……あれが五月蠅かったので……ああ、ではこうしましょう。加賀、好きなの選んで良いですよ」


「うぇっ!?」


いきなり名を呼ばれた加賀は思わず後ずさってしまう。


「どれが欲しいと言うことは無いので、そう身構える事は無いですよ」


そうアルヴィンに言われても戸惑ってしまう加賀であったが、左右を見ればヒューゴもシェイラも賛成の様でウンウンと頷いている。

その様子を見て、自分が選んでも良いと分かった加賀はじっくりと賞品を眺めだした。


「んん……あ、じゃあこれ!」


「……そうきましたか」


「加賀っちそれ……」


少しの間賞品を眺めていた加賀だが、やがて一つに絞ったらしくある賞品指さし、皆へと選んだ事を伝えた。

だが、周りの皆は加賀がそれを選ぶとは思っていなかったらしく、意外そうな顔をしていた。


「へへ~、すっごいでかいゆで卵出来そうだね」


「それ食い物じゃないカラネッ!?」


ヒューゴの叫びがあたりに響いた。

彼我が選んだのは一抱えほどもある巨大な卵であったが、どうも食材では無かった様だ。



「……育てると騎乗できる生物になると、なんだ食べ物じゃないのね」


がっかりした様子で卵を元の位置に戻す加賀。

きっとラヴィも大満足なゆで卵になりそうではあったが、さすがに食べるのは諦めた様だ。


「確かに食い応えありそうだけどねー。 んじゃ、加賀っちこれは? そろそろ髪留め傷んできてるし」


「ん……良いのかな?」


シェイラが加賀に差し出したのはかなり繊細な装飾が施された髪飾りであった。

しばらく使っていた加賀の髪留めは所々傷みが出ており、それにシェイラは気が付いていたらしい。


「良いよ良いよ、それにしなー」


「わー、ありがと~」


一応男としてはどうかとは思うが、髪飾りを受け取った加賀は素直に喜んでいる。

それを見て満足いくしたのかヒューゴとアルヴィンは荷物を持つとどこかに行こうとする。


「んじゃまたな~」


「ん?」


手を振って移動しようとする二人を見て首を傾げるくりっと傾げる加賀。

てっきりこのまま一緒に祭りを見に行く流れかと思ってたのだ。


「向こうで集まって酒飲むんだけど……加賀ちゃんは行かないだろ?」


だが二人は先約があったらしい。

飲みの場と聞いて加賀はヒューゴの問いかけに思いっきり首を振る。


「まあ、そう言うわけだ。また後で合流しようぜー」


「おー」


祭りはまだ始まったばかりである。

祭りをみて廻っていればその内再び会えるだろう。

二人と分かれた加賀とシェイラは再び祭りをみて回るべく歩き出しだ。



「シェイラはお酒いいの?」


「やー、私は昼間っから飲むのはちょとねえ」


「なるほどん」


シェイラはお酒が嫌いではないが昼間から飲む気はない様だ。

今は酒よりも食べ物……それも甘味が欲しいと言ったところだろうか。

二人がそんな会話をしているとシェイラが不意に立ち止まり、ひくひくと鼻を動かす。


「……甘い匂いする」


「ほへ? ……言われてみればそう、かも?」


様々な食べ物の匂いが混ざり合う中、シェイラの鼻が甘い匂いを捉えていた。


「あっちかなー」


「あ、オージアスさんのお店だ」


匂いに釣られてフラフラと歩いて行くシェイラ。

加賀は後を追って行く。

そして少し歩いたところで噴水の側に店を構えるオージアスを発見した。


「割と空いてる……と言うかお客さんが……」


だが街の中央という絶好の場所にも関わらずお店はがら空きであった。

回りの店は繁盛している事からオージアスの店だけ客が来ていない事になる。

一体どうしたのだろうかと二人は殺人鬼スマイル浮かべるオージアスへと近付いて行った。

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