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271話 「すたこらさっさ」

会議や晩餐会も無事に終わり、参加者達は皆帰る準備を始めていた。


「よいしょっと」


何台も並んだ馬車の内の一つ、八木や加賀達が乗ってきた馬車へと荷物を積み込み探索者や宿の従業員達。

だがその場に八木と加賀の姿は無い。


「二人はまだ部屋?」


「そっすね、まだ出てきてねーっすわ」


二人は昨日のあれから部屋に籠もったきり出て来ていない。

皆がカードゲームで盛り上がる間もずっと布団に包まっていたのだ。恐らく今もそのままだろう。


「そろそろ出発するのだけど……」


そう言って馬車に積み込んだ荷物を見るアイネ。

元々持ってきた荷物に加え褒美として渡された様々な物、それらのほとんどの荷物は積み込み終わっており、残りはアイネの私物が幾つかと八木と加賀の荷物のみだ。

そして二人の荷物はまだ部屋の中であり、二人が来ないことには出発の準備が終わる事は無い。


「あー、じゃあ私呼んでくるよー。もう荷物積み込み終わったし」


「お願いするね」


まだ積み込み作業中のアイネを見て作業を終えたシェイラが部屋へと向かう.

部屋の前につくとコンコン扉をノックし、返事も待たずに扉を勢い良くあけた。

中にはやはりと言うか白っぽい丸まった物体が二つ、ベッドの上に転がっていた。

その内の片方がシェイラの声に反応してもぞもぞと動き出す。


「おっーい、二人共~そっろそろ出発すっきゃああぁぁっ!?」


身を起こしたそれは丸まった布団では無かった。

にゅっと長く伸びた耳に赤いつぶらな瞳、巨大な兎の見た目をしたそれはシェイラの方を見ると首がぐりんと180度回転し、下にぶらりと垂れ下がる。

よく見ると皮はダルダルになっており中身はスカスカに見える。そして時折内部から何かが突き出ようとしているか皮をぐいぐいと押し上げていた。


「っ!? な、なにっ?」


「あぁぁっ!? って加賀っちかい!」


シェイラの声に驚いたのか加賀が声を上げる。

声の出所は兎の様なものからであった。


「なんだぁ!? どうし……っうおあぁっ!?」


騒ぎを聞いて駆けつけた者達が部屋の中を覗いて悲鳴を上げる。

そんな中でアイネだけは冷静であった。


「あ……私の着ぐるみ……」


「それ、綿でも詰めておいたら良いと思う……そしたら見た目ましになるから」


どうやら加賀は例のうーちゃんのかぶりもの……その完成形を布団代わりにしていたようだ。

着ぐるみと分かった一同はため息をつくと疲れた様子で馬車の方へと戻るのであった。



見送りに来た者へ手を振り街を出た一行。

街道を暫く行ったあたりでぼーっと景色を眺めていた加賀がポツリと呟いた。


「そういやさ、結局あれなんだったんだろうねー」


「本当な。 まじで怖かった」


加賀に相槌を打つ八木。

目の前で消えるところを見てしまっていただけに彼の心のダメージは大きそうだ。


「特にデーモンから報告も上がってないし……ん、ちょっと皆集まって」


デーモンから報告は無いと言うアイネであるが、少し気になる部分があったのかデーモンに達に集合をかける。


「何か報告する事ない?」


ずらりと並んだデーモン達に問いかけるアイネであるが、デーモン達は特に思い当たるところが無いのか互いに顔を見合わせ首を捻っている。

やはり何も無いか、そうアイネが考えデーモン達を散開させるべく指示を出そうとした時、一人だけおずおずといった様子で手を上げる者がいた。


「……大した事じゃないんですが、二人に近付いた連中を隔離してあるんですけど、どうしまあだだだっだだ!?」


「……どうして言わないの」


デーモンの顔面を鷲づかみにしたアイネの指がメリメリとめり込んでいく。

常人なら頭が潰れるであろう力がこめられているがデーモンは持ち前の頑強さを発揮し何とか耐える。

だが痛いものは痛いらしい、そのまま気絶する事も出来ず二人が止めに入るまで苦しむのであった。



「ど、どうしよう?」


馬車の床に気絶してピクリとも動かない男女4人前が寝かされていた。

珍しく動揺したアイネがオロオロした様子で二人へと話しかける。


「……見なかった事にして埋める?」


アイネに尋ねられ落ち着いた様子で頷き、口を開く加賀。

一見落ち着いている様に見えた加賀であったが頭の中は色々と混乱しているらしい。


「いや、それダメだろ……こっそり戻すしかないんじゃ……」


「……そうしようか」


一番落ち着いていたのは八木であった。

4人はデーモンにまかせ一行は馬車の速度こっそり上げるのであった。

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