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272話 「小遣い稼ぎ」

ある日のダンジョン前の広場にて、入場の順番待ちをする探索者達の列の中に明らかに異質なものが存在していた。


「……おい、あれ」


「あ? ……なんでウサギが」


人々の頭上からぴょこんと飛び出た白い耳が二つ、それにたぷんと柔らかそうなお腹が横に飛び出ている。

探索者に紛れて何故か巨大な兎が列に並んでいる。そんな光景にこの街に来て間もない連中は錯覚ではないかと目をごしごしとこすっている。


何故巨大な兎……うーちゃんが探索者達と一緒に列に並んでいるのか? 時は少し前まで遡る。



探索者達や従業員達も朝食を食べ終え、加賀はアイネと一緒に洗い物をしていた。

洗い終わった食器を加賀が仕舞っているとカバンを手にしたうーちゃんがいそいそと玄関へと向かって行くのが目に入る。


「ん、うーちゃんおでかけー?」


忙しい夕方などはうーちゃんも厨房へとヘルプに入るが、比較的暇な午前中は加賀と一緒に買い物にいったり、屋台を出したり、時折散歩に行ったりと割と自由に過ごしたりしている。

今日はカバンを持っている事からおそらく買い物にでも行くつもりなのだろう。そのあたりは加賀もぱっと見で理解するが、一応声は掛けておく様だ。


うー(かいものー)


「ほいほい、きをつけてねー?」


予想通り買い物である事が分かり軽く手を振りうーちゃんを見送る加賀。

うーちゃんは加賀に見送られ鼻歌交じりで玄関へと向かう。

加賀と一緒に買い物に行くのも良いが、一人で好きに買い物するのもそれはそれで好きなのである。


うっ(りんごー)


宿を出て真っ先に向かったのは八百屋である。

肉屋もすぐ側であるが、大体いつも決まったものが置いてあるので一人で行く際にはあまり行くことはない。

その点八百屋は季節によって商品が入れ替わり、時折珍しい物も並んでいたりするのでうーちゃんとしてはそちらに行くほうが良いのだろう。


その日は真っ赤に熟れたリンゴが店頭に並んでいた。

うーちゃんの好物であり、早速買おうと財布を取り出したうーちゃんであったが……財布の中を覗き込んだ瞬間、うーちゃんの体に電流が走る。

財布の中身が悲しい事になっていたのだ。


(1こだけ……)


小銭を数えてみれば買えるリンゴは1個だけと分かる。

自分一人で食べるなら……一人で食うにしても1個では足らないが、それに加え宿には加賀を始めとした従業員達がいる。

うーちゃんはカバンに財布をしまい込むと宿へと元来た道を戻っていく。リンゴを独り占めする気はうーちゃんには無いのだ。


「ん? お帰りー?」


先程出かけたばかりなのにもう戻ってきた事に首を傾げる加賀。

そんな加賀にうーちゃんは近寄るとぺしぺしと肩を叩きだす。


うー(おやつとすいとー)


「おやつ? クッキーなら追加しといたよー……水筒かな? 御茶でもいれとこか」


加賀が指さした先にはうーちゃん専用のお菓子の箱があった。

中には焼き菓子を中心に様々なお菓子が詰め込まれている。


うー(わふー)


「あ、また出かけるのね……遅くならない内に帰るんだよー」


お菓子の箱と受け取った水筒をカバンに詰め込み再び外へと行くうーちゃん。

そして場面は冒頭へと戻る。



「おいおいダンジョン入っていったぞ……」


「回りも気にしてないし……どうなってんだ?」


ダンジョンの入り口に立つギルド員にギルドカードを見せスキップしながら中へと入るうーちゃん。

何名かは呆然とその光景を眺めているが、大半の者はあまり気にしてない様子である。

割と良く見る光景なのだろう。


うー(てい)


ダンジョンを爆走するうーちゃん。

そこを邪魔する様に時折現れるモンスターであるが、うーちゃんが軽く蹴りを入れるだけで全て爆散していく。


何度か小部屋を覗き込み、何も無ければ次に行くを繰り返していたうーちゃんであるが、やがて宝箱がある小部屋へと当たったようだ。


早速とばかりに中へ入ると側に居たモンスターに蹴りを入れ、箱に手を掛け一気にぱかっと開けてしまう。


う(ぺい)


次の瞬間、飛び出した矢がうーちゃんの額めがけ飛んでいく。

だがうーちゃんはそれを軽くはたき落としてしまう。


うっうー(はこーはこー)


上機嫌で箱の中をごそごそと漁るうーちゃんであるが、やがて何かを見つけたのかすっと手を引っ込める。

その手には綺麗な宝飾のされた指輪が握られていた。

うーちゃんはカバンに指輪を押し込むと次の部屋へと向かっていく。


いくつか見て回ったところで前方から何やら争う音が聞こえてくる。

当然ながらダンジョンはうーちゃんの貸し切りという訳では無い。歩いていれば他の探索者達と出会うことは割と良くある事だ。


「絶対後ろにはいかせるなよ!!」


「おうよ!」


二股に分かれる道の少し手前で探索者達が全身に鎧を着込んだモンスターと戦闘を繰り広げていた。

数的には探索者達の方が多いが、単体ではモンスターの方が強いらしくかなり慎重に戦っている様だ。


うー(おやつおやつ)


一瞬スルーして先に進むことも考えたうーちゃんであるが、そうすると後でトラブルに成りかねない。うーちゃんはひとまずその場で休憩する事を選んだようだ。

コポコポと音を立ててコップに御茶が注がれていく。

カポンと軽い音と共に開いたお菓子の箱からクッキーを数枚取り出す。


うっ(うまー)


足をぱたぱたさせながらクッキーをパクつき、お茶をぐいっと飲む。

ぷはーっと美味しそうに息を吐いた所でモンスターの一体がうーちゃんに向かい武器を振りかぶり迫って行く。

どうも先程の行為がモンスターのヘイトを稼いでしまったらしい。


「! おい、そこのっ……うさ」


う(てい)


戦闘中の探索者がそれに気が付き声を上げる。

勿論言われるまでも無くうーちゃんはそれに気が付いていた様でそのへんに落ちていた石を拾うとモンスター目がけて放り投げる。

モンスターの頭が爆散した。


「……っぅおおおお」


その光景に探索者どころか残ったモンスターも思わず無言で立ち尽くす。

いち早く復活した探索者が無防備になったモンスターの隙を突いて斬り掛かり、それを切っ掛けにして戦闘はものの数分で決着がついた。


「……」


複雑な表情を浮かべた探索者達の横をひょいひょいと歩いて行くうーちゃん。

このダンジョンでは時たま見かける光景である。


うっ(はこー)


何個目かの小部屋で再び箱を発見した様だ。

今度の箱には高そうな宝石が入っていた。

嬉しそうにカバンに宝石をしまい込むと元来た道を引き返して行く。

ダンジョンにはお小遣い稼ぎに来たのであって別に攻略をしに来た訳では無いのだ。

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