262話 「何か届いたらしい2」
夕方になり宿へと戻った八木であるが、早速とばかりに着替えと風呂道具一式をもち風呂へと向かっていた。
「あ゛ぁー……やっぱ風呂いいなあ。たまらんわ」
湯船につかりおっさん臭い言葉を口にする八木。
だがそれを気にとめるものは誰も居ない。湯に浸かる度誰もが同じ様な言葉を発するからだ。女湯とて例外ではない。
風呂で汗を流しさっぱりした八木は風呂から上がり食堂へと向かう。
冷えた酒にうまい飯が待っているとあってその足取りはとても軽い。
「さってはって、冷たいビールが俺を待ってるぜっと……おん?」
食堂の扉をあけ中へと入った八木であったが、入ると同時になぜか加賀が手招きしているのに気が付く。
何か用事だろうかと加賀の元へと向かうとすっとキンキンに冷えたビールの入ったジョッキを手渡される。
「はい、ビールね。唐揚げも今揚がったところだよ。火傷しないようにね」
「お、おう? すまんな……」
テーブルの上には揚げたての唐揚げまでもが準備されていた。
普段であれば席について注文してから運ばれてくるはずであり、何時もと違う対応に戸惑いを見せる八木。
だがビールはきっちり飲む様だ。
「っくあー! うまい! やっぱ風呂上りのビール最高……お、悪いな」
ジョッキを一気に飲み干すとすぐに加賀がビールを注ぐ。
普段と違うその対応もビールが美味しすぎてもう気にならなくなっているようだ。
二杯目のビールを八木がぐいぐい飲んでいるとテーブルの上にコトリと瓶が置かれる。
「八木よ。ほれ、火傷した時用のポーションじゃ」
「あ、ゴートンさん。いいんすか? あざっす!」
瓶を置いたのはゴートンで瓶の中身は火傷用のポーションらしい。これから唐揚げに取り掛かろうとしていた八木にと用意してくれたのだ。
「八木、これやるよ。珍しいダンジョン産の酒だぜ」
「うおっ、こんなのあるんすね! いいんすか貰っちゃって?」
後ろ手に手を振り席へと戻ったゴートンを見て今度はヒューゴが酒瓶片手に八木の元へとやって来る。
ダンジョン産の珍しい酒をテーブルの上に置きこちらも席へと戻っていく。
「これも食べなよ」
「疲労軽減の魔道具だ、使うといい」
「これ解毒剤のいいやつ……あ、このお酒もあげるよ」
「レモンかけてあげる」
「誰ぇっ!?レモンかけたの! ……じゃなくてっ、皆どうしたのさ急に」
そんな二人を皮切りに八木の元へと次々人がやって来る。
共通するのは皆手に何かを持ち八木へ渡して行くと言うことだろうか。
一人か二人であれば珍しいが無くはない。だがこうも全員来る勢いで物を渡されれば八木も疑問に思うのは当然だろう。
そんな疑問を口にした八木に加賀がすっと封筒を差し出す。
「……これ、今日の昼間に届いたんだけど」
「手紙? なんか立派な紙で嫌な予感しかしねーんですけど」
渡したのは昼間に届いた封筒である。
その明らかに見た目からして普通じゃない手紙に八木は嫌な予感をひしひしと感じている様だ。
一瞬見ないことにするとも考えたが見ないと後々面倒くさそうな事になる、そんな雰囲気が手紙から漂っている。
結局八木は諦めたようにため息を吐くと封筒の中から手紙を取りだし読み始めた。
「国際会議に参加要請!? うっそだろ、おい……」
嫌な予感はあたるものである。手紙の内容は近々開催される世界会議、その参加要請であった。
参加と言っても会議そのものと言うよりは、会議後に行われる晩餐会への招待ではあるが……それでも嫌なものは嫌なのである。
八木は手紙をほっぽり出すとテーブルに突っ伏してしまう。
「小麦の精製する機械あったじゃない? あれの関係ぽい」
「あったなそう言えば……あったけどさあ」
八木達が以前オージアスに伝えた小麦の精製する機械であるが、今では周辺の国でも使用されその性能を存分に発揮しているそうだ。それに加えて各国から受けた建築関係の依頼も順調にこなしていた事もあって今回の招待へと至る。
「……」
「無言で肩叩くのやめてえっ」
皆が無言でも八木の肩をぽんと叩いていく。
慰めのつもりかも知れないがあまり効果はなさそうだ。
むしろダメージを受けてすらある。
「あー……まじかあ。まじかよお……あれ?」
「ん?」
テーブルに置いたままの封筒を泣きそうな目で見ていた八木であったが、ふと何かに気が付いた様に封筒へと手を伸ばす。
「もう一枚入って……あ、こっち加賀宛だわ」
「ぎゃー!?」
ごそごそと封筒を漁る八木の手に一枚の紙が触れた。
封筒のごてっとした装飾で気が付かなかったのだろうか、封筒の中にはもう一枚手紙が入っていたのだ。
どうやら加賀も一緒に行く事になりそうである。




