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259話 「見つけてしまったもの5」

「……あの音声何とかならんかったのか」


無機質でどこか抜けた感じのする音声にそう呟く八木。

先程までの激しい戦闘、勝利した悦びや感動が色々と台無しである。


「……ん、なんにせよ勝って良かったよ……ほんと心臓に悪い」


「……本当な」


アイネが強いとは分かっていた。

だが腕が切り飛ばされたり体を槍が貫通したりしていたのだ、見ている方は相当ハラハラしていた様で、加賀は力が抜けたように椅子にへにゃりと座り込む。


「どうだった? 楽しめた?」


「アイネさんお疲れさま! すごかったよー……でも無茶はしないでね?」


「無茶はしたつもりは無かったのだけど……そうね、次があれば最初からちゃんと戦うね」


恐らくはやろうと思えばアイネはすぐ決着を付けることは出来たのだろう。

ただせっかくだからと二人が楽しめるようにわざと戦闘を長引かせていたらしい。

結果として盛り上がりはしたが二人を不安にさせてしまった訳だが。次があれば最初からきっちり戦うことだろう。


「それで賞品は何貰えるのかな」


思い出したように像の方を振りかえるアイネ。

賞品らしき箱はまだ最初の位置に置かれたままである。


「あ、そうだった! 何だろ、西瓜とか?」


「何故に西瓜?」


「食べたかったから」


「さいですか……」


賞品を思い出しぱっと表情を明るくする加賀。

何故かは知らないが西瓜が食べたいようである。

西瓜を食べたい加賀を軽くスルーし八木は像へと視線を向け、少し困ったような表情を浮かべる。


「ところでさ、あの状態でどうやって賞品渡すんだろな」


「ん……無理くない?」


賞品を渡すと言った像であるが、アイネに半分に千切られた上に両手がない状態である。

当然その状態で動けるはずもなく、賞品を取るどころかその場から動けてすらいないでいた。


「そこに居るのは神の落とし子でしょうか?」


「へ? あ、はいそうっす」


「?」


じーっと二人が像を眺めていると不意に二人に向かい像が話しかける。

どうやら英語で話しているようでアイネは言葉が理解できず首を傾げている。


「では緊急時用に主が残したメッセージをお伝えします。……このメッセージが流れたと言うことは守護者が魔力切れで動けなくなったと言うことだと思う。申し訳ないが魔力を補充するか魔石を譲って貰えないだろうか? 礼と言っては何だが外で育てている作物を好きなだけ食って貰って構わない。 外の作物の世話もこの守護者が兼任してて魔力が切れると世話するものが居なくなってしまう。外の作物を少しでも気に入ってくれたのなら魔力の補充をお願いしたい……」


「……ぉぅ」


「どうしたの?」


「ええーっと……」


話を聞き終わり額を抑え黙る八木。

話し終えたのを見て何があったのか尋ねるアイネに加賀がざっと話の内容を伝えるのであった。


「……もう食べちゃったね」


「お礼を先に貰っちまったなあ」


ついちょっと前に全員で梨を馬鹿食いしたばかりである。

お礼の先取りをしてしまったとうんうん唸る八木を見てアイネが口を開く。


「魔力を渡しても良いけどお腹が空くし……魔石なら私持っているよ。これを使おうか」


「アイネさんすまねえっす」


「後で返すねっ」


どこから取り出したのか黒く鈍い光を放つ魔石を差し出すアイネに礼を述べる二人。


「いいよ私の手作りだし……そうね、それじゃ後でお菓子作るの付き合って貰おうかな」


「もちもち」


一体どうやって作ったのかは不明であるが、魔石はアイネの手作りだったようだ。

後で返すと言う加賀に断りを入れるがえーっといった表情を浮かべたのを見て、お菓子作りに付き合うよう話すアイネ。

加賀もそんなのでよければと承諾する。


「んじゃ、はい魔石だよー」


「ありがとうございます」


ぱかりと開いた像の口?にアイネから受け取った魔石を放り込む加賀。

取り込まれた魔石により魔力が回復したのだろう。像に千切れたはずの下半身や腕が生えてくる。


「おぉ直った……」


像の体が直ると同じくして床が再び揺れると今度は上昇を開始する。

元の高さまで戻ると像は宝箱の元へと向かうと一番小さな箱を取り、すっとアイネへと差し出した。


「それではこちら賞品になります。見事私めに勝った方にはこの金の箱を進呈致します」


「金……?」


「見た目普通の箱だけど……とりあえず開けてみようか」


像は金と言うが見た目は鉄と木材で作られた箱にしか見えない。

予算不足かそれとも時間が足らなかったのか……ともかく3人は箱を開けに掛かる。


「種? と紙だ」


「紙は説明書だね……」


中身は実にシンプルであった。

何かの種と紙切れが入っているだけである。

少しがっかりした様子を見せていたアイネだが、すっと紙を取ると声を出しながら中身を読み始める。

紙に書かれていたのはこの種が何であるかとその使い方であった。


「何それすごい。ちっさい頃絵本でそんなの読んだ気がする」


「すごいけどそれ大丈夫なの? 腐ったりしない??」


説明を聞いて驚きの表情を浮かべる二人。

種は神の落とし子が作ったと言うだけあって中々にすごいものではあった。

細かい部分は省くが、種を料理に埋め込むと発芽しやがて木へと成長する。そして成長した木の枝には最初に植え込んだ料理が実るというのだ。

そんな種が5つある。


「育つまでどれぐらい掛かるのかな? ずっと世話する訳にはいかないと思うの」


「およそ3~4ヶ月で御座います。 ご安心ください、世話でしたら私めにお任せを」


問題は育つまでどれぐらい掛かるかとその間世話をしなければいけないと言うことであった。

だが世話に関しては全て像が受け持ってくれるとのこと。詳しく聞けば像は普段は植物の世話をして、建物に近付く者がいれば守護者として待機する。そうやって今まで過ごしていたとの事だ。


「それありがたいね」


「それじゃお願いごとしちゃうとして……何にするよ」


「帰って相談かな……あ、皆には内緒にしといて驚かせようか。食べたい料理だけ聞いておいて」


「……そうしようか」


世話の問題が解決すればあとはどの料理にするか選ぶだけである。

3人は自分達だけでは決めず、皆の意見を聞いて決める事にしたらしい。

像に一旦種を預けるときっちり梨は回収して宿へと戻るのであった。

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