267話 「ただめし」
国際会議が開催される都市は大きかった。
フォルセイリアはもちろんシグトリアと比べても遜色ないどころかずっと大きい。
恐らくこの近隣諸国の中では一番の大きさを誇る都市である事だろう。
「おー……おおー」
「命、あまりキョロキョロしないの」
街中へと入った一行であるが、その都市の大きさに初めて訪れる物は皆きょろきょろと興味深そうにあたりを見渡していた。
「……フォルセイリア並とまではいきませんが、さすがに結構凝った建物多いですね」
「見覚えのある建物がいっぱいあるなあ」
「これ、八木の設計した建物か……そういやどれも真新しい建物ばっかだ」
八木の事務所で請け負った仕事の中にはこの都市関係の仕事もあったようだ。
真新しい家のほぼ全てが八木にとって見覚えのある建物ばかりである。
「去年来た時と比べて大分街並みが変わっているね……とは言っても変わったのはメインの通りだけの様ね。他は以前と変わっていない」
「まだ手つけてないんだろうな」
ただ街が大きいせいか、それともフォルセイリアに比べ開発が始まったのが遅かった為か、真新しい建物はメインの通り沿いのみとなっている。
「それでは我々はここでお別れです」
「皆さん道中の護衛ありがとうございました」
会議の会場であるこの街で一番大きな建物……要は城を前にして護衛の面々は一向にそれぞれ一言挨拶をすませると本来の主の元へと帰って行く。
「あー……気が重いな」
「ここまで来ておいてもう手遅れだ、諦めろ」
「晩餐会までまだ時間が掛かりますのでな、それまではこちらで御寛ぎください。護衛の方々にも部屋を用意しておりますので……どうぞこちらへ」
こうして一行は晩餐会に参加する事となった。
そして結果から言えば晩餐会事態は特に問題なく終えることが出来たと言える。
ただ会話の端々に隠す気のなさそうな思惑が見え、加賀と八木の二人が精神的に大分疲れる事とはなる。
「一年振りに国際会議に参加して見ればこの街並みの代わり様! いやはや驚きました……ところでこれらは全て八木殿が携わったと御聞きしてますが……」
「ははは……」
自分の所の街がまだ八木が設計した図面を入手していなければ、無理やり……では無いが断りにくそうな言い回しで仕事の依頼をかけたり。
「素晴らしく芳醇な香り……ただ甘いだけではなく苦みとの調和が素晴らしい、見た目も落ち着いた色の中に艶のありこれもまた素晴らしいですな」
「ありがとうございます……そのお菓子ですけど」
「ぜひ我が国でもこの様な素晴らしい菓子が広まれば良いのですが、どう思いますかな? そうそう、実は今度講師をお招きしようと考えてしましてな……」
加賀であれば講師として呼ぼうとしたり。
最も菓子に関してはアイネのレシピがほとんどだと分かると蜘蛛の子を散らす様に加賀の元を去っていったが。
「彼らの服を全て!?」
「女性物もですよね……?」
「……他にどういった服が御座いますの?」
ただ咲耶に関しては周りに集まるのは咲耶が作った服に興味のある女性のみ。
話はおおいに盛り上がり、結果として男性陣がほとんど寄り付かず一見すると平和そうに見える。
「母ちゃんの所だけ平和だ」
「……そうかあ?」
一時的に開放されようやく飯にありつけた二人。
皿を片手にぼーっと咲耶の方を眺める二人。
「あそこだけ男が寄り付かない、すごい」
「一人いるぞ……目が死んでる」
平和に見えたが一人だけ逃げ遅れた人物がいた様だ。
おそらく誰かの旦那さんであろうが、逃げ出すタイミングを逃し咲耶を囲む輪の中から抜け出せないでいた。
その顔は人生を諦めたような、どこか遠くを見るその目は魚の様で、二人はそれを見てすっと距離を取るのであった。
「疲れた……今日はもう寝よう」
晩餐会も終わり、疲れたように宛がわれた部屋へと戻る加賀。
全てが全てああいったやり取りであった訳では無いが偉い人に囲まれて食事と言うのはそれだけで気が張るものである。
ふらふらとした足取りで部屋の前へと加賀、その背後から声をかける人物がいた。




