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240話 「一人で出来るもん2」

巨大なチーズを籠に入れて機嫌よさげにスキップしながら店を後にするうーちゃん。

その様子を露店で安酒をあおっていた男達の視線が追いかける。


「おい、みたかよあれ。兎が買い物してたぜ」


彼らは春になり雪が溶けたのを見計らってこの街へとやって来た探索者達である。

この街である程度過ごしていれば何度も見かける事となる光景、だが街に来たばかりの彼らにとっては初めて見る光景である。


「つーかあれモンスターだよな、なんで街中にいんだよ」


「……それよりあいつ結構な金持ってたよな」


酔っ払った彼らの目にはうーちゃんはお金を持ったモンスターにしか見えないようだ。

赤くなった顔に下卑た笑みが浮かぶ。


「おい、お前らバカな事考えんなよ? あの兎は――」


彼らが何をしようとしているか気がついたのだのだろう。同じく露店で安酒を飲んでいた者が席を立つ探索者達に声を掛ける。


「――っおい! ……ちっ、おいお前ら避難しとけよ」


だが彼らはその声に反応する事なくうーちゃんの後を追っていく。残された男は露店にいる知り合いに避難するよう声を掛け、自分も早々に避難を始めるのであった。



「へっへっへっ」


「なんで街中にモンスターがいるのか知れねえが……ま、運が悪かったと思って大人しく死んでくれや。財布の中身は俺らがありがたく頂いてやっからよお」


いかにもチンピラですと言った風貌に言動。

道行く人々はトラブルの予感を察知して距離を置くようにチンピラを中心に人が居なくなっていく。

いつの間にかガン無視してたうーちゃんすらも居なくなっている。


「って無視すんなや! ……っこの糞うさああああぁっ!?」


初めてのお使いにトラブルは付きものなのかも知れない。だが通常であればうーちゃんにとっては彼らの存在などトラブルにすらなり得ない相手である。


しかし食材に手を出そうとするのなら話は別だ。

男がうーちゃんの後ろから背中に背負った籠に蹴りを入れようとした瞬間、ぱっとうーちゃんの姿がかき消えたその直後、男の目にうーちゃんの耳が突き立っていた。


「こいつ何しやがああああああ!?」


一人がやられたのを見て剣を抜いて斬り掛かる男達。

だが斬り掛かった剣はうーちゃんが軽く前足で触れただけで砕け散る。そして男の目に耳が突き立てられた。


「こ、こっち来るんじゃねぁああああ!?」


皆やられてしまい一人残された男は剣をブンブンと振り回しながら後ずさる、だがそんなものは威嚇にすらなりはしない。剣は砕かれ残された男の目にも耳が突き立てられる。




通報を受けた警備隊の面々が現場に集まってくる。

だが暴れていたと言う連中の姿はなく、代わりに地面に頭から下が埋もれ、悲痛な叫びを上げている男達の姿があった。


「くっそうるせえ……なんでこいつら地面に埋まってんだ?」


うるさそうに顔をしかめ、そう呟く隊長格の男。

それに反応して早めに現場へと向かい、辺りの者から事情を聞き集めていた隊員が調書を見ながら口を開く。


「……例の兎に手を出したそ――」


そこまで言った瞬間隊長格をはじめとした警備隊の面々の蹴りが地面に埋もれた男達の顔をとらえる。


「――うです。ですが居たのは兎だけだったようであの店や店主には害はなかったそうです」


「はよ言え……おい、引っ張り出して詰め所連れてくぞ。手伝え」


携帯スコップを使い穴を掘って男達を掘り出し始める隊員達。

気絶した男達が手当を受けるのはしばらく後になるだろう。

隊員達は加賀の屋台の常連だったりするのだ。



「おう、いらっしゃい……ん? お前さんだけか?」


あの後何事もなかったように買い物を続けたうーちゃんであるが、最後に宿のすぐ側にあるオージアスのパン屋へと入っていく。


「お使いとは偉いな。 ……そいつか? ライ麦を使ったパンだな……ああ、チーズとの相性は抜群に良いぞ」


目当ての物は決まっているようで店に入るなり普段あまり食べることのない黒パンの元へと向かっていく。


「お、買うのか? ……おう、これお釣りな。毎度あり~」


これで必要……と言うかうーちゃんの食べたい食材は一通りそろった。食材がたっぷりと詰まった籠を大事そうに抱え宿へと戻るのであった。




うーっ(ただまー)


「おかえりーっていっぱい買ってきたねえ」


食堂の扉を勢い良く開け中へと入るうーちゃんを出迎えた加賀。

予想以上に大量の食材に驚いているようだ。


「美味しそうなチーズ……」


籠に入っていたチーズをめざとく見付けるアイネ。

チーズを始め、乳製品は彼女の好物である。


「ほんとだ、すごいの買ってきたねー。 んー……察するにラクレット食べたいのかな?」


大量のチーズとそれ以外の食材。それらを見た加賀はうーちゃんが食べたい物を何となく察する。

実際ラクレットであっていたようでうーちゃんは嬉しそうに高速で首を縦に振っている。


「いいよー。夕飯にはちょっと出せないからお昼はそれにしよっか」


チーズを溶かすのが手間なので大人数に出すのには向いていないが、少人数で食べる分には問題は無い。

こうしてうーちゃんの初めてのお使いは無事完了したのであった。


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