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286話 「収穫の時期3」

だが中には得体の知れない食べ物だろうが躊躇しない者も居た、


うー(いけるど)


「うむ、いけるのである」


もし仮に毒物だったとしても自分達には関係無い、そう言わんばかりに平気な面でサンドイッチの実を口にするうーちゃんとドラゴン。

他の者も彼らの反応を見て取りあえず食えそうではあると理解した様だ。


「あ、いけるらしいよ……んっ……パンだ!」


「……まじだ!」


「うわあ本当にパンだ……どーなってんのこれぇっ!?」


恐る恐るサンドイッチの実を口にした者達の反応は皆同じであった、かじって、首を捻って、目を見開いて、声を上げる。

少し違和感はあるが知らない者……いや知っている者が食べたとしてもパンとしか思えない程にパンであった。


「……よく見るとパンと具材がくっついているのであるな。……パンや野菜部分はともかく、木に成ったものにハムがあるのは……いやはや神の落とし子のやる事は面白いのである」


「えっと、次は~……あった。うーちゃんちょっと上まで運んで貰ってもいいー?」


うー(あいあい)


もぐもぐとサンドイッチを食べる皆の様子と残りの量を確認した加賀はうーちゃんに声を掛けると次の木へと向かう。

サンドイッチはそれなりに量はある。だがそう長くない時間で食べきってしまうのは見て明らかであった。


「それもそうなのか? そのまま食えそうには見えないけど……」


加賀とうーちゃんが採ってきた実を見て感想を口にする八木。

実はラグビーボールと似た形状と大きさで、底に当たる部分が平らなのと、実に溝が有りぱっと見は蓋の様に見えなくもない。


「こっちはねー汁気多い奴だね。湯煎してからパカッと開いて食べるんだってー」


鍋に平らな面を下にして実を並べていく加賀。

並べ終えた所で精霊にお願いし熱湯をいれ、火に掛ける。


「ほー……んで中身は何なん?」


「分かんにゃい」


「えぇ……」


「見た目じゃ分かんないんだよねー、それに秘密にしておいた方が開けるときの楽しみが増えるじゃない?」


植えた料理から考えればいくつか候補を絞る事は出来るが、それだけでは見た目上どうしても中身を知ることは出来ない。

中身が分からない方が楽しみが増える、それは八木も同意するところであった。


「そろそろかなー?」


「んー……ここか?」


「すげ……ハンバーグか」


湯煎した実を厚手の布を使って手に取る八木。

さすがに素手では熱すぎたらしい。

こつこつと蓋と器部分の溝を突いてスプーンを差し入れ、ぐりっと捻り上げる。

それだけで実はパカリと二つに分かれ中から湯気と共に美味しそうな香りが辺りに漂う。


「これ、本当に木の実なんですよね……チーズまで入っているのですけど」


ハンバーグを二つに割り中身を見て少し眉をひそめるエルザ。

割れたハンバーグからはトロリとチーズが流れ出ていた。


「木の実なんだよなあ……さすがに完全再現って訳じゃないか。何かレトルトぽいな」


頭上の木を見上げ、次いで手元のハンバーグを見てため息交じりに呟く八木。どう見ても木の実とは思えないが木に成っていたそれを採って温める、その過程を見ているのでそれが木の実であると納得するしかない。

ハンバーグを口にしておやっと表情を変える八木。神の落とし子が残していったものでも加賀の料理を完全再現とまでは行かなかった様である。


「完璧に同じだとちょっと凹む」


「まあ、そうだよな」


食べ物が成る木と聞いて興味をひかれたので実際に植えて食べてみる事としたが、加賀としては料理を作る者としては自分が作った物を簡単にコピーして量産されると言うのには少し思うところもあったらしい。

その辺りの気持ちは八木もよく分かる事であり、ウンウンと相槌を打つ。


「あー!」


不意に大きな声がどこかから聞こえてくる。

ハンバーグを平らげ、ふらふらと辺りを散策していたシェイラが別の食べ物の成る木を見つけたのだ。

彼女が指さす木には確かに食べ物らしき物が実っているのが遠目からでも確認できる。


「見て見て、あれ! ケーキだよっ!?」


木の枝からぶら下がるのは様々な種類のケーキ達だ。

サンドイッチと比べて柔らかいためだろう、ヘタで繋がるのではなく、ネット状の物でくるまれるようになっている。


「ここが天国かっ……」


大量のケーキに囲まれ恍惚とした表情を浮かべ、そんな事を口走るシェイラ。


「ったく大袈裟なやっちゃな。また太るぞ」


「はい、次の木のやつ」


そんなシェイラを呆れた様子で見るヒューゴ。

加賀から新しい実を受け取るとスプーンでこつこつと突き始める。


「ケーキが好きってのは分かるけどカレーだっ!?」


蓋が開いた瞬間叫ぶヒューゴ。

まだ中身は見えていないがその香りを嗅いだだけで反射的に叫んでいたのだ。


「何っ、本当か!?」


「おぉ……確かにカレーだ……まさかこれが全て?」


その声と香りに釣られてワラワラと男共がヒューゴの回りに集まり始める。

そして木の実の中身がカレーである事を確認し、頭上に成る大量の木の実を見上げ、


「ここが天国か……」


どこかで聞いたセリフを口にするのであった。

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