289話 「そう言えばそんな時期3」
カラリと晴れた秋晴れの空の下、ぼーっと空を見上げる加賀の姿があった。
「まだ午前中なのにねえ」
うー(あといっぽーん)
収穫祭でスペアリブを出すことにした加賀であったが、やはり数を用意するのは大変と言うことで少なめに用意し開店する事にした。
そして開店すると同時に開くのを待っていた宿の皆が殺到しスペアリブの半分以上を食べてしまったのである。
その後はスペアリブにかぶりつく姿に惹かれて次々に客がやって来た為、開店して2時間足らずでほとんどの商品を売り切ってしまったのだ。
「……食べちゃおっか?」
うー(ひょー)
たまたま客が途切れ、手元には1本のスペアリブが丸ごと残っている。
物欲しそうに見詰めるうーちゃんの視線に負けた加賀は看板をしまい、スペアリブを出刃包丁で叩き切る様に切り分けていく。
1本が加賀に腕ほどのあるスペアリブは切り分けて丁度良いボリュームとなるのだ。
「加賀っち~。まだお肉残って……る……?」
そこに酒瓶を片手にシェイラがやってきて、加賀に声を掛ける。
開店と同時にきっちり食ってはいたが再び食べたくなったのだろう、だが彼女の視界に入ったのは商品が無くなった屋台と、裏でこそこそとスペアリブに齧り付く二人の姿。
「あと1個あるよん。ほい」
「あ、ありがとー」
しょんぼりした表情を浮かべたシェイラにまだ手を付けていないスペアリブを渡す加賀。
受け取ったシェイラはニコニコ顔で椅子に腰掛けた。
「てっかもう売り切れたんだ? 早いねえ」
「宿の皆が半分ぐらい買っていったからねー……んし。それじゃ屋台片付けちゃうかー」
早々にスペアリブを平らげた3人。
加賀は皆が食べ終わったのを確認すると椅子から立ち上がりぐぐっと伸びをする。
「1時間もあれば終わるんで、そしたら祭り見て廻りましょい」
「りょーかい! それぐらいに宿に戻るねー!」
祭りを見て回るのは屋台を片付けてからにする様だ。
酒瓶を振りどこかに駆けていったシェイラが見えなくなったのを見て、加賀は片付けを始めるのであった。
「ふぃ……洗い物終わりっと」
ぐい、と額に浮かんだ汗を拭う。
屋台は片付け終わり、洗い物も終えた加賀は前掛けを外し、厨房から食堂へと足を踏み入れる。
「うーちゃんはー……居た、けどお昼寝中と」
食堂にはソファーの上で爆睡するうーちゃんがいた。
加賀が洗い物をしている間にねこけていた様だ。
「アイネさんどーします?」
再び厨房へと顔を覗かせた加賀は、奥で何やら作業をしているアイネへと声を掛ける。
「……どうしようね? 夜もお祭りに行ったままになるのなら私も行こうと思うけど……」
「聞いてみましょかねー」
作業がまだ時間が掛かるらしく、夜なら参加すると言うアイネ。
そろそろシェイラも来る時間であり、とりあえず夜はどうするのかと聞くことにする。
「夜? もっちろん夜も参加するよー! ってか夜が本番じゃん!」
宿に戻ってきたシェイラに早速尋ねた加賀であったが、答えは勿論夜も参加するとの事。
「そう……それなら夕方以降参加しようかな……それまでに仕上げておくから」
「ん、了解でっす」
アイネの参加は夕方以降となる様だ。
「んじゃ、大通りから噴水の辺りまで行こうかねー。あ、途中で気になるお店あったら寄っていこうね」
「おー」
見送りに玄関まで来たアイネに手を振り大通りへと出た二人。
出店が多いのは街の中心部であり、ひとまずそこを目指して進んでいく。
「改めてみると食べ物以外のお店も結構あるねえ」
「そりゃそーじゃん。何か気になるのあった? 寄ってみるよー」
街の中心に近付くとちらほらと出店が目につくようになる。
それらは食べ物だけを扱っているわけでは無く、中には加賀が過去に体験した祭りを思い起こす様な店もある。
「んー……あれ? あの的に当てるやつ何か見たことある人が」
シェイラの言葉にキョロキョロと辺りを見渡していた加賀であったが、あるお店を見て首を傾げる。
「んー? ……何だ、アルヴィンとヒューゴじゃん」
見慣れた人物がいると思えば、アルヴィンとヒューゴの二人であった。
たまに喧嘩する二人であるが、ちょくちょく連んで居たりする。
「アルヴィンさん弓も得意何だっけ。何か良い景品あったのかな」
「やー、ヒューゴのあの顔見る限り違うと思うよー」
「……むっちゃニヤニヤしてるっ」
アルヴィンは手に弓を持っていた。
それを横でヒューゴが見ているのだが、その顔はとても楽しそうである。
「何してんの二人とも」
ちょっと呆れた視線で二人を見るシェイラ。
二人の接近に気が付いたヒューゴが手を上げ応える。アルヴィンは弓を構える事に集中しているのか反応は見せない。
「おう、シェイラに加賀ちゃん……てことはもう全部売り切れかよ、まじか」
「売り切れだよー」
「最初に食っておいて正解だったな……ああ」
後でもう一度食おうと思っていたのだろう、スペアリブが全て売り切れたと知ってヒューゴはがっくりと肩を落とす。
そしてああと呟くとアルヴィンの方を向き言葉を続ける。
「この糞エルフ様が御自慢の弓の腕を披露してくれるそーで、私め感謝感激あぶふっ」
からかうような口調で話すヒューゴの顔面ににアルヴィンの拳が突き刺さる。
「気が散るので黙っててください」
「て、てめー……グーでやりやがったな」
「これ、的に当てると景品貰えるのかな?」
「ん? そこに並んでるのがそうだよ……お嬢ちゃんにはちょっとばかし難易度高いかなあ」
お互いガン付け合う二人をスルーし店について話す加賀。
それに反応した店主であるが、加賀の姿をざっと見て申し訳なさそうに加賀には出来そうにないと告げる。
「んー? ……的遠くないっ!?」
どういう事だろうと、アルヴィンが先程まで狙っていた方へ視線を向け、驚く加賀。
そこには的らしき板が立てられていたが、加賀が知っている的当てと比べるとどうにも距離が遠すぎた。
「あれぐらいじゃないと景品皆持ってかれちまうからなあ」
「あ、そか弓扱える人が多いのね」
ダンジョンのある街と言うことで、現在街には弓を扱える人物が割と居たりする。
的が近ければ景品はあっさり持って行かれてしまう。なのでこの店では的が大分遠目にしてあるのだ。




