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280話 「縄張り争い2」

それから少し時間は流れ、フォルセイリアの街の中。

まだ暑くならない内にと買い物を済ませた加賀とうーちゃんが宿の前の大通りをダラダラと歩いていた。


「もー……暑くてやんなっちゃうねえ」


うー(りんごあいーす)


時期は真夏であり、比較的涼しい午前中とはいえ暑いものは暑い。

汗で張り付いたシャツの襟袖をぱたぱたと動かし少しでも涼もうとする加賀。

それに対し全身毛皮で覆われているうーちゃんはまったくもって平気そうであった。今もリンゴが入った袋を抱えて嬉しそうにスキップしている。


「うーちゃん元気ね……あれ、なんか騒がしい? それに……何だろ、ドラゴンさんの尻尾焼き見たいな匂いするね」


うーちゃんを羨ましそうに見ていた加賀であるが、宿の方がどうも騒がしいことに気が付いた様である。

ドタバタとした物音や、誰かの大声が宿の外まで聞こえていた。


「ただいまー。どったの?」


「加賀、お帰り」


還ってきた加賀をいつも通りに迎えるアイネ。

だがそれに反して宿の中は酷く混乱していた。


「ポーション持って来い! 一番良い奴だぞ!」


「おい、火傷用のやつものだ! ゴートンのとこいけば貰えるだろっ」


「ど、どうしたの……うあっ」


普段燻製小屋にいるバクスや、たまたまダンジョンに行かず休みを取っていた探索者達が慌ただしく動き回る。

ふと、彼らの中心にいる人物に視線を向けたとき加賀の口から悲鳴が漏れた。


「一酷い……一体何が」


何時も宿魚介類を届けてくれるリザートマンの一人が腕に酷い火傷を負っていたのだ。

鱗や皮膚は爛れ、赤い肉が見え隠れしている。酷い部分は真っ黒く炭化してすらいる。


『私からお話し致します』


そんな凄惨な光景を見て真っ青な顔をした加賀へと残りのリザートマンが声をかける。


「汽水湖にドラゴンが2匹も!?」


リザートマンの口から汽水湖にドラゴンが現れた事を聞き、驚き声を上げる加賀。

それを聞いた探索者達は治療の手を止め、ぎょっとした表情を浮かべていた。


『はい……暫くは水中にいる水竜様と対峙していたのですが……水中にいてはまともに手出し出来ないと分かったのでしょう、2匹の竜は岸辺にある我々の住処に攻撃を仕掛けてきたのです』


「何でそんな……」


聞けば水竜を陸地に誘い出す為、水竜の攻撃がギリギリ届かない範囲で街に向けブレスを放ったとの事。

ブレスは建物に命中し、燃えて崩れ落ちた一部がリザートマンを直撃したそうだ。

水竜はその光景を見てリザートマン達を守るため陸へ上がり2匹の竜と対峙したとの事。


『……そして2匹の竜を止めるため岸辺に上がった水竜様は……』


「や、やられちゃったの……?」


『いえ、まだです……ですが、1対2でしかも相手は飛竜です……水竜様がいくら強いとは言え、水中ならともかく陸上では』


「……ど、どどどうしようっ!?」


水竜はまだやられては居ないが1対2と言うこともあっていずれやられてしまうだろう。

知り合いがピンチと分かった加賀の動揺は大きい。


「加賀、落ち着いて……」


「で、でも……」


アイネが加賀の肩にテヲオキ落ち着かせようとするが加賀の動揺は治まらない。


「大丈夫。うーちゃんがやる気になってるもの」


「うぇっ?」


アイネの言葉に驚き横を見る加賀。

拳を握ったうーちゃんが素振りする姿がそこにはあった。


「う、うーちゃん……だいじょぶ?」


うっ(よゆーよゆー)


心配そうに声をかける加賀に対し、ぽむと自らの胸を叩いて見せるうーちゃん。

それだけでは益々不安になる光景ではあるが、加賀は以前うーちゃんがドラゴンをボール扱いして蹴り飛ばしていたのを覚えている。不安を何とか抑えるとうーちゃんの手をぎゅっと握りお願いねと呟くのであった。


『おお、ご助力頂けるのですか……何とお礼を言えば良いか……』


うー!(さかなはわたさーん!)


加賀とうーちゃんのやり取りでうーちゃんが手助けしてくれると分かったのだろう。リザートマンは感極まったような視線をうーちゃんに向け、うーちゃんはそれに答える様に? 腕を上げて見せた。


『おお……何と仰っているのでしょうか?』


「え゛っ……ぎ、義によって助太刀いたす、と」


『おお……!』


「……」


うーちゃんの言葉をそのまま伝えるのは憚れる。加賀は咄嗟に思いついた言葉をリザートマンへと伝えた。

アイネのじとっとした視線が加賀に突き刺さる。

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