244話 「精霊2」
くりっとした目で加賀を見上げるように見つめる火トカゲ。
その可愛らしい姿に思わず手を伸ばし、すんでの所でぴたりと止める加賀。
「ねね、シェイラさん。触っても平気なのかな?」
「大丈夫だよ。ほら、床も別に焦げてないでしょ」
「……ほんとだ」
加賀は火の精霊と言うことで触れたら火傷なりするのではと不安になった様である。
だがシェイラの言葉を聞いて床が何とも無いことを確認すると火トカゲに再び手を伸ばす。
「……んっ、すべすべしてる」
表面の鱗のような部分は非常に滑らかな手触りで、じんわりと温かな体温と合わさり中々触り心地が良い。
「大人しいね……ここ気持ちいいのかな」
火トカゲは逃げたり嫌がったりする素振りは見せない、それどころか頭を撫でる加賀の手に頭を押しつけるようにぐいぐいと押している。
「そだ、八木にも見せたげよ」
一通り堪能したところで八木の事を思いだした加賀。
テーブルに突っ伏した八木はまだぐったりしてはいるが起きてはいるようだ。
「ほーら八木。火の精霊さんだよー」
「……おう」
加賀は火トカゲを八木から見えるように顔の側へと置く。
火トカゲは少しのあいだ八木の顔を眺めていたかと思うと何かしら興味を惹かれたのか八木の方へとゆっくり近付いていく。
「あの、むっちゃ顔舐められてるんですけど」
「懐かれたんじゃない?」
「よかったね八木っち」
良い匂いでもするのかそれとも何かしら良い味がするのか、まるで犬か何かのように火トカゲは八木の顔をなめまくる。
懐かれたんじゃないとの一言に八木も満更ではない様子だ。
「じゃー次は……水の精霊さんかな。どんな見た目なんだろ、楽しみー」
次に姿を見せた水の精霊であるがこれがまた中々に迫力のある姿であった。
「おぉ……巨大魚だ」
「えっ、うそ……え?」
体長4m程の巨大な鎧を着込んだ様に見える透明な魚が空中にぷかぷかと浮かんでいる。
その姿を見て加賀や八木は感嘆の声を上げ、シェイラはその姿を見て驚いているようだ。
「んー? ……え、ずるはだめって……あ」
八木の顔を舐めるのをやめ、水の精霊に対し抗議するように前足でテーブルをてしてし叩く火トカゲ。
どうやら何かを喋っているらしく、八木が耳をそばだてその内容を何とか聞き取る。
どうやら火トカゲは水の精霊に対しずるをするなと言っているようだ。
「火の精霊さんに負けないように格好いい姿に変えたらしいー」
「あーなるほど。だよねびっくりしたよ、見た目全然違うんだもん」
巨大魚の姿から丸い水饅頭のような姿へと変化した水の精霊。
火の精霊が最初にインパクトのある姿で登場したのを見て自分もと思ったらしい。
不定形であるため様々な姿に変えられるようだが、水饅頭が本来の姿である。
「……すべすべしてる。精霊さん共通なのかな」
「それはないと思うけど……私も全部に触ったことあるわけじゃないからなー」
火トカゲに続いて水饅頭のもその手触りはとても滑らかであった。
「次はー風の精霊さんねー」
「ばっちこーい」
水饅頭を撫でまくりご満悦の八木。魔力切れの気持ち悪さも無くなったようで次はどんな精霊が来るのかと待ち構えている。
「わっぷ」
「あ、やっぱあの時うっすら見えたの気のせいじゃなかったのか」
急な風が二人を襲う。
風が収まり二人が目を開けるとそこには宙に浮かぶ半透明な女性の姿があった。
そしてその姿に加賀は見覚えがあった。
「あのとき?」
あのときとは何かと尋ねるシェイラにこの世界に来た初日の出来事を聞かせる加賀。
「へーそんな事あったんだ」
「あの時は皆本当にありがとうね、助けて貰ってなかったら今頃ここに居なかったよ」
遠目で見え難かったが半透明な女性は恐らくその時助けてくれた精霊の内の一人だろう。
加賀と八木は改めて精霊に感謝の言葉を伝えるのであった。
「じゃ、次は土の精霊さんー」
ノリノリで呼んだ土の精霊であったが、ここで二人にとって嬉しい誤算が生じる。
「……まさかの女性タイプ!」
「うっひょお」
「何その反応……二人ともどんなの想像してたの?」
目に見えてテンションのあがる男二人。
それを少し呆れた様子で見るシェイラ。
一体どんな姿を想像していたのかと問われた二人は一瞬顔を見合わせた後揃って答えを返す。
「ゴートンさん」
土の精霊と聞いて二人に共通して思い浮かぶのはドワーフの姿であった。
「精霊さんいっぱい居るんだねえ……」
「そうだよー。まだ私の知らない精霊だってたぶん居ると思うよ?」
その後も何体もの精霊を呼び出した加賀。
樹の精霊や雪の精霊、花だったり石だったりと実に様々である。
だがそれだけ呼んだにも関わらずまだ精霊は存在するらしい。
「へー……じゃあ、まだ出て来てない精霊さん、姿見せて~」
それならばと思い立った加賀はまだ姿を見せてない精霊に姿を見せるよう呼びかける。
その直後、あたりが徐々に暗くなって行く。
光源からの光が弱くなっていくのだ。




