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28話 「森の中」

街から森へ向かう一本道を一両の馬車が通って行く。

御者台には一見小人と見違えてしまうような小柄な少女と小さなおっさん…ではなく、加賀とバクスが乗っている。

馬も車両も大きいため、人との対比がおかしくなっているのだ。

時折すれ違う馬車もある程度近づいてから驚いたように道端に寄っていく。


「すごいなー、本当に一頭で牽けちゃうなんて」


「ふふ、このぐらいならまだまだ大丈夫よ?むしろ軽すぎて……この倍ぐらいが丁度良いかしらねぇ」


馬車の御者台の上、その手綱を握っているのは加賀だ。

馬車に乗ったのは勿論馬の手綱を握ったことなどない加賀は最初はかなり緊張していた。

だがすぐに慣れたのだろう今では会話を挟みつつ鼻歌交じりで手綱を握っている。


「この倍?荷物いっぱい積めちゃうねー」


「森に行くってことは採取に行くのでしょう?楽しみにしてますね」


「……加賀」


「ほい?」


楽し気に手綱を握る加賀、そんな加賀を見るバクスの顔はまるで奇妙なものを目にしたような表情をしている。


「な、なんでしょー…?」


「さっきから何と話してるんだ…? 正直ちょっと怖いんだが…」


「え、何って…馬ですけど」


さも当然のように言う加賀の言葉に苦虫を噛み潰したように顔をしかめるバクス。

そしてふいに何かを思い出したかのようにああ、と呟く。


「そうか神の落とし子だったな…他の人の目があるところでは話さないようにな」


神の落とし子とばれて面倒なことになる、ばれなくてもあれな子だと思われるというバクスの言葉を聞いて加賀は頭を上下にはげしく振るのであった。


馬車で揺られること数十分、一行はバクスと出会った街道付近へと着いていた。


「たしかこのへんだと思ったんだがな……」


「んー? あれじゃないですかーバクスさん」


そう言って加賀が指さす先には森の中へと続く一本の横道があった。

それなりに人が通っているのか道は地面がむき出しとなっており、草が生い茂っているということは無いようだ。


「お、あったあった。よし、じゃあそっちの道はいってくれ」


「はーい、じゃあアンジェそっちの道に入ってー」


加賀の言葉に軽く嘶くとアンジェは横道へと馬車を牽いていく。

ちなみにアンジュとは馬の名で、命名したのはバクスの元PTメンバーとのこと。


かぽかぽとリズムよくなる馬の蹄の音、ときおり聞こえる鳥のさえずり。

まだ夏と呼べる時期だが、早朝でありほどよい気温と日差し。

手綱をもつ加賀がついうとうとしてしまうのも仕方のないことだろう。


「着いたわよ」


「んっ……ごめん、ねちゃってた」


アンジェの声……というか嘶きに起こされる加賀。

袖で顔をこするとあたりを見渡す。


「わーリンゴいっぱいだー」


馬車がとまった場所、それはあたり一面にリンゴの木が生い茂る場所であった。

加賀の言葉にそうだろうそうだろうと頷きながら籠を用意するバクス。籠を一つ加賀に渡すと口をひらく。


「それじゃ、リンゴ集めるとするか。とりあえずその籠一杯になるまで集めてくれ。……あぁ、集めるときはアンジェから離れないようにな? アンジェ、馬具を外すから加賀についてやっててくれ」


「アンジェ、悪いけどお願いしてもいいー?」


バクスと加賀の言葉にアンジェは機嫌よさげに嘶くと、籠をくわえ加賀の後をついていくのであった。




「大量、大量~」


次々とリンゴをもいでは籠に放り込んでいく加賀、その籠は30分ほどで満杯になりつつあった。


「本当いっぱいねえ、馬車いっぱいに積み込みたいわあ」


「いあいあ、そんないっぱいあっても困っちゃうから……って、そのたてがみすごいね」


「あら、そう?」


加賀の後をついてきたアンジェだが、ただ見守るだけではなく自らのたてがみを触手のように操るとリンゴへと伸ばしていく。

たてがみはかなり精細に扱えるようでリンゴを傷つけることなくもぐと、次々にと籠へ放り込んでいく。


「ん、もういっぱいだね。そろそろいいかなー?」


「そっちも終わったか。それじゃちと早いが昼飯にしちまうか」


アンジェと加賀の籠が満杯になったところでバクスから声がかかる。

帰ってからお昼にするには時間が微妙になりそう、と言うことで今日はお弁当を持ってきていたのだ。

もちろん図面を書きつつお留守番している八木にもお弁当を置いてきてある。


「それじゃーどこがいっかなー? ……あれ」


「どうした?」


今朝がんばって拵えたお弁当を抱えつつ、どこか食べるのに良い場所を探す加賀であるが、その視界に不意に見覚えのあるものをとらえる。


「……うーちゃん?」


木の根にうずくまり動かない、ちいさく真っ白な生き物。

それは初日に出会い、リンゴを渡して別れたうーちゃんであった。


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