281話 「縄張り争い3」
とにかく今は助けることを優先すべきと、救助に向かうメンバー……アイネとうーちゃんの二人は早速現場へ向かうべく支度を始めていた。
「加賀も行くの?」
支度が終わり玄関から宿の外に出たアイネとうーちゃん。
そして二人を追って加賀も宿の外へと出ていた。
「通訳たぶん必要でしょー? あ、アイネさんからは絶対離れないからっ」
ただ助けて終わりとなれば良いが、話し合いが必要になる可能性もある。
アイネも自分から離れないのであれば大丈夫かと思いコクリと頷く。
うー(いくどー)
「わぷっ」
出発しようとしているうーちゃんに近寄った加賀をアイネがひょいと抱きかかえる。
「落ちないように掴まってて……ん、いいよ」
うー(ごー)
そして空いた手でうーちゃんの肩に掴まり、合図を出す。
合図を受けたうーちゃんは地面を、空を蹴りすっ飛んでいく。
加賀の体にぐっとGが掛かるが、一応加減はしてくれているらしく耐えきれない程ではない。
そのまま加速を続け、今度は減速によるGが加賀に掛かる。
時間にして1分も掛からず3人は汽水湖へと到着していた。
「も、もうついたの……」
アイネの腕から解放されよろよろと地面を歩く加賀。
こんなに早く着くのなら留守番でも良かったかなと思わなくも無いが着いてきてしまったものは仕方が無い。
辺りを見渡しドラゴンの姿を探し始める。
「……まだ無事のようね」
アイネの言葉に視線を向ける加賀。
ドラゴンは1対2と言いう不利な状況でも未だ健在であった。
(随分と若い個体だな……)
空を飛ぶ2匹の竜と対峙しながらそんなことを考えるドラゴン。
始めは1対2と絶望的な状況でそんな考える余裕など無かったが、戦っているにつれ対峙している竜がかなり若い個体であると分かってきた。
(独り立ちしてすぐ番となり子育てをする安定した環境が欲しい、といった所か……確かにここは外敵も居なく、食糧も豊富。中央の島を住処とすれば子育てするには持って来いの環境だろう)
ブレスも貧弱、空を飛ぶのも安定感が無い。
力も弱く鱗も柔い、それにスタミナもそこまで無い様だ。
不利だった状況は徐々にドラゴンの優勢へと変わっていった。
(だが、ここは我が輩も気に入っているのでな……そう易々とは――)
「あ、ドラゴンさんこっち気が付いたね」
ドラゴンが加賀達の存在に気が付いた様だ。
一瞬ビクリと身を竦ませた為、その瞬間を攻撃され慌てて回避している。
「……残りの2匹も気が付いた様ね」
ドラゴンの様子がおかしかった事に2匹の気が付いた様で、その原因である加賀達へ時折チラチラと視線を向ける様になる。
「……んー。ドラゴンさんが優勢?」
「そうね」
「1対2なのに……ドラゴンさん強かったんだ」
始めは状況次第ではすぐさま助けに入るつもりであったアイネとうーちゃんであるが、思っていたよりもドラゴンが余裕をもって戦えているのを見てその戦闘を見守るだけにしている。
「うーちゃんが暇そうだ……」
うーちゃんは張り切って来た分反動がでかかった様で、今は地面に仰向けに寝そべりお腹をポリポリとかいている。
「張り切って来たのにね……!」
寝そべるうーちゃんを見て少し笑みを浮かべていたアイネであったが急に険しい表情を浮かべたかと思うと上空を睨みつける。
「ふっ!?」
アイネに釣られて上空へと視線を向けた加賀の口から声が漏れる。
暢気に会話している加賀達が気に障ったのだろうか、上空では加賀達へ方向きブレスを吐こうとしている飛竜の姿があった。
うっ(てい)
だがうーちゃんが居る状態でブレスを吐ける訳もなく。
いつの間にか背後に回っていたうーちゃんが尻尾を掴むと、そのまま地面へと向かい振り下ろす。
勢いに負けて千切れた尻尾を残して飛竜は地面へと勢い良く叩きつけられた。
そして残りの1匹もすぐに同じ運命を辿る事となる。




