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274話 「宿に足らないもの?」

朝の仕事を終え、部屋へと戻り着替えていた加賀であるが、扉をノックされた音に手を止めそちらに顔を向ける。


「加賀~入っていいー?」


「んー……ほい、いいよー」


ノックしたのは八木であった。

加賀は取りあえず途中まで穿いていたズボンを上げきると、八木に声を掛ける。


「加賀~PC借りていい?」


「ほいよー」


八木の目当てはPCである。現状加賀しか充電できない為、自然と加賀の部屋にPCがおかれているのだ。

加賀の許可を得た八木は嬉しそうにPCの電源を立ち上げた。


「出かけんの?」


八木がPCを立ち上げている間に加賀は着替え終えていた様だ。

先程とは変わっている上着を見て八木が声をかけた。


「うん、ちょっとチーズとか在庫少なくなっててねー」


「昨日がっつり食ったしなー……また食いたいなあ、チーズフォンデュ」


カバンの中身を確認しながら八木の問いに加賀は答える。

暑い時期にどうかとは思うが昨晩はチーズフォンデュが提供された様である。

その為、宿のチーズの在庫が心許なくなり買いに行くことになったのだ。


「またその内ね、涼しくなったらかなー……っと、うーちゃん待ってるし行ってくるねー」


「気ーつけてなー」


カバンを持って部屋を出る加賀を見送った八木。

さてと、と呟くとPCに向かい何やら調べ始める。




「アイネさんおはよーっす」


「お早う」


調べ物が終わったのかそれとも途中かは分からないが、加賀が買い物に行ってから暫く経った頃、八木がPC片手に食堂へと入ってきた。

食堂にて休憩していたアイネに声をかけると辺りをキョロキョロと見渡す。


「あれ、加賀はいないのかな?」


「まだ買い物から戻ってないね」


「ありゃ、そっかー」


加賀に用事があったのだろうが、加賀はまだかえってきていなかった。

チーズを取り扱う店が遠いのと他にも買い物をしているからだろう。


「どうかしたの?」


「いや、ちょっと食べたい物が……これなんすけど」


PCを開いてアイネに画面を見せる八木。


「……かき氷? それならすぐ作れるよ」


画面に映っていたのは暑い時期に美味しいかき氷である。

普通のかき氷であれば氷はすぐ用意できるしシロップもある為すぐ作れるが、八木の求めていたのは少し違うようだ。

アイネの言葉を聞いた八木はいやいやと軽く手を振ると画面をすっと指さした。


「この練乳掛かったのが……」


「ん、そっか……加賀が戻るまで時間あるし、少し調べて見るね」


「頼んますっ」


シロップだけでは無く果物に加えて練乳も掛かったかき氷を八木は食べたかった様である。

色々とお菓子を作ってきたアイネではあるが、練乳は作ったことがなかったらしい、八木からPCを受け取ると作り方を調べ始める。



「……」


「アイネさーん?」


無言で画面を見つめるアイネに背後から声が掛けられた。

いつの間にか加賀が買い物から戻っていたのだ。


「……ん、お帰り」


集中してて加賀が帰ったことに気付いてなかったのだろう、振り返り視界に加賀を納めたアイネは軽く笑みを浮かべ口を開く。


「ただいま。それ八木がお願いしたやつかな?」


「うん、作り方は簡単みたい」


鍋をへらか何かでかき混ぜる動画を見ながらアイネに尋ねる加賀。練乳は作るだけならそう難しくは無いらしい。


「おー、それじゃ今日のおやつはそれかなー?」


「そうだね、少し手伝って貰ってもいい?」


「もっちろん」


そうと分かれば話は早い。

二人は早速厨房へと向かうのであった。



「俺イチゴが良い」


「私はオレンジかな」


「ふむ……ならバナナにしてみるか」


うー(りんごー)


食堂に集まった従業員らが口々に食べたい果物の名を言っていく。

それをアイネが牛乳に混ぜ込むと一気に凍らせてかき氷を作る道具へとセットする。

あとはひたすら削り、シロップをかけ果物を並べて練乳をかければちょっと豪勢なかき氷の完成である。


「んっ……おいしーね」


「ふほほほ」


味については当然不味いわけも無く。

スプーンでかき込んでは頭を押さえるといった光景が暫く繰り返されていた。


「思ったより減らないねー」


空になった容器にスプーンを置く加賀。

加賀は1杯だけだが他のものは2~3杯は食べている、だが練乳はあまりかさが減った様には見えなかった。

日保ちするかなあと呟く加賀に対しアイネが声をかけた。


「ちょっと作って見たいのあるから大丈夫、半分は夜の分に取っておくね」


「りょうかーい。皆で食べるなら丁度良さそうだね」


半分にした上で30人以上で食べれば恐らく使い切ることは出来るだろう。




「あ゛ぁ゛ぁ~……」


「一気に食べるから……」


「まったく……ほれ、イチゴは出来たぞ」


頭が痛くなるのは分かっていても食べる速度を落とす気は更々無いらしい。

頭を抱えて蹲る探索者達に呆れた視線を向けながらもバクスは氷を削り続けた。


「あ、そうだバクスさん」


「む?」


一息ついた所でヒューゴがバクスに声をかけた。

バクスはお代わりかと新たな氷をセットしようとしたが、ヒューゴの用事は別にある様だ。


「あ、いやお代わりじゃなくて……食堂にさ、あれ置いたりしないのかなって気になって」


「あれ?」


あれと聞いてバクスの側に居た加賀がスプーンを持つ手を止め首を傾げる。

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