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277話 「宿に足らないもの?4」

「お邪魔しまっす」


「……色々置いてあるね?」


狭い店の扉を押し開け店内へと入る二人。

店の外観からは分からなかったは中は思ったよりも広かった。

その店内に様々な楽器が並んでいるが、盗難防止の為だろうか、半分以上は厳重そうなケースに入っていたりする。手にとって眺める事が出来るのは恐らくは安物だけだろう。


「……いらっしゃい」


店の奥にいた店主がちらりと二人へ視線を向けたが、すぐに興味を失ったように視線を手元に移す。

どうやら楽器のメンテ中だった様である。


「何買うつもりー? ギター?」


「うん……やっぱギターかな。ちょっと見てもいいですか?」


「構わんよ……ああ、実際弾いてみるのならそこに置いてある奴でやっとくれ」


八木の目当てはギターであった。

見てもいいかと尋ねる八木に店主は壁際にあるギターを指さすと再び視線を手元に戻しメンテを再開する。

八木は指示された壁に立てかける様にして置かれたギターを手に取ると少し音を鳴らし、首を傾げた。


「うぃっす……んー? これ、チューニングしても?」


「……ほう? 構わんよ音叉ならそこにある」


音がずれていた様で音叉を使ってチューニングする八木。

先程まで興味なさそうにしていた店主であったが、チューニングする八木を感心した様子で眺めていた。


「手慣れてるねえ」


「そりゃ何度もやったからなあ、2年近く触ってないけどこんぐらいなら……こんなもんかね」


なんどかチューニングを繰り返し納得がいったのかギターを持って立ち上がる八木。


「ねね、あれ弾いてよ、あれー」


「あれ?」


八木がギターを弾けることを知っている加賀。

過去に弾いている場面を何度も見ており、レパートリーもある程度把握している。

その中から自分の好きな曲をリクエストした様だ。


「おま、2年振りだってのにまた難しい曲を……」


ただその曲は難しい曲であるらしく、八木は弾けるかなと自信なさげに呟くと集中する様に息を吐いた。



「ちゃんと弾けるじゃんー」


「兄ちゃん、見た目に似合わず上手いじゃないか……」


「だはは……」


パチパチと拍手する加賀と店主。

八木は照れ臭ささを誤魔化すように頭をかくとそっとギターを元の位置へと戻す。

誰でも触って良いように置いてあるだけあって、品質はやはりいまいちであった。


「ギターってここに有るので全部ですか?」


「店にあるギターはこれだけだな」


他にギターは無いのかと尋ねる八木。

店主も聞かれるのが分かっていたのだろう、八木が声をかけたときには既に店の奥からケースを幾つか引っ張り出してきた所であった。


「ん……これ八木が使ってたのに似てるね」


「そうだな、大きさも丁度良い……」


ケースを開け中を確認する二人。

その内の一つが八木が使っていたギターとよく似ていたらしい。

二人のやり取りを見守っていた店主に八木が視線を向けると、店主はコクリと頷いた。


「弾いてみても構わんよ」


「どもっす」


ケースに入れて奥に仕舞っていたのだ、間違いなく良い品だろう。先程までの八木の行動から弾かせても問題と考え許可を出した様だ。


「いいなこれ……お幾らですか?」


実際弾いてみた感じかなりしっくりきたようだ。

他にも試していないギターがいくつかあるが、八木のキラキラした目からはもうこれに決めた事がはっきりと読み取れた。


「よし、買った」


「おー、即決」


店主が口にした値段を聞いて目を丸くした加賀。

そしてそれを聞いて即決した八木を見てさらに目をまん丸くする。


「たぶん一品物だし、買っておかないと後悔しそうだからなー」


パチパチと拍手する加賀に理由を話しながらお金を用意する八木。

元から多少高い買い物になるのを見越していたのだろう、持ってきた財布にはお金がぎっしりと詰まっていた。


「その通り、次は何時入荷出来るか分からんでな……このまま持って帰るの危ないでの。配達するよう手配も出来るがどうする?」


八木から受け取ったお金をしまい込むとギターをケースごと八木に手渡す店主。

高級品故にそのまま持って帰るのでは無く、配達することを八木に勧める。

メインストリートはともかくやはりこの辺りは決して治安が良い訳では無いのだろう。


「んー……一応護衛? 居るんで大丈夫っすよ」


「そうか、ならええ」


護衛がいると言うとあっさりと引く店主。

姿こそ見えないが店の周囲にはデーモンが多数いる状況だ、何かしら気付いたのかも知れない。


「嬉しそうだね」


「おう、思ってたのよりずっと良いの買えたからな! 夜が楽しみだぜ」


ギターケースを背負いニコニコ顔で道を行く八木。

久しぶりにギターを弾ける事、それに探索者達はきっと喜んでくれる事だろう。

ギターを弾きながら皆で酒を楽しむ、そんな光景を想像しながら二人は宿へと戻るのであった。

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