264話 「何か届いたらしい4」
「サイズ合ってなければ手直ししたいから一度試着して貰ってもいいかしら?」
さりげなく言われた咲耶のそんな一言。
それが一体何がどうしてそうなったのか、咲耶のハイテンションと一部の者の悪乗りによってただの試着だったそれがいつの間にかファッションショーの様なものへと変貌してしまっていた。
「本当にやるのか……」
「えーそれじゃあ、晩餐会コーディネートの発表会を開催しまーす。どんどんぱふぱふー」
受け取った服を手にポツリと呟くバクスであるがその呟きは加賀の声により流されてしまう。
「順番はくじ引きで決めたよー。それじゃ最初はバクスさんどーぞっ」
バクスの手元に置かれた一枚の紙、そこには小さく1と書かれていた。運が良いのか悪いのか、バクスは一番手を取ってしまったらしい。
「まじでやるのか……まあ良い、さっさと終わらせるぞ」
そう言うと服を持って一度食堂の外へと向かうバクス。
次に入って来た時には晩餐会用の服装へと着替え済みである。
「おー全体的に黒を使ってシックな感じですね。落ち着いた感じでグッドだと思います。夏向けと言うことで薄手の生地を使っているので体のラインがよく分かるあたりご婦人への受けも良いのではないでしょうか。さりげなくポーズを決めているあたり慣れが見受けられて涙を誘いますね」
食堂へと入ったバクスは数歩進みそこで一度立ち止まると全身が見えるようにゆっくりとその場で回り、そして再びポーズを取って動きを止める。
尚、この間いっさい表情が動いてない。
「それじゃバクスさん皆に向けて何かあれば一言どーぞ」
「ご婦人の前で着せ替え人形になることを思えばこの程度どうと言うことは無い」
「いじょーバクスさんでしたー。はい拍手」
ぱらぱらとまばらに拍手が行われ、バクスは空いているテーブルへと向かい椅子に腰掛ける。
それらを見送った加賀はぐるりと首を回すと次の者へと視線を向ける。
「じゃ次ヒューゴさん」
「待って。お願い、待って」
バクスの次はヒューゴであった。
自分の名を呼ばれるも待ってくれと懇願するその顔はかなりマジである。
「あれまじでやるの? きつすぎるんだけど!? てっかバクスさん鋼のメンタルすぎんだろっ」
「別にポーズ取らなくてもいいのよ?」
大勢の前で新しい服を着て披露する。
あまりそういった経験がない者にとってはかなり精神的にきついものがある様だ。
かつて咲耶と二人で留守番していたバクスがげっそりと痩せていたのはまだ記憶に新しい。
「いや、ポーズがどうとかじゃなくて……」
皆の前で着ること自体が恥ずかしい、そう言いそうになるヒューゴであったが咲耶の何か期待するその視線を受けて、ぐっと出掛かった言葉を飲み込む。
「諦めたらあ? どうせあとで皆に見られるんだし、遅いか早いかだけでしょー」
「シェイラのやろう……くっそ、わーったよ!やってやんよ!」
ニヤニヤと意地悪そうな顔でヒューゴを煽るシェイラ。
やけになったのかヒューゴは服を掴むと食堂を飛び出していった。
「ん、それじゃー次はヒューゴさん。張り切ってどぞー」
加賀のセリフにあわせて食堂へと入ってくるヒューゴ。
普段の服装よりも大分派手目な服を着て静かに前に進んでいく。
「……」
「……」
「何か言えよぉっ!?」
無表情でじっとヒューゴを見つめる視線。
誰も何も言わない空間の中、つい耐えきれずに叫ぶ。
「あ、ごめん。コメント思い浮かばなかった」
「うん、いいんじゃない?」
「黙ってればまともに見えますよ」
「て、てめーら覚えとけよ……」
口々に好き勝手なことを言う連中を前に口元をひくひくさせるヒューゴ。
そんな感じで結局夕飯の時間になるまでショーは続くのであった。




